◆4
◇ ◆ ◇
雲ひとつない晴天だった。
これなら天国まで迷わず行けるかな。そんなことをぼんやり思う。
『陽太は陽太なりに、勇気を出したみたいだよ』
そう言う日向さんの顔は“お兄さん”の顔をしていて、どこか晃良さんと似ている気がした。
『きみは、どうする…?』
空っぽの屋上。もうここには誰もいない。そう、誰も。
『……あたしももう…行くわ…』
響くアナウンスの音が、空気をビリビリと揺らしていた。今あたしの体は、ここには無いのに。
だけど体中に電流が走っているようだった。
まるで彼の心が、放っているみたいだった。
『彼の体も、ちゃんと返してあげなくちゃ…それに…』
顔を上げて、日向さんをまっすぐ見つめる。
このひとはずっとここに、居るのだろうか。…ずっと、ひとりで。
『彼をもう、ひとりにはできないから。…約束、したの』
晃良さんに、訊かれた。あたし達はどんな関係だろう。
ただのクラスメイトではなくなった。だからと言って友達ってわけでもない。だけど確かなことがあった。
お互いが必要としている限りは、ずっと。
隣りに居るって、あの時確かに思ったんだ。
「これから先も、傍に居るって」
日向さんはゆっくりと微笑んだ。それは春の日差しのようにやわらかくて、温かい笑みだった。
『これから先だってずっと、苦しいことも辛いことも、たくさんある。だけどその度ちゃんと、傷つくんだ。受け止めて、傷ついて、泣いて喚いて…そうしてひとは強くなっていく。そして同時に、やさしくなれる。ぼくはそれが、できなかった。だけどきみなら…きみ達ならきっと、できるよ』
どくんと大きく心臓が鳴った。今ここにはない、あたしの心臓が。
あたしの意思を、受け入れようとしてくれている。
『きみ達はもうきっと、見知らぬ“誰か”は求めない。今度は誰かじゃなくて、きみが信じるひとの名を、呼べばいい』
“誰か”という途方も無い祈りは、やっぱりきっと、そこまで届かないのだろう。
誰にもきっと、届かなかったのだろう。
景色が、視界が、日向さんの姿が空に消えていく。それともあたしの方が、消えているのだろうか。
『陽太に、伝えてくれる…?』
もう上手く声が出せないあたしは、代わりに大きく頷いた。
『17歳、おめでとう』
瞼を開けるとあたしは、見知らぬ場所に居た。
なんだか懐かしくも感じるこの感覚。あたし一体、どうしたんだっけ。
手にはしっかりと何かを握っている。おそらく、マイクだ。
分厚い壁に囲まれた、機材だらけの部屋。
そうか、あたし―…
戻ったんだ。…戻ってきたんだ。
自分の、体に。この場所に。
「…ねぇ…大丈夫…?」
すぐ隣りに人が居た。驚いて仰け反った体に力が入らなくて、思わずそのまま地面に尻餅をつく。
「ちょ、ちょっと…大丈夫…?!」
「…は、い…すいません…」
久しぶりの、自分の体。そう無意識に思うぐらいには自分はきっと“眠って”いたんだなと自覚はある。
不思議な体験の記憶も、きちんと。
「大丈夫なら、その…」
目の前の、おそらく放送委員の先輩が心配そうな顔であたしの顔を見やり、それからドアの方に視線を向けた。
「逃げたほうが、いいんじゃない…?」




