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クラスから追放された最弱の俺。最強スキル【コピペ】で成り上がる。  作者: あーる


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 小型船が、切り立った岩壁の奥へと続く細い水路へ音もなく滑り込んでいく。


 外の薄明かりは、すぐに背後へと遠ざかり、深い闇が俺たちを包み込んだ。


「暗いわね……」


 レイカが身をすくめ、小さく呟く。


 両側には湿気を帯びた黒々とした石壁。天井も低く、鍾乳洞のようにところどころから冷たい水滴が落ちてくる。


 船員が灯したランタンの頼りない光だけが、揺れる水面に不気味な影を落としていた。


「こんな場所、本当に砦の内部に繋がってるの?」


「略図が正しければな」


 俺はリーナから受け取った紙片へ、ランタンの光を頼りにもう一度目を落とす。


『旧河川砦 第三搬入口』


 その文字の下に描かれていた曲がりくねった水路は、今進んでいる道と完全に一致している。


「ソウマさん」


 ルナが、船べりから身を乗り出すようにして石壁へ顔を近づけた。


「見てください」


「何だ?」


 ランタンを寄せる。


 苔むした壁の一部に、長方形の細い金属板が埋め込まれていた。そこには、さっき平底船の積荷で見つけたのと同じ、あの幾何学的な紋様が深く刻まれている。


「またこれか」


「はい……」


 ルナの目が、探究心でわずかに輝く。


「かなり古いです。砦が造られた時からあったものなのか、それとも後から意図的に取り付けられたのかまでは分かりませんけど」


「調べられるか?」


「時間をもらえれば。でも、今は――」


「ああ」


 三人の救出が最優先だ。


 ルナもこくりと頷き、壁から身を離した。


 しばらく進むと、水路の先に巨大な鉄格子が見えてきた。


「止めろ」


 船長の声で船が静かに停止する。


 赤錆の浮いた太い鉄格子は、水面から天井までを完全に塞いでいた。


「行き止まり?」


 レイカが眉をひそめ、舌打ちする。


「いや」


 船首にいたリーナが立ち上がった。


「あそこ」


 格子の右横。石壁の影に、人が一人立てる程度の小さな足場がある。そこへ、暗闇の上方から細い鎖が伸びていた。


「開閉装置かもしれないわ」


「俺が見てくる」


「待ちなさい」


 俺が立ち上がろうとすると、すぐにリーナが腕を掴んだ。


「今度はあたしが行く」


「でも、罠があるかも――」


「こういうのは、罠や鍵に慣れてるあたしの仕事でしょ?」


 勝ち気な瞳で睨まれ、俺は口を閉じる。


「……頼む」


「最初から素直にそう言いなさいよね」


 リーナはフッと笑うと、身軽な動作で船から足場へ飛び移った。


 腰を低くして周囲を警戒し、鎖の根元にある金属製の箱を調べる。


「罠は……なさそうね」


 小さな金属箱を開け、中を覗き込む。


「単純なレバーみたい」


「動かせるか?」


「やってみるわ」


 リーナが力を込める。


 ギギギギギ……。


 腹の底に響くような鈍い摩擦音と共に、重厚な鉄格子がゆっくりと上へ引き上げられていく。


「開いた!」


「よし、よくやった」


 船が再びゆっくりと進み始める。


