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やがて、視界の先にこんもりとした森が見えてきた。
あれが依頼票にあった「初心者向けの森」だろう。
入口に近づくにつれ、空気はひんやりと湿り気を帯び、木々の匂いが濃くなってくる。
俺は気を引き締め、腰の短剣にいつでも手が届くようにしながら、ポポ草を探し始めた。
依頼票にあった特徴――地面近くに生える、やや丸みを帯びた緑色の葉。そして茎の部分に小さな白い斑点があること――を頼りに、注意深く周囲を観察する。
しばらく森の中を進むと、開けた場所に数本のポポ草が生えているのを発見した。
「あった……! これがポポ草か」
写真で見たハーブに少し似ている。
俺は早速、そのうちの一本に触れ、スキルを発動させた。
(コピー!)
《[ポポ草]をコピーしました。クリップボード容量:6 / 10》
成功だ。
続けて、手のひらに向けて念じる。
(ペースト!)
MPがわずかに減少し、手の中にポポ草がもう一本出現した。
しかし、よく見比べてみると、ペーストして作り出したポポ草は、元々生えていたものより心なしか色が薄く、少し萎びている。
「……完全に同じものが出てくるわけじゃないのか」
少なくとも、生き物や薬草のようなものはコピーすると品質が落ちるらしい。
依頼品に混ぜるのはやめた方がいいな。
俺はコピーした一本を検証用としてカゴの端に分け、自生しているポポ草を探すことにした。
その時、近くの茂みがガサガサと揺れる音が聞こえた。
(……!)
俺は咄嗟に身を屈め、短剣の柄に手をかける。
モンスターか?
あるいは他の冒険者か?
茂みから姿を現したのは、モンスターではなかった。
俺と同じくらいの年頃に見える、赤毛をポニーテールにした少女だった。
動きやすそうな革鎧を身に着け、腰にはナイフを下げている。
彼女の手にも数本のポポ草が握られていた。
少女は俺の存在に気づくと、びくりと飛び退き、ナイフに手をかけた。
「だ、誰!?」
「驚かせてすまない。俺も冒険者で、ポポ草を採取しに来たんだ」
俺は両手を軽く上げ、胸元のギルドカードが見えるようにした。
少女は訝しげな表情で俺のカードを一瞥し、それから自分のカードもちらりと見せた。
「……私もよ! Fランクのリーナ。あなた、もしかして新人?」
「ああ、ソウマだ。今日ギルドに登録したばかりなんだ」
「ふーん、ソウマね。まあいいわ。お互い採取の邪魔はしないようにしましょ」
リーナと名乗った少女はそう言うと、ぷいと顔を背け、再びポポ草を探し始めた。
俺も自分の作業に戻る。
リーナから少し離れた場所で、自生しているポポ草をさらに探していく。
目標の10本まで、あと少しだ。
地面に視線を落としていた、その時だった。
「きゃっ!」
すぐ近くで、リーナの短い悲鳴が上がった。
はっとして顔を上げる。
緑色の肌をした、醜く小さな人型の生物――ゴブリン。
粗末な棍棒を振り上げ、ナイフを構えて後退りするリーナに襲いかかろうとしている。
考えるより先に、体が動いていた。
「おい、こっちだ!」
俺は短剣を抜き放ち、ゴブリンに向かって叫びながら駆け出した。
ゴブリンは俺の声に気づき、その歪んだ顔をこちらに向ける。
背は低いが、筋肉質だ。
ニヤリと口角を上げると、ターゲットを俺に変更し、棍棒を振り上げて突進してきた。
(速くはない……けど、あの棍棒に当たったらヤバい!)
迫りくるゴブリン。
俺はその動きを必死で目で追い、同時にスキルを発動させた。
(コピー!)
《[ゴブリンの棍棒攻撃パターン(予備動作)]をコピーしました。クリップボード容量:7 / 10》
成功した。
頭の中に流れ込んできたのは、未来そのものではない。
肩の上がり方。腰の捻り。足の踏み込み。
今目の前にいるゴブリンの予備動作と、コピーした動作パターンが重なる。
(次は……横薙ぎ!)
「ギャアッ!」
ゴブリンが棍棒を横薙ぎに振るう。
予測した軌道を頼りに、俺は身を低くして紙一重でかわした。
同時に足元の石ころを素早くコピー&ペースト。
生成された石ころを、ゴブリンの顔面に全力で投げつけた。
「ギャッ!?」
石はゴブリンの額に当たり、一瞬怯ませる。
「ソウマ、後ろ!」
リーナの鋭い声。
体勢を立て直したゴブリンが、今度は棍棒を頭上から振り下ろそうとしている。
再び予備動作を見る。
(今度は振り下ろし!)
横へ跳ぶ。
棍棒が地面を叩く。
がら空きになった懐へ踏み込んだ。
(ここだ!)
餞別にもらった錆びた短剣を、皮鎧の隙間へ突き立てる。
「ギィィィイイイ!!」
ゴブリンは絶叫を上げ、棍棒を取り落とした。
緑色の血が流れ出し、痙攣していた体が、やがて動かなくなる。
「はぁ……はぁ……っ」
俺は肩で息をしながら、倒したゴブリンを見下ろした。
初めての、本物の戦闘。
そして、初めて生き物を殺したという事実。
心臓が激しく脈打ち、手の震えが止まらない。
「……すごいじゃない、ソウマ! まさかゴブリンを倒しちゃうなんて……助かったわ、ありがとう!」
リーナが駆け寄ってきた。
さっきまで俺を警戒していたのが嘘みたいだ。
「いや……リーナが注意してくれたおかげだ。危なかった」
俺はまだ震えの残る手で短剣を握り直した。
「それにしても、今の動き……ただの新人じゃないわね? あなたのスキルって、もしかして戦闘系の凄いスキルなの?」
「【コピーアンドペースト】だよ」
「こぴーあんどぺーすと……? 何それ? 聞いたことないわ」
リーナは首を傾げたが、
「まあ、よく分からないけど、役に立つみたいね!」
と、あっけらかんと言った。
俺たちは協力して、ゴブリンの死体を近くの茂みに引きずり込み、目立たないように隠した。
その後、少しだけ打ち解けた雰囲気で、二人はポポ草の採取を再開した。
互いに見つけた場所を教え合いながら森を歩く。
やがて、依頼に出せる自生のポポ草だけで10本を超えた。
検証用にコピーした一本は、カゴの端に分けてある。
「俺はこれでギルドに戻るよ。リーナはどうする?」
「私ももう十分かな。街まで一緒に行きましょ」
二人で森を後にし、街への帰路についた。




