6
森を抜け、街へと続く帰り道。
俺たちは少しだけぎこちないながらも、ぽつぽつと言葉を交わしていた。
「それにしても、やっぱりソウマのスキルって変だけどすごいわね。ゴブリンの攻撃、まるで見てたみたいにかわしてたじゃない」
「まあ、ちょっとしたコツだよ。相手の動きをよく見てれば、なんとなく分かることもあるだろ?」
攻撃パターンをコピーした、なんて正直に言う必要もない。
幸い、リーナは、
「ふーん、そういうもん?」
と、それ以上は追求してこなかった。
「リーナこそ、なんで冒険者になったんだ? まだ若いのに」
俺が尋ねると、リーナは少しだけ表情を曇らせた。
「……下に弟と妹がいるの。親はいなくて……私が稼がないと、あの子たちが飢えちゃうから」
「……そうなのか」
それ以上は聞かなかった。
やがて街の門が見えてきて、俺たちは冒険者ギルドへ戻った。
カウンターには、さっきと同じ受付嬢――確か、エマさんと言ったか――が座っていた。
「あら、ソウマさんにリーナちゃん、お帰りなさい! ポポ草は採取できましたか? ……って、あれ? 森でゴブリンが出たって他の冒険者が言ってたけど、大丈夫でした!?」
「ああ、なんとか。こいつも手伝ってくれたんでな」
俺は隣のリーナを顎で示す。
「べ、別に、当然のことしただけよ!」
リーナは顔を赤くしてそっぽを向いた。
俺はカゴから採取したポポ草を取り出す。
コピー品は混ぜず、自生していたものだけだ。
エマさんは手際よく品質と本数を確認した。
「はい、ポポ草12本、確かに。依頼達成ですね! こちら、報酬の銅貨5枚です。初めての依頼達成、おめでとうございます、ソウマさん!」
手渡された5枚の銅貨。
これが、俺がこの世界で自分の力で初めて稼いだ金だ。
城でもらった餞別とは違う。
その重さが、妙に嬉しかった。
「じゃあ、私これで」
報告を終えると、リーナが切り出した。
「……その、今日は助かったわ。また……どこかで会ったら、よろしく」
「おう、またな」
俺も手を振り返す。
リーナは一度だけこちらを振り返ると、そのままギルドの人混みの向こうへ消えていった。
俺もギルドを出る。
腹が減っていた。
財布には餞別の銅貨と、今稼いだ銅貨が合わせて十数枚ある。
少しだけ贅沢しようと、ギルド近くの屋台で肉の串焼きを一本買った。
銅貨1枚。
熱々の串焼きにかぶりつきながら、活気のある広場へ歩いていく。
すると、ベンチに座って談笑している男たちの声が耳に入った。
「聞いたか? お城に召喚された勇者様たちの話だよ」
「ああ、なんでも、とんでもないスキルを持ってるらしいじゃないか。『剣聖』だの『大賢者』だの……」
「あの方たちがいれば、魔王討伐も近いかもな!」
勇者様。
俺と一緒に召喚され、俺が追い出されるのを笑ったり、黙って見ていたりしたクラスメイトたちのことだ。
俺は串焼きを噛み締めながら、足を止めた。
あいつらは今頃、城で手厚い保護を受け、英雄として扱われているのだろう。
俺とは大違いだ。
(見てろよ……絶対に、見返してやる)
残りの串焼きを口に放り込み、歩き出す。
今日の報酬5枚と餞別の残りを合わせても、まともな武器や防具を買うにはまだ足りない。
錆びた短剣一本では、次も無事に帰れる保証はない。
まずは、安全に眠れる場所を確保すること。
そして明日からまた依頼を受け、金を稼ぐことだ。
俺は街の裏通り、安宿が並ぶエリアへ向かった。
何軒か見て回り、一番安い木賃宿を見つける。
一日銅貨2枚。
部屋というより、納屋を仕切っただけのような簡素な小部屋だ。藁が敷かれた硬いベッドがあるだけだが、それでも鍵がかかるだけマシだ。
部屋に入り、埃っぽい木の扉を閉める。
まさに、目まぐるしい一日だった。
俺は硬いベッドに倒れ込むように横になった。
全身が鉛のように重い。
だが、疲労の中にも、確かな充実感があった。