 格子を越えたところで、狭かった水路が急に広くなった。


 そして――。


「……あれか」


 目の前に、巨大な石造りの施設が姿を現した。


 地下の広大な空洞に造られた、秘密の船着き場。


 壁には古びた巨大な石柱が等間隔に並び、その奥には重厚な鉄製の扉が何枚も並んでいるのが見える。


 廃墟、という印象ではなかった。


「……普通に使われてるわね」


 レイカの言う通りだった。


 船をつける石組みの足場には、真新しい荷車。山積みされた木箱。壁の燭台には、燃え尽きたばかりの松明の煤が残っている。


 そして何より、足元の石畳には、まだ乾ききっていない泥の足跡がいくつも乱雑に残っていた。


「間違いない」


 足跡の横にしゃがみ込んだリーナが、確信に満ちた声で言う。


「人が出入りしてる。かなり最近よ」


「貨物船から積み替えた荷物も、ここから運び入れてるんだろうな」


 俺たちは船を静かに岸へ寄せた。


「ここから先は、隠密行動が取りやすい少人数で行く」


 同行していた衛兵の隊長が声を潜めて言った。


「我々残りの者は船を守りつつ、退路を確保する。何かあればすぐ戻れ」


「分かった。感謝する」


 俺、リーナ、レイカ、ルナ。それにコピまる。


 腕利きの衛兵二人を加えて、研究所の内部へ潜入することになった。


「ルナ」


「はい?」


「危なくなったら、お前はコピまると一緒にすぐ戻れよ」


「分かってますって」


「本当に?」


「ソウマさん!」


「……はい」


 ルナが頬を膨らませたのを見て、後ろでリーナが小さく吹き出した。


「ふふっ。ほんと、似た者同士ね」


「どこがだよ」


 分厚い鉄扉を慎重に開け、中へ入る。


 そこは、細長い石造りの通路になっていた。


 外側の無骨な砦の造りとは、明らかに異質な雰囲気が漂っている。


 壁の一部には真新しい金属管が這うように走り、薄気味悪い青白い光を放つ小さな魔石が、一定間隔で照明代わりに埋め込まれていた。


 足元からは、何かの機械が稼働しているような、低く鈍い振動音が伝わってくる。


「これ……」


 ルナが息を呑んだ。


「どうした?」


「古い部分と、新しい部分が混ざってます」


「分かるのか?」


「石壁そのものはかなり古いです。でも、この配管や魔石の固定具は新しい」


 ルナが、金属管へ触れないように顔を近づけ、真剣な眼差しで観察する。


「元々あった施設に、後から別の設備を継ぎ足してる……?」


「ラプラス商会が?」


「たぶん。それに、この動力の循環方式……」


「……考察は後だ。先に進もう」


 今は古代技術の調査が目的じゃない。三人の命がかかっている。


 ルナもハッとして頷いた。


 しばらく通路を進んだところで、先頭を歩いていたリーナが突然、ピタリと立ち止まって片手を上げた。


「止まって」


 全員が息を殺して足を止める。


「前から来る。二人」


「コピまる」


「ピッ」


 ルナの小さな指示で、コピまるが足音を極力抑え、壁際を這うように進んでいく。


 角の向こうを覗き込み、すぐに戻ってきた。


「研究員らしい灰色のローブの人間が二人です。武器は……身につけてなさそうです」


「避けよう」


 正面から戦って騒ぎを起こす必要はない。


 俺は脳内のクリップボードから、あのデータを選択する。


 [シャドウウルフの影特性(断片)]


