20―初の魔物戦
半年ほど前に、西の森に突如として出現したとされる地下迷宮。
俺たちはその西の森の一画、芝の生い茂る開けた場所に現れた大穴の中へと颯爽と滑り降りた。
穴の底には騎士団が嫌がらせのように落とした縄梯子と魔法使いが創り出しただろう土階だった瓦礫が転がっているだけで、他には人為的に作られたような物はなにひとつ存在していなかった。
「ご丁寧に階段まで崩していくとは、余程俺たちが邪魔なんだろうな」
足元に残された多くの足跡に騎士団がダンジョンに潜った事は間違いなく、また瓦礫と化した土階と切り落とされた縄梯子から、騎士団たちの俺たちに向けられている警戒心が高いことを窺い知れた。
吹き抜けとなった穴底は以外にも深く、太陽が穴の真上にくるまでは常に日陰になってしまうようだ。
断崖となっている岩壁には分隊が一塊になって入れるほどの大きな洞窟の入り口が開いており、中は陽の光が届くことのない闇が待ち構えていた。
ひとり穴底の状況を把握しているところ、
「ロロアちゃん、それ返してもらっていいかな」
「あ、うん。ありがと」
穴底に到達すると眼前にダンジョンの入り口が出迎えていたため、ロロアは颯爽と滑り降りてからは気持ちが呑まれてしまったで、ちょこんと盾の上で三角座りをしたまま開かれた洞窟と睨めっこをしたまま固まっていた。
ライドが声でようやく意識が覚醒したかのように、その洞窟の入り口から視線を外して立ち上がった。
盾から降りると、ふんっと鼻息を鳴らして盾を勢いよく持ち上げてはみるが、手に持っている側を持ち上げるのが精一杯なようで、ロロアよりも大きなその盾は持ち上げれなかったようだ。
借りるときも受け取ったというよりは、受け流しすように地面に転がしていたからな……
「んんん。はやくとって!」
顔を赤くしながら重たい盾を頑張って持ち上げようとしているロロアの姿に、ライドは盾をぞんざいに扱ったロロアへの意趣返しでもしている気分になっているのだろうか、ニヤニヤ顔を浮かべて、今受け取るからなー、と口にしながらもその行動は時間を掛けようとしているのがわかる。
ソロリと腰を落としていき、ゆっくりと手を伸ばすその姿に、
「早く受け取ってやれ」
中腰になっていたライドの背後から刀の柄でコツリと被っていた兜を叩くと、へいへい今受け取りますよー。と腑抜けた態度で声を溢した。
すると、
「もうむりだね」
「ちょっ!?」
潔く持ち上げるのを諦めて盾から手を離したとき、伸ばしていたライドの手を巻き込んでガチャンと鉄音を上げ地面との間に挟まれてしまったようだ。
挟んだ手は手甲をしていたので怪我はしなかったようだが、盾の扱い雑すぎないか……などと小さくぼやいているところ、俺とロロアの二人から送られた冷たい視線に目を合わさないようにして気づいていない素振りをみせた。
「ま、まあ盾は丈夫にできてるから問題ないさ」
盾を拾い上げると、気を取り直して先へ進もうか! と大人気ない自身の態度を無かったことにしようとしていたが、
「そだね」
ロロアは不満だったらしく、ライドに向かってジトーッとした視線を飛ばしたまま、一応は先を行くことに了解していた。
「行くとするか」
俺が先に進み洞窟内に入ると、後を追うように二人も続いた。
入り口付近は辛うじて外からの薄明かりが届いていたが、少し足を延ばしただけですぐにも視界は不明瞭となり暗闇に呑まれた。
「俺に任せてくれ」
先ほどの行為に対して名誉挽回と言わんばかりに、暗闇をどうにかすると、ライドの声が後方から投げかけられた。
鎧の腰部分に荷袋を括り付けていたライドは中から短い松明を取り出すと、火打石をカツカツと叩きながら火花を散らせ、先端に油を湿らして捲かれていた布切れに灯りを燈した。
「中は暗いから準備したきたんだ」
メラメラと揺れる松明の灯りが洞窟内を照らし出すと、天壁は湿り気のある青白い岩壁が剥き出しとなっている。
