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「……ん……」
重い瞼をゆっくりと開ける。
見慣れない木製の天井が目に入った。
清潔なシーツの匂い。
体のあちこちが鈍く痛む。
「ソウマ! 目が覚めたのね!」
すぐそばで、リーナの声がした。
見ると、ベッドの脇の椅子に座っている。
どうやら、うたた寝していたらしい。
目元には少し隈ができていた。
「リーナ……ここは?」
「王都の神殿の治療室よ。あんた、丸二日も眠りっぱなしだったんだから」
「二日も……」
俺たちは王都へ着いたのか。
「他のみんなは?」
「あのソリ、なんとか街までは持ったわよ。そこからギルドが用意してくれた馬車に乗り換えて、ちゃんと王都まで来た」
「呪いにかかった子は?」
「大丈夫。高位の神官がすぐに解呪してくれたわ。今は別の回復室で休んでる」
「そうか……」
全身から力が抜ける。
「よかった……」
「よくないわよ」
「え?」
「自分の心配もしなさい!」
リーナが俺の額を小突いた。
「痛っ」
「左肩の傷がかなり深かった上に、全身打撲、魔力もほぼ空っぽ。神官様から、しばらく絶対安静って言われてるからね」
「そこまでか……」
確かに、少し体を起こそうとするだけで肩から背中に痛みが走る。
動きを読めても、俺自身の身体が速くなったわけじゃない。
無理な回避や戦闘を続ければ、その分だけ身体には返ってくる。
「それで……高山たちは?」
「他のクラスメイトも全員無事。高山はまだ顔を出してないけど、みんなあんたに感謝してたわ」
「そうか」
高山がどう思っているかは分からない。
でも、今は全員生きている。
それで十分だった。
それから数日間、俺はベッドの上で過ごすことになった。
「はい、ソウマ。口開けて」
「いや、自分で食えるって」
「うるさい。病人は大人しくしてなさい」
リーナがスープを匙ですくい、俺の口元へ持ってくる。
「いや、本当に右手は動くんだけど……」
「文句言うなら食べさせないわよ」
「それは困る」
なんだか妙な状況だ。
「ソウマさん、失礼します!」
今度はルナが病室へ入ってきた。
「調子はどうですか?」
「まあ、痛いけど昨日よりはマシだ」
「よかったです。無理に動かないでくださいね」
「そういえば、コピまるは?」
聞くと、ルナの顔がぱっと明るくなった。
「王都のギルド工房の一角を借りて修理しています。かなり傷んでいましたけど、部品を交換して、何とか動けるようになりました!」
「もう直したのか?」
「まだ完全じゃありません。脚部はほとんど作り直しです。でも、歩くくらいならできます」
「さすがだな」
「当然です。私が作った子ですから!」
嬉しそうに胸を張る。
「それと、この前の戦い方なんですけど」
「模倣戦闘か?」
「はい」
ルナが少し真面目な顔になった。
「コピーした動作パターンで相手の行動を読みやすくするのは有効だと思います。でも、ソウマさん自身の身体能力まで上がっているわけではありません」
「分かってる」
「分かってません。分かってたらあんな怪我しません」
「……はい」
「身体に無理をさせない使い方を考える必要があります。負担を減らす補助具くらいなら、私にも何か考えられるかもしれません」
「頼りにしてるよ」
「任せてください!」
そこまで言ってから、ルナが何かを思い出した。
「あ、そうだ。コピまるもあとで連れてきますね」
ルナが帰った翌日。
救出の知らせを聞いた佐知さんも、ギルドの王都行きの便を使って駆けつけてきた。
「相馬君、こんにちは」
「佐知さん。王都まで来てくれたのか」
「はい。みんなが無事だったって聞いて……それに、今日はお花を持ってきました」
小さな花瓶に花を生けてくれる。
「わざわざすまないな」
「いえ。私にできることなんて、これくらいですから」
佐知さんが笑う。
その笑顔を見ると、嘆きの牙まで行った意味があったと思えた。
そして、その日の夜。病室の扉がそっと開いた。
「……誰だ?」
そこにいたのは、レイかだった。
俺が起きていることに気づくと、少し気まずそうに視線を逸らす。
「べ、別に、あんたの心配をしに来たわけじゃないから」
手には小さな果物の籠。
「ただ……助けてもらった借りを、そのままにしておくのも気分が悪いだけよ」
ベッド脇の机へ籠を置く。
「……ありがとな」
「だから、お礼じゃないって言ってるでしょ!」
顔を赤くする。
そのまま帰ろうとして、扉の前で一度だけ足を止めた。
「……この前は、本当に助かったわ」
小さな声。
俺が何かを返す前に、レイカは部屋を出ていった。
「……素直じゃない奴だな」
それでも、以前よりはずっと分かりやすい。
そんな療養生活の中、城側の動きについても少しずつ耳に入ってきた。
「高山のやつ、今回の件で勇者隊の指揮役から外されたみたいよ」
リーナが言う。
「今は城で事情を聞かれてるって。しばらく謹慎らしいわ」
「そうか……」
「今回の一件で、城でも勇者の遠征のやり方とか、扱い方が問題になってるらしいわよ」
それ以上は、俺には関係のない話だった。
ある日、王都へ報告に来ていたギルドマスターとエマさんも見舞いに来てくれた。
「相馬君。よく全員を連れて帰ってきてくれた」
ギルドマスターが静かに言う。
「今はとにかく、体を治すことだけを考えなさい」
「ありがとうございます」
エマさんも心配そうな表情でこちらを見る。
「本当に心配したんですよ! もう、あんな無茶はしないでくださいね?」
「善処します」
「絶対ですよ!」
怒られた。
「それから報酬の件だ」
ギルドマスターが続ける。
「依頼の基本報酬銀貨50枚に、生存者を救出した分の追加報酬が加算される。これは君とリーナ君のパーティへ支払われる」
「追加報酬も……」
「ああ。それとは別に、今回の功績に対する特別功労金として、王国から君個人へ金貨5枚が贈られるそうだ」
「き、金貨5枚!?」
銀貨に換算すれば500枚。
しばらく生活費には困らないどころではない。
「受け取りは回復してからで構わない」
「ありがとうございます……」
まさか、追放された俺が王国から表彰金をもらうことになるとは。
何が起こるか分からないものだ。
平穏な療養生活。
だが、その裏で、新しい事件はすでに始まっていた。
その日。
佐知さんが、いつになく不安そうな表情で病室へ入ってきた。
「あの、相馬君……少し、気になることがあるんです」
「どうした?」
「最近、王都で……私たちと一緒に召喚された子たちが何人か、姿を消してるみたいなんです」
「……何?」
クラスメイトが、また行方不明?
「戦える子たちか?」
「いいえ。みんな、私みたいに戦闘向きじゃないスキルの子ばかりで……」
背筋に嫌な感覚が走った。




