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「ここが、ラプラス商会の倉庫か……」
目の前には、ひときわ大きな石造りの倉庫がそびえ立っていた。
窓は少なく、入口の重厚な扉は固く閉ざされている。
「表に二人」
物陰から様子を窺っていたリーナが囁く。
「屋根にも一人いるわね」
「内部は?」
「さすがにここからじゃ分からない」
今日の前衛は、俺、リーナ、そしてレイカ。
ルナと佐知さんは神殿に作った臨時の拠点で通信支援を担当している。
コピまるも、修理されたばかりなのでルナのところに置いてきた。
「まず俺が一周してくる」
「ソウマ」
「分かってる。戦わない」
「絶対よ」
俺は[影特性]を自分自身へペーストする。
周囲の闇に輪郭が紛れる。
完璧に姿が消えるわけではない。
だが、夜の倉庫周辺なら十分だ。
壁際の影を利用して裏手へ回る。
裏口。
人はいない。
窓は一つあるが、内側から板で塞がれている。
屋根の見張りは弓を持っている。
正面二人は剣。
そのまま正面側へ戻ろうとした時。
「……今日の分は?」
見張りの声が聞こえた。
俺は足を止め、壁際の影に身を寄せる。
「もう奥だ。異世界人の三人も、次の船に乗せるってよ」
「研究所行きか?」
「ああ。明日には河港を出るらしい」
息を呑む。
(異世界人……三人)
ほぼ間違いない。
俺はすぐに二人のところへ戻った。
「どうだった?」
リーナが尋ねる。
「中にいる可能性が高い」
「何か聞いたの?」
「ああ。見張りが『異世界人の三人』『研究所行きの船』って話してた」
レイカの表情が変わる。
「それって……!」
「ルナ」
通信魔道具へ声をかける。
『はい!』
「エマさんと衛兵隊へ連絡してくれ。失踪した三人がこの倉庫に関係している可能性が高い。『研究所行きの船』って言葉も確認した」
『分かりました! すぐに伝えます!』
「ソウマ」
リーナが俺を見る。
「援軍を待つ?」
俺は倉庫を見る。
明日には船が出る。
それに、まだ中に三人がいる可能性もある。
「中の様子だけ確認する。三人がいたら、援軍を待ってる間に移送されるかもしれない」
「結局入るのね」
「危険だと思ったらすぐ戻る」
「……本当に?」
「本当に」
「さっきも聞いた気がするわね、それ」
ため息をつきながらも、リーナは短剣へ手を伸ばした。
「なら、屋根はあたしがやる」
「正面の二人は?」
「私が引きつけるわ」
レイカが手を上げる。
「無理するなよ」
「その言葉、今すぐそっくり返してあげる」
作戦は単純だ。
まずリーナが倉庫の裏手から壁を登る。
俺は影に紛れて正面近くまで移動。
レイカが少し離れた路地から、小さな氷の礫を反対側の壁へ撃ち込む。
カンッ!
「何だ?」
「見てくる」
正面の見張り二人が音のした方へ意識を向ける。
その瞬間。
屋根の上ではリーナが弓兵の背後へ忍び寄っていた。
首元へ短剣を当て、そのまま気絶させる。
俺も影から飛び出し、一人の口元を押さえながら地面へ引き倒した。
もう一人へ、レイカが片手を向ける。
「騒がないで」
足元が一瞬で凍りつく。
「なっ――」
バランスを崩したところを俺が気絶させた。
「よし」
入口へ集まる。
扉には頑丈な錠前。
「リーナ」
「分かってるわよ」
リーナが細い金具を取り出した。
「ちょっと待ってなさい」
数十秒。
カチリ。
「開いた」
「相変わらず器用だな」
「もっと褒めてもいいのよ」
音を立てないよう扉を開け、倉庫内部へ入った。
中は広く、薄暗い。
高く積み上げられた木箱や樽が、迷路のように並んでいる。
「人の気配が少なすぎる」
リーナが囁く。
「倉庫なら、もう少し人がいてもいいはずよね」
レイカも周囲を見る。
俺の腰元で、小さな魔力探知機が震えた。
「……反応してる」
『ソウマさん?』
「探知機だ。奥へ行くほど反応が強くなってる」
『何か魔道具が動いている可能性があります。気をつけてください』
「分かった」
慎重に進む。
その時。
足元に、淡い光が走った。
「下がれ!」
床へ描かれた魔法陣が一斉に光る!
ガチャガチャガチャッ!
積み上げられた木箱が内側から砕けた。
「なっ……!」
中から現れたのは、武装したスケルトン。
さらに、腐敗した魔獣の死骸まで起き上がる。
「アンデッド!?」
「罠だったのね!」
あっという間に囲まれた。
「チッ!」
リーナが短剣でスケルトンの腕を弾く。
レイカが手をかざし、氷の魔法を撃ち込み、一体を壁へ吹き飛ばした。
俺もウォーハンマーを振るう。
だが、まだ左肩は完全には治っていない。
一撃ごとに痛みが走る。
「ハッハッハッハ!」
倉庫の二階から、笑い声が響いた。
顔を上げる。
派手な服を着た太った男が、こちらを見下ろしている。
「よく来たな」
「誰だ!」
「私がラプラス商会代表、バルトだ」
男が大げさに両手を広げる。
その隣には、神官服に似た法衣を着た痩せた男が立っていた。
「クラスメイト三人はどこだ!」
「おや。商品を取り返しに来たのか?」
「商品……?」
頭に血が上る。
「ふざけるな!」
「彼らには、もっと有効な使い道があるというだけだ」
バルトの隣の男が、冷たい声で言った。
「異世界人が持つ特殊な能力。実に興味深い」
「お前は何者だ」
「名乗るほどの者ではない」
バルトが笑う。
「古代の術式に詳しい男でね。我々の仕事を手伝ってもらっている」
法衣の男が手を掲げる。
倉庫の壁に刻まれた幾何学模様が光った。
その瞬間。
スケルトンたちの動きが一斉に変わる。
「来るぞ!」
前列が下がり、後列のアンデッドが前へ。
まるで軍隊のように統率されている。
「どうなってんのよ、こいつら!」
「個別に動いてるんじゃない……?」
俺は攻撃を防ぎながら倉庫内を見る。
柱。
壁。
二階。
何か所かに同じ形の小さな魔道具が取り付けられている。
全てが青白く光っていた。
(一斉に動きが変わった……)
なら。
(あれが、こいつらを制御してる?)
近くの柱に取り付けられた魔道具へ意識を向ける。
(コピー!)
《[アンデッド制御魔道具の構造情報(断片)]をコピーしました。クリップボード容量:10 / 10》
情報が頭へ流れ込んでくる。
完全な設計図じゃない。
何をエネルギー源にしているのかも分からない。
ただ――。
「……そういうことか」
目の前にある装置一つだけで、アンデッドを動かしているわけではない。
複数の装置が繋がっている。
「ソウマ! 何か分かった!?」
リーナが叫ぶ。
「ああ!」
俺は倉庫の奥を見据えた。
「こいつらを止められるかもしれない!」