足元は多少なりにも足場が悪く、所々にあるヘコミには天井から垂れたのだろう水滴で若干の水溜りができていた。
どうだ? 少しは役に立ってるだろう? とでも言いたかったようで、ロロアちゃん足元が見やすくなっただろう。と背後で口にしているのが聞こえてきた。
進むに連れて声が洞窟内を反響しだすと、暗闇はより一層濃くなっていく。
「松明だけでは心許無いな。【光球】」
視界が松明の灯りだけでは足りなくなってきたので光球を出現させて宙に浮かせると、不明瞭だった岩陰も確認できるほどに辺りを明るく照らしだした。
そのまま光球を自分の位置よりも少し先で浮かしたまま歩みを進める。
「松明いらなかったかな……」
照らし出された岩壁がゆらゆらと揺れる影を造り出しているところを見ると、ライドは松明を掲げたままなのだろう。
時折天井から垂れる雫がポチャンッと水音を鳴らし耳に届く。
すぐ後ろに続くロロアから、
「すごくあかるいね」
と賞賛の声がかけられたところで松明だけでは光量が足りず気がつかなかったが、先に続く洞窟は左右に枝分かれていた。
二手に分かれた場所まで到達した俺は一旦足を止めて、どっちに進めばいいのか後ろに居るライドに確認を取ろうと振り返る。
「ライドは七階層まで行ったんだろ? これはどっちに進めばいい」
「どちらも同じ場所に繋がっているが、左は迂回路になっていて無駄な時間を使ってしまう。右は直線だが途中に一角ラビットの群れが棲みついている空間がある」
地下七階層まで進んだライドのパーティーはトトたちを発見していない。となると、やはり地竜の居る階層よりもさらに深くまで進む事になるだろう。
そうなると数日をダンジョン内で過ごす事も十分有り得ることだろうが、安全を確保しつつ長期攻略に持ち込んだところで、結局は長居をする分だけロロアも危険に晒してしまう可能性があるのは確かだ。
「時間を無駄にしないよう最短距離で下層に進む。危険があるのはダンジョン内ではどこに居ようが当然のことだ。ロロアを頼むぞライド」
「おう! ロロアちゃんは俺が必ず守ってやるさ」
ロロアはライドに守られるのが不満なのか、ロロアでも持てる盾があればな。などと口にしたところ、ライドが項垂れたのがわかった。
俺ってそんなに信用ない? と漏らしたところで、ロロアのジト目がさらにライドを襲ったようだ。
そもそもこんな小さな子に意趣返しなんて大人気ないことするからだ。自業自得だバカ。
二人の茶番も済んだようだったので、右の道を選び進み始めた。
いくら視界良好と言っても、いつ何が襲ってくるかわからないのがダンジョンなので【探知察知】【危険察知】を常時発動させておくことにした。
するとさっそく赤い光点が無数に現れ、
「止まれ! なにかくる……」
光球でも照らせていない先の暗闇から微かだが、ガサガサと無数の足音が耳に届いてきた。
探知察知で敵が居ることを確認していなければ、この足音に気づけたかどうか……
それに無数に聞こえる足音だけでは複数居るのだと誤認してしまうところだったが、俺たちの方へと迷わず進んで来ているのは赤い光点がひとつだった事で単体だとわかった。
意識はその単体の何かに注意を向けながらも、他に表示された多数の赤い光点はその場に留まったままなのだと把握する。
何かの足音が次第に大きくなっていくと、すぐに光球が向かってくる魔物を照らし出した。
岩壁を伝い暗闇の中から現れたそいつを見て「でかいな」と口にした俺は、その姿を前に刀を抜いた。
「ロロアを頼むぞ」
抜刀して黒刀を構えた俺は、現れたそいつを凝視した。後ろから、もちろんだ! とライドからの返答を背中で受け止め相手の出方を探る。
俺の存在を認識したそいつは、駆けていた勢いを殺して忍び寄るように俺を警戒しながら間合いを詰めてくる。
