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「これ、後から人間の手で無理やり付け足した部分じゃないか?」
「たぶん、そうです!」
ルナが興奮した様子で頷いている。
「この細い管も、寝台の金属板も、魔石の固定具も新しい。連中は、元々の古代装置に、人間を接続するための機構を後付けしたんです!」
「なら、その後付けされた部分を止めれば……!」
「待ってください」
装置へ手を伸ばそうとすると、すぐにルナに止められた。
「元の装置と後付け部分が、どこでどう繋がって制御されているのかを先に確認しないと危険です。何か異常が起きた時、彼らの体に影響が返ってくる可能性があります!」
「分かった」
俺はもう一度、構造情報へ意識を向ける。
今度は、廃坑でコピーした制御システム情報と比べる。
完全に同じではない。だが、魔力を送る場所と止める場所、その仕組みには共通点がある。
「ルナ、この辺じゃないか?」
装置の下部。何枚もの金属板に隠された、中枢に近い奥を指差す。
「ここから寝台側へ繋がってる」
「外せますか?」
「俺のスキルで物理的に壊すだけならできる。でも、それじゃ何が起こるか分からない」
「そうですね……」
ルナが工具袋から精密な道具を取り出し、俺が指した場所の外側の金属板を手際よく慎重に外していく。
やがて、その奥から古びた制御盤らしきものが姿を現した。
周りの新しい部品に囲まれているのに、そこだけは明らかに年代が違う、重厚な造りだった。
「これ……」
制御盤の中央。そこには、あの紋様が刻まれていた。
平底船で見つけた金属板。水路の壁。そして廃坑の古代機械。
今まで見てきたものと、よく似た幾何学的な紋様だ。
「やっぱり同じ系統なのか……?」
ルナが制御盤へ顔を近づける。
「ソウマさん。ここの文字、見えますか?」
「文字?」
紋様を取り囲むように、細かく小さな記号が並んでいる。俺にはただの装飾か、傷にしか見えない。
「古代文字か?」
「たぶん……」
ルナが指で文字を追いながら、しばらく黙り込む。
「全部は読めません。でも、以前読んだ古代文字の資料に、似た文字があります」
「何て書いてある?」
「これは……『外』とか、『境界の向こう』に近い意味の単語だったはずです」
その隣。
「こっちは、『繋ぐ』……あるいは『開く』かな」
ルナの表情が変わった。
「外とか、境界の向こう……?」
その言葉を聞いた瞬間、俺たちがこの世界へ召喚された時の光景が、一瞬だけ頭をよぎった。
教室を包み込んだ眩い光。
そして、気づいた時には立っていた、見知らぬ城の中。
「ソウマさん?」
「あ、いや……何でもない」
今の言葉だけで、あの召喚と結びつけるのは早すぎる。
「それで、結局何て意味なんだ?」
「まだ分かりません」
ルナが首を振る。
「文字の読み方も完全じゃないですし、どういう意味で使われている言葉なのかも分かりません。ただ……」
ルナはもう一度、制御盤に刻まれた古代文字を見つめた。
「もし読み方が合っているなら……『異界接続』とでも訳すのが近いかもしれません」
「異界接続……?」
「はい。でも、その『異界』が何を指しているのかまでは、私にも分かりません」
異界接続。
意味の分からない言葉なのに、妙に頭に残った。
「ソウマ」
廊下を見張っていたリーナが、足早に戻ってきた。
「悠長に調べてる時間、あんまりないわよ」
「誰か来たか?」
「まだ。でも、さっき倒した連中が定時連絡をしなかったら、いずれ確実に異常に気づかれるわ」
「分かった」
今は『異界接続』なんて言葉について考えている場合じゃないのだ。
目の前にいる三人を助ける。
それが最優先だ。
「ルナ。安全に外せそうか?」
「もう少しです」
ルナは再び配管へ目を落とし、工具を握り直した。
「ソウマさんの構造情報と照らし合わせれば、安全に接続を切り離す手順を絞り込めると思います。少しだけ時間を!」
「頼む」
俺も装置の横へしゃがみ込み、祈るような気持ちでルナの作業を見守る。
その時。
「……やめ……」
寝台の上から、か細い声が聞こえた。
「おい?」
一番手前の男子生徒の目が、ほんの少しだけ開いている。
「大丈夫だ。今ここから助け出すから。もう少しの辛抱だ」
俺が声をかけると、彼は焦点の合わない目で俺を見て、首を振った。
「ちが……う……」
「何?」
ひび割れた唇が、震えた。
「それ……止めたら……だめ……」
そこで、彼は再び力を失うように目を閉じ、意識を失ってしまった。
「おい! しっかりしろ! 止めたらダメってどういう意味だ!」
呼びかけても、もう反応はない。
「何を言おうとしたんだ……?」
ルナと顔を見合わせる。
止めたら駄目。
なら、この装置は何のために三人へ繋がっている?
直後。
研究所のどこか遠くから、重く、低い鐘の音が響き渡った。
ゴォン――。
リーナの表情が険しくなる。
「……まずいわね」
もう一度、鐘が鳴る。
それに続いて、慌ただしい足音が複数の方向から響き始めた。
どうやら、俺たちが入り込んだことに完全に気づかれたらしい。
「ルナ、急いでくれ!」
「はい!」
俺はウォーハンマーを手元へ引き寄せ、立ち上がった。
異界接続が何なのか。
この古代の装置が何をしているのか。
男子生徒が最後に言った言葉の意味は何なのか。
そんなことは、後で調べればいい。
今はただ、どんな手を使ってでも、こいつらを生きたままここから連れ出すしかない。