 意識を集中し、MPを練り上げる。


「ペースト」


 俺の体の輪郭が、わずかに周囲の暗がりへと溶け込む。完全に透明になるわけではないが、この薄暗い通路なら、ただの影にしか見えないはずだ。


「俺が先を確認する。リーナは待機」


「分かってる。無茶したら後で思いっきり殴るわよ」


「帰ってからにしてくれ」


「考えとく」


 壁の影に同化しながら進む。


 角の向こうから、灰色のローブを着た男が二人、紙の束を抱えながら歩いてきた。


「……第三室の調整、終わったのか?」


「まだだ。三人とも反応が安定しないらしい」


 俺の足がピタリと止まる。


 三人。


「今夜中には済ませろって上からの指示だぞ。次の搬送もあるらしいからな」


「分かってるよ。急かしたところで、装置が言うことを聞かなきゃどうにもならん」


 二人の研究員は、そのまま別の通路へと曲がり、消えていった。


 影特性を解除する。


「聞いた?」


 すぐ後ろまで音もなく近づいていたリーナが、小声で聞く。


「ああ」


 三人は確実にここにいる。


 しかも、何かをされている。


「第三室って言ってたな」


「探しましょう。一刻も早く」


 レイカの声も硬い。


 俺たちはさらに奥へと歩を進めた。


 壁には、『第一実験室』『第二実験室』と彫られた無機質な金属板が取り付けられているドアが並んでいる。


「実験室……」


 嫌な予感が、胃の腑を重くする。


「第三はこっち」


 リーナが廊下の先を指差した。


 その途中、一つの扉の前に、剣を腰に下げた見張りの男が立っていた。


「どうする?」


 レイカが囁く。


「騒ぎは起こしたくない。確実に仕留める」


「任せて」


 リーナが音もなく短剣を抜いた。


「殺すなよ。情報を吐かせるかもしれない」


「分かってるわよ」


 リーナは物陰から飛び出すと、瞬きする間もないほどの速度で一気に距離を詰めた。


「なっ――」


 男が腰の剣に手をかけ、声を上げようとした瞬間、リーナの手刀と短剣の柄が、男の首筋と鳩尾へ同時に叩き込まれた。


 ドサッ。


 男は白目を剥き、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「はい、一人」


「相変わらず容赦ないな」


「ちゃんと生きてるでしょ」


 確かに、微かに息はしている。


 俺たちは男を壁の死角へ運び、扉を見上げた。


『第三実験室』


「ここだ」


 扉には頑丈そうな鍵がかかっていた。


「リーナ」


「はいはい」


 リーナはポーチから細い金属製の道具を取り出し、鍵穴へ差し込む。


 数秒の静寂。


 カチッ。


「開いた」


 全員で頷き合い、ゆっくりと重い扉を押し開ける。


 中は、酷く薄暗かった。


 薬品のツンとする匂いと、生臭い血の匂いが混ざっている。


 最初に目に入ったのは、天井、壁、床を這う、無数の不気味な細い管。


 それが、部屋の中央に鎮座する『何か』に向かって集束している。


「何だよ……これ……」


 部屋の中央には、巨大な機械が置かれていた。


 いや、機械というより、いくつもの異なる装置を無理やり繋ぎ合わせ、融合させたような、歪で冒涜的な代物だ。


 黒光りする金属。脈打つように明滅する赤い魔石。中を濁った液体が流れる透明な管。


 そして、その巨大な装置の奥。


 三つの石造りの寝台が並んでいた。


「……っ!」


 三つの寝台すべてに、人が横たわっていた。


 腕、胸、額に奇妙な金属板を直接縫い付けられるように固定され、そこから何本もの細い管が、あの巨大な装置へと伸びている。


「おい!」


 俺は反射的に駆け寄った。


 男子生徒と、二人の女子生徒。


 見覚えがある。間違いない。俺たちと一緒にこの世界へ召喚されたクラスメイトだ。


「おい! 聞こえるか!」


 一番手前の寝台に拘束されていた男子生徒の肩へ、震える手を伸ばす。


 顔色は土気色で、呼吸は浅い。


「……ま……」


 僅かに、ひび割れた唇が動いた。


「相……馬……?」


「!」


 生きてる。意識はある!


「俺だ! 助けに来た!」


「……たす……け……」


「ああ、すぐこのふざけた管を外して――」


「触らないでください!!」


 部屋に、ルナの悲痛で鋭い叫び声が響いた。


「え?」


「その管、絶対に外しちゃダメです!」


 俺の手が空中でピタリと止まる。


 ルナが寝台の横へ駆け寄り、巨大な装置と、彼らに繋がれた管を血相を変えて確認していく。


「なんでだよ!? こいつら、こんなものに繋がれて苦しんでるんだぞ!」


「分かりません! でも、この装置……単なる拘束具じゃないです。彼らの体の状態と、何か別の機構が繋がっています!」


「体の状態と……?」


「下手に物理的に外したら、何が起きるか分かりません!」


「そんな……」


 目の前にいる。


 ずっと探し求めていた、助けに来た三人が。


 手を伸ばせば届く場所にいるのに。


 今すぐには外せない。


「ルナ」


「はい」


「……お前の知識で、こいつらを安全に助け出せるか?」


 ルナはすぐには答えなかった。


 装置の表面、管の配置、魔石の明滅パターンを食い入るように見つめている。その横顔から、いつもの明るく天然な雰囲気は完全に消え去っていた。


「……少し、時間をください」


 ルナはポツリと呟き、そして。


「この装置……」


 彼女が、小さく息を呑んだ。


「廃坑にあった古代機械と、似ている部分があります」


「似てる?」


「はい。でも、まだ分かりません。もっと詳しく調べないと……」


 俺は、横たわる三人と、禍々しい巨大な装置を交互に見た。


 ラプラス商会。秘密の研究所。古代機械。そして、謎の装置に繋がれたクラスメイト。


 一体、連中はここで何をしているんだ。


「ソウマ」


 リーナの、張り詰めた声。


 振り返る。


 廊下の向こうから。


 ガチャ、ガチャ、と金属が触れ合う音。


 複数の、重く規則正しい足音が、確実にこちらへ近づいてきていた。


「誰か来る」


 俺は、ウォーハンマーを力強く握り直す。


 三人は見つけた。生きている。


 なら。


「絶対に、全員連れて帰る」


 俺たちの背後で、重い足音が、実験室の扉のすぐ外でピタリと止まった。


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