いくつもある目が光球に反射したところで、そいつは忍び寄る足を止めた。
互いの間合いを悟ったのか、俺とそいつの中央天井付近で光球は浮遊したまま、駆ければ互いに仕掛けられる距離を保ちあった。
睨み合ったまま動かない俺たちを見て、その間にライドはロロアと共に後方に下がり背後の警戒を強めたようだ。
「来い! 蜘蛛野郎」
無数の足音は八本の足を持つ巨大な蜘蛛だった。胴体は一メートル程だが、足の長さを合わせると全長三メートルはあるだろう。
紫色をした外殻は鎧のように硬そうで、黒い眼球をした両目の間にさらに四つの小さな目玉が四方に配置され、光球の明かりを反射させながらこちらを凝視していた。
洞窟といった陽の光が届かない暗所に生息する蜘蛛は目がなく、そういった目のない蜘蛛を無限と呼ぶ場合もあるのだと自身の持つ知識から蜘蛛に関する情報を思い出していた。
無限は目がないかわりにあらゆる感覚器官が発達しているのだが、六つ眼の視覚に頼るこいつはそれほど厄介な相手ではなさそうだ。
魔物に一般的な蜘蛛知識が役にたつのかはわからないが、俺が飛ばした声に反応したようで、足を止め凝視していた巨大蜘蛛は完全に俺へと狙いを定めたようだ。
俺のことを捕食対象にしか見ていないだろうそいつは壁伝いに勢いよく向かってくる。
初動は巨体のわりに思った以上に速く俊敏で、瞬きする間に光球の位置まで移動していた。
足を止めて睨み合っていた間に、浮遊する球体は害意がないと判断したのだろうか、光球を気にも留めずにさらに壁伝いに接近を続ける巨大蜘蛛。
俺は距離を詰めてくるそいつの行動から近接戦を狙っているのだと安易に思い込んでしまった。
悠長に間合いを計るため前方に構えていた刀、俺はすでに戦いが始まっているのだと意識すると、初の魔物戦に緊張しているのか、ゴクリと生唾を飲み込み巨大蜘蛛から漂う圧に呑まれそうになってしまった。
すると近接戦がご所望なのだと延ばしていた肘を畳み、肩位置で構えなおした直後、岩壁から天井に向かって跳ねるように飛び出した。
すでに相手の出方を待っていた俺は後手に回っていたようだ。
宙で巨体を捻らせながら、門が開く様にパカリと開いた両顎から細かい蜘蛛糸を束にしたものが噴射された。
迎撃する気でいたために不意を衝かれた格好になってしまった俺は、たまらず噴射された糸を刀で受け取めた。
「チッ!」
刀身に巻き付いた蜘蛛糸は物凄い力で引っ張り寄せてきて、俺はおもわず舌打ちを漏らしながらも踏み止まるので精一杯だった。
巨大蜘蛛は腹側の先端、様は尻から糸を出すイメージがあったが、魔物はどうやら俺の知る蜘蛛とは異なった生態だったようだ。
引っ張られ耐える俺に、まるで掛かった魚を釣り上げるように巨大蜘蛛は顎を引いては戻し、微かに糸が緩んだところで無数の足をジタバタとさせて後退しながら俺を釣り上げようとしていた。
少しずつだがズルズルと引き寄せられていく様に、
「かじゃみ!」
「心配するな。俺は強い」
苦戦する俺の姿に思わず叫んだのだろう。
ダンジョンに入って早々に心配させてしまうとは。こんなところで苦戦している場合じゃないよな。
大技を繰り出せばこの洞窟が崩落することは想像に難くない。してみると、ここは手数で攻める方がよさそうだ。
「まずはこの糸をなんとかしないとな」
命の掛かった魔物戦に萎縮してしまっていたのだろうが、よくよく考えてみればVRでも俺は頭で考えて戦うタイプではなかった。
まだレベルも低かった頃、ただレアドロップアイテムや、難易度の高いマップに移動するためだけに高威力武器が欲しくて何度もボス戦をソロでこなしていた。
もちろん討伐したボスから直接、武具が手に入る仕様ではなかったので、鍛冶スキルを習得し手に入れた素材に歓喜しながら生産していたを思い出す。
ギルドに所属せず野良パーティーも滅多に組まない俺はソロ活動に限界を感じていた時期もあった。
