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夜明けの光が、俺たちの作り上げた奇妙な乗り物を照らし出す。
ゴーレムの脚をつけたソリ、とでも言うべきか。
見た目は不格好だ。木材を縄で固定しただけの車体に、コピまるから外した動力部と脚部駆動機構が取り付けられている。
それでも今は、これが俺たちの唯一の希望だった。
「まず怪我人を乗せる! 動ける奴は歩いてくれ!」
俺の号令で、クラスメイトたちが動き始める。
呪いを受けた女子生徒は、レイカと他の女子たちが介抱しながら、ソリの中央へそっと横たえた。
他の重傷者も続いて乗せる。
「ソウマ、肩は?」
リーナがこちらを見る。
「痛いけど、歩くくらいならできる」
「無茶したら置いてくからね」
「それは勘弁してくれ」
『準備できましたか?』
通信機からルナの声が聞こえる。
「ああ。動かすぞ」
後部へ取り付けた駆動機構を起動する。
ゴゴゴゴ……。
機械脚がゆっくりと動き始めた。
ガッ。
ガッ。
一歩地面を蹴るたび、木製のソリが前へ押し出される。
「本当に動いた……」
クラスメイトの一人が感嘆の声を漏らした。
速くはない。
人が軽く走る速度にも届かないくらいだ。
それでも、負傷者を抱えて全員で歩くよりは遥かにマシだった。
「よし。街まで戻るぞ!」
俺たちは嘆きの牙を後にした。
ソリの両側を、俺やリーナ、高山、レイカたちが歩く。
足場の悪い場所では全員で押し、比較的平坦な場所では駆動脚に任せる。
呪いを受けた女子生徒の黒い文様は、今のところ広がっていない。
聖水によって進行を抑えられている。
だが、それがいつまで続くのかは分からない。
「もう少しだけ耐えてくれよ……」
俺はソリの上で眠る彼女を見つめた。
『街のギルドには連絡済みです。王都へ向かう馬車も、できるだけ早く手配してもらっています!』
「助かる」
問題は、そこまで無事に辿り着けるかだ。
嘆きの牙から街までの道も決して安全ではない。
何度か遠くに魔獣の姿を見かけたが、こちらの人数を警戒しているのか、襲ってくるものはいなかった。
このまま行ければ――。
「ソウマ」
突然、リーナが足を止めた。
「どうした?」
「……後ろ」
声が低い。
俺も振り返る。
遠くの地面。
黒い点がいくつも見える。
それらが、もの凄い勢いでこちらへ近づいていた。
「何だ、あれ……?」
「狼型の魔獣……!」
距離が縮まり、姿が見えてくる。
シャドウウルフに似ている。
だが、以前戦った個体より一回り大きく、体を覆う影も濃い。
十匹どころではない。
二十。
いや、それ以上か。
「まさか……ヴァルガスの追手?」
リーナが顔をしかめる。
「分からない。だが、俺たちを狙ってるのは間違いなさそうだ」
逃げ切れる速度ではない。
「みんな、急げ! 動ける奴はソリを押してくれ!」
「お、おう!」
高山がソリの後ろへ回った。
他のクラスメイトたちも加わる。
駆動脚が地面を蹴る。
俺たちも必死に押す。
少しでも距離を稼がなければ。
ガクンッ!
「うわっ!?」
突然、ソリが大きく傾いた。
「何!?」
片側の機械脚が地面へ引っかかり、そのまま動かなくなった。
「止めろ!」
俺たちは慌ててソリを止める。
「ルナ!」
『映像を見ます! 少し待ってください!』
リーナがしゃがみ込み、駆動部を確認する。
「金具が外れかけてる!」
『右側の駆動機構がずれています! このまま動かすと完全に壊れます! 一度固定し直してください!』
「どれくらいかかる?」
『部品そのものは壊れていません。固定だけなら、それほどは……でも……』
ルナが言葉を濁す。
俺も後ろを見る。
黒い狼の群れは、もうかなり近い。
「そんな時間ないわよ!」
リーナが叫ぶ。
「……俺が時間を稼ぐ」
「は?」
「リーナ、お前ならルナの指示を聞けば直せるだろ?」
「できるかもしれないけど、だからってあんた一人で――」
「全員残ったら、呪いにかかった子まで巻き込まれる」
「ソウマ!」
「倒す必要はない。修理が終わるまで止めればいい」
本当は、そんな簡単な相手じゃないのは分かっている。
MPも十分には回復していない。
ヴァルガスに斬られた左肩も痛む。
それでも。
「ここで俺がやらなきゃ、全員追いつかれる」
リーナが俺を睨みつける。
数秒の沈黙。
「……絶対、死なないで」
「ああ」
「ルナ! 修理方法を教えて!」
『はい!』
リーナが駆動部へ駆け寄る。
「高山! 動ける奴を集めて、ソリが動かないように押さえて!」
「分かった!」
高山もすぐに動いた。
レイカは不安そうな表情で俺を見る。
「相馬……」
「怪我人を頼む」
「……分かったわ」
俺はウォーハンマーを握る。
ソリから少し離れ、一人で追手の前へ出た。
「グルルルルル……!」
狼たちの唸り声が近づいてくる。
赤い目。
黒い体。
数十匹の魔獣が、俺一人を見据えていた。
「さて……」
ウォーハンマーを構える。
「どうやって時間を稼ぐか」
敵は止まらない。
俺も逃げるつもりはなかった。




