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ひとりぼっちの勇者たち  作者: 長月イチカ
教室の隅のブレイバー
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47/53

◆4


◇ ◆ ◇


 雲ひとつない晴天だった。

 これなら天国まで迷わず行けるかな。そんなことをぼんやり思う。

『陽太は陽太なりに、勇気を出したみたいだよ』

 そう言う日向さんの顔は“お兄さん”の顔をしていて、どこか晃良さんと似ている気がした。

『きみは、どうする…?』

 空っぽの屋上。もうここには誰もいない。そう、誰も。

『……あたしももう…行くわ…』

 響くアナウンスの音が、空気をビリビリと揺らしていた。今あたしの体は、ここには無いのに。

 だけど体中に電流が走っているようだった。

 まるで彼の心が、放っているみたいだった。

『彼の体も、ちゃんと返してあげなくちゃ…それに…』

 顔を上げて、日向さんをまっすぐ見つめる。

 このひとはずっとここに、居るのだろうか。…ずっと、ひとりで。

『彼をもう、ひとりにはできないから。…約束、したの』

 晃良さんに、訊かれた。あたし達はどんな関係だろう。

 ただのクラスメイトではなくなった。だからと言って友達ってわけでもない。だけど確かなことがあった。

 お互いが必要としている限りは、ずっと。

 隣りに居るって、あの時確かに思ったんだ。


「これから先も、傍に居るって」


 日向さんはゆっくりと微笑んだ。それは春の日差しのようにやわらかくて、温かい笑みだった。

『これから先だってずっと、苦しいことも辛いことも、たくさんある。だけどその度ちゃんと、傷つくんだ。受け止めて、傷ついて、泣いて喚いて…そうしてひとは強くなっていく。そして同時に、やさしくなれる。ぼくはそれが、できなかった。だけどきみなら…きみ達ならきっと、できるよ』

 どくんと大きく心臓が鳴った。今ここにはない、あたしの心臓が。

 あたしの意思を、受け入れようとしてくれている。

『きみ達はもうきっと、見知らぬ“誰か”は求めない。今度は誰かじゃなくて、きみが信じるひとの名を、呼べばいい』

 “誰か”という途方も無い祈りは、やっぱりきっと、そこまで届かないのだろう。

 誰にもきっと、届かなかったのだろう。

 景色が、視界が、日向さんの姿が空に消えていく。それともあたしの方が、消えているのだろうか。

『陽太に、伝えてくれる…?』

 もう上手く声が出せないあたしは、代わりに大きく頷いた。

『17歳、おめでとう』



 瞼を開けるとあたしは、見知らぬ場所に居た。

 なんだか懐かしくも感じるこの感覚。あたし一体、どうしたんだっけ。

 手にはしっかりと何かを握っている。おそらく、マイクだ。

 分厚い壁に囲まれた、機材だらけの部屋。

 そうか、あたし―…

 戻ったんだ。…戻ってきたんだ。

 自分の、体に。この場所に。

「…ねぇ…大丈夫…?」

 すぐ隣りに人が居た。驚いて仰け反った体に力が入らなくて、思わずそのまま地面に尻餅をつく。

「ちょ、ちょっと…大丈夫…?!」

「…は、い…すいません…」

 久しぶりの、自分の体。そう無意識に思うぐらいには自分はきっと“眠って”いたんだなと自覚はある。

 不思議な体験の記憶も、きちんと。

「大丈夫なら、その…」

 目の前の、おそらく放送委員の先輩が心配そうな顔であたしの顔を見やり、それからドアの方に視線を向けた。

「逃げたほうが、いいんじゃない…?」



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