ダンジョンに潜るたび、回復役がいないことでボス敵の大技は絶対回避が必須条件になり始めていた頃、ただ一点、プレイヤーの全てがそうしているように、俺も同じく心掛けていたことがある。
それはどんな難敵でも大技の前に見せる予備動作だけは見逃さないよう細心の注意を払いつつも、決して攻撃の手を休めないことだ。
ゲームでは敵の攻撃を受けてもHPが削られるだけで、痛覚オプションをONにしないと痛みすら感じない。
だから攻め続ける事ができるが……
「やるしかないよな」
グイグイと引き寄せようとしてくる巨大蜘蛛の姿に、自分が捕食対象として見られている事に腹が立ってきた。
本来ならば狩る側は俺のはずだと怒りを覚え、握る黒刀に付与されている【迅雷】を発動させた。
刀身は青白い雷を纏い、放電するたびにバチバチと音を発てて巨大蜘蛛を威嚇しているようだ。
纏った雷は刀身に纏わりつく糸を焦がし発火する暇さえ与えずに見るみる消し炭にしていった。
それに対して巨大蜘蛛は警戒したのだろう、右の岩壁から天井、そして今は天井から左側の岩壁へと移動したあと、追撃を避けるように後方へ飛びながら距離を取り地面に着地しようとしていた。
自分よりも強者と戦ったことがないのだろう。巨大蜘蛛は警戒していると言っても、それは自身が傷を負わないための最低限の警戒だけで、俺が瞬時に距離を詰めてくるとは思いもしていなかったようだ。
すかさず【身体強化】を自身に施し、宙を舞う蜘蛛に向かって引いた刀の切っ先を地に向けながら跳躍する。
地を蹴り、踏み込んだ爪先が地から離れた直後、こちらを見据えながら無防備に着地体制に入った巨大蜘蛛が俺の動きに慌てて顎を開いたのがわかった。
「無駄だ」
蜘蛛糸を吐き出し動きを封じようとしたのだろうが、同じ技を二度も喰らうバカではない。そう思った俺を嘲笑うように、開かれた顎から飛び出してきたのは丸められた蜘蛛糸だった。
然程大きくはない白い野球ボールほどの球体状の糸が俺の眉間を狙って飛んできたのだが、気にせずに間合いを詰めようと球体状の糸に接近したところで、想定外にもそれは飛散するように蜘蛛の巣へと形を変えたのだ。
「【炎放射】」
たまらず刀の切っ先を掬い上げながら、噴射するスプレー缶に着火したようにボワッと正面に弧を描く大きな炎を放射した。
炎放射を放った直後、跳躍の勢いが殺され地に着いた俺は、再度跳躍して消えかかる炎の先に居るだろう巨大蜘蛛に向かって掬い上げた刀を一気に振り下ろした。
刀から掌へと伝わった固い骨を幾つも砕いた感触と、グギュー! と悲鳴を上げる巨大蜘蛛の鳴き声に斬ったのだと理解したが、どこか手応えを感じなかった。
それもそのはず、振り下ろした刀は蜘蛛の右側の足全てを斬り落としてはいたが、胴体を斬ったのではなかったからだ。
「外したか」
だがそれでも俊敏な巨大蜘蛛の行動に制限をかけることができた。移動を許せば次はどこから狙ってくることか……
斬った足からは紫色の体液をドバドバと垂れ流しながらも、残っている足でどうにか体制を整えようとしていた。
この状態でまだ戦意を保っているのか、それとも逃げ出そうと残る力を振り絞っているのか。哀れな姿に変貌したそいつの眉間に切っ先を突き立てると、キューと弱々しい鳴き声を上げながら腹底が完全に地面につけ、息絶えたことが見てわかった。
「もう大丈夫だ。巨大蜘蛛は仕留めた」
空を斬って血振りをしたあと、腰に携えた鞘に刀を収めていると、
「けがしてない?」
俺の元へ駆け寄ったロロアが俺の身を案じてくれた。
「大丈夫だ。俺は強いと言ったろ」
「うん、かじゃみすごかったよ。ちゃんとみてたよ」
「そうか、魔物とは血生臭い戦いがほとんどだ。無理して見ていなくてもいいんだぞ」
そんな言葉に、頸を横にふるふると振ったロロアは、
「ううん、ぜんぶみておきたいの」
俺の戦いを最後まで見届ける。それが戦えないロロアの唯一の戦いなのだろう。
勝手にそう思いながらも一歩踏み出し歩き出したところで傍らに寄ってきていたライドが、自身の足元近くで亡骸と化した巨大蜘蛛を見下ろしながら、
「おいカザミ、素材は採らないのか?」
この小さな目玉は素材採取するには数が必要になる。こっちの両目なら即換金可能だがな。などと口にしながら素材を剥ぐための短剣を荷袋から取り出したところだった。
どうやら倒した魔物から素材を剥ぐという慣習があるようで、当たり前のように鞘から短剣を抜いた。
その姿に、
「蜘蛛型の魔物はどれが素材になるんだ?」
俺自身、素材はVRで集めてはいたが、それは倒した魔物が素材やアイテムをドロップするだけで直に剥ぐというものではない。
これから少しずつ、俺は魔物の解体作業を覚えていくことになりそうだが、初見が巨大蜘蛛とは……せめて動物型の魔物のほうがまだ良かったかもしれない。
「まさか、素材を剥いだ事はないのか?」
素材の採集は世の常だという態度に、ないとは言えなかったので、
「あるにはあるが、俺のいた国とは魔物の種類が違うんだ。だから要領がつかめない」
嘘ではないだろう。一応だが討伐はイコール素材採取みたいなものだったからな。
なら教えてやるよ、と松明を地面に置き、短剣の切っ先を巨大蜘蛛の大きな両目に向けながら、
「蜘蛛型の魔物は眼球と毒袋が素材として扱われるんだ。俺もこんな大きな蜘蛛型の魔物は初めて剥ぐが」
躊躇なく目玉と外郭の間に短剣の先を差し込むと、グイッとスプーンでほじくるようにして目玉を刳り抜いて見せた。
デロンと刳り抜いた目玉を短剣の腹に乗せながら、潤滑液のようなものでテラテラとした目玉を俺に見せ、ざっとこんなもんだと口にしながらそれを地面に置いた。
同じようにしてもう片方の大きな目玉も刳り抜くと、斬っていない足を掴み巨大蜘蛛の腹部を上に向け仰向けにする。
「小さな目玉は採らないのか?」
「蜘蛛の目玉は違う素材と調合して薬にするらしくてな、小さな目玉は数が必要になるんだ」
買い取る側の事情も説明してくれながら、仰向けにした巨大蜘蛛の胴体中央部分にある外郭の繋ぎ目に短剣を突き刺した。
そのまま手が入るぐらいの大きさに切り裂くと、
「このまま一気に胴体を開けば簡単に毒袋が採れる」
腹の方は開いても糸しか出てこないから無駄だが、と口にしたライドは両手で強引に腹を開いて、これがそうだと言葉を漏らしながら胴体の中にあった毒々しい黒紫色をした塊を取り出した。
これはロロアには見せちゃダメなやつだと思い、視線を向けてみたのだが、思いのほか平気なようで胴体の中を覗き込んでいた。
おもわず俺も胴体の中を覗いてしまったが、思っていた以上にグロテスクかった……
「外郭は斬ろうとしても硬いから手で開くほうが楽なんだ。よーし、これで完了だ」
目玉二つと毒袋一つが素材として入手できたが、命がけで戦っても、この素材では銀貨一枚にも満たないらしい。
あくまでも普段の蜘蛛型はもっと小さく採れる素材も小さいから値は低いが、これだったら大きさ相応の値がつくかもな、と付け足していた。
「これはカザミのものだ。受け取りな」
俺はライドから剥いだ素材を受け取り鞄に収納し、勉強になったと言葉を添えながら手拭いを渡してやった。
問題は無数に居る魔物の方だ。やはり探知察知では移動はしていないようだが、数が多いのは面倒だ。
「この先は魔物の巣窟になっているようだ。数にして十数体は居る」
ライドにそう説明すると、さっきも言ったが以前通った事のある一角ラビットがいる空洞だろうと応え、
「一角ラビットがそれだけいるという事は、騎士団は左から進んだんだろうな」
そうのようだ。と相槌を打っておいたが、動く様子がまったくない事に違和感を感じながらも、先へ進むことにした。




