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静かにつがえられた、次の一矢。
黒い矢尻が、崖の上から俺たちを狙っている。
「みんな、伏せろ!」
ヒュンッ!
次の瞬間、無数の矢が放たれた!
「走れ! あの岩陰まで!」
俺は滝の脇に張り出した巨大な岩を指さす。
俺たちはクラスメイトたちを庇いながら、必死にそこまで走った。
ガッ!
一本の矢が俺のすぐ横の地面へ突き刺さる。
「早く!」
全員が何とか大岩の裏へ滑り込む。
だが――。
「まずい、隙間が大きすぎる!」
岩陰だけでは全員を守りきれない。
俺はクリップボードから[瓦礫]を選択する。
(ペースト!)
大岩の隙間へ瓦礫を次々に生成する!
石塊が折り重なり、即席の遮蔽物になっていく。
ガガガガッ!
降り注いだ矢が瓦礫へ突き刺さった。
「助かった……!」
クラスメイトの誰かが息を吐く。
「ソウマ! MPは!?」
「一気にこれだけ出したせいで、かなり減った!」
維持する必要はない。
だが、生成するだけでも当然MPは消費する。
「このままじゃ、ここから動けないわよ!」
リーナが崖を見上げる。
「……あそこの岩壁、登れそう」
「まさか――」
「あたしが側面から回る」
「危険すぎる!」
「あんたが援護してくれるならやれる!」
リーナの瞳には、強い決意が宿っていた。
「……分かった。頼んだぞ!」
「任せといて!」
リーナは遮蔽物の端から飛び出すと、崖の側面へ駆けた。
岩の凹凸へ手を掛け、驚くほどの速さで登っていく。
魔族兵たちが気づいた。
「リーナを狙ってる!」
何人かが弓を彼女へ向ける。
「させるか!」
俺は残ったMPで石ころを複数ペーストする。
手元に現れた石を掴む!
「こっちを見ろ!」
リーナを狙う魔族兵へ、次々と投げつける!
距離がある。
まともなダメージにはならない。
だが、狙いを逸らすには十分だtta!
「援護、感謝するわ!」
リーナは崖を駆け上がっていく。
「私にも……何か……!」
牢から解放されたばかりのレイカが、震える足で立ち上がった。
「レイカ!?」
「足を引っ張ってばかりはいられないわ……!」
彼女は残った魔力を振り絞る。
小さな氷の礫がいくつも生まれ、崖の上へ飛んでいく!
威力は大したことない。
それでも、その一撃は確かに敵の注意を引いた。
「レイカ……」
他のクラスメイトたちも、その姿に勇気づけられたのか、動ける者は足元の石を拾い始める。
その中で、ずっと俯いていた高山が、ゆっくりと顔を上げた。
ボロボロの剣を握りしめるその手は、小刻みに震えている。
「……俺も……」
かすれた声。
「俺も……勇者なんだ……!」
彼は、おぼつかない足取りで立ち上がった。
崖の上。
ついにリーナが魔族兵たちの側面へ辿り着く!
「今だ、リーナ!」
「食らいなさいっ!」
二本の短剣が舞う。
不意を突かれた魔族兵の一人が悲鳴を上げ、崖から転落した。
敵の陣形が崩れる。
「今なら……!」
俺は遮蔽物から飛び出す。
崖から降りてきた魔族兵の一体が剣を構えた。
「おおおっ!」
ウォーハンマーを叩き込む!
鈍い衝撃と共に、魔族兵が地面へ転がった。
その横で――。
「うあああああっ!」
高山が、倒れ込んだ別の魔族兵へ渾身の力で剣を突き立てた。
手は震えている。
足もふらついている。
それでも、剣を離さない。
やがて、最後に残った魔族兵がリーナの短剣に倒れた。
「はぁ……はぁ……」
あたりに静寂が戻る。
俺はその場に膝をついた。
MPはほとんど残っていない。
負傷した肩もズキズキと痛む。
クラスメイトたちが、恐る恐る俺たちへ近づいてくる。
「助かった……ありがとう、相馬君……リーナさん……」
彼らの目には、以前の嘲笑や憐れみとは違うものがあった。
レイカも、少し離れた場所で複雑な表情を浮かべている。
やがて、小さな声で言った。
「……助かったわ」
それだけだった。
でも、以前の彼女なら口にしなかった言葉かもしれない。
「ソウマ、肩、見せなさい」
リーナが俺の隣へしゃがみ込み、自分のマントの裾を破る。
「馬鹿、無茶するからよ!」
「痛っ……もう少し優しく――」
「うるさい!」
怒ったような口調だが、傷へ布を巻く手つきは慎重だった。
「……これでよし。もう無茶しないでよね」
「ああ。ありがとな」
ようやく、本当に危機を脱した。
そう思った、その時だった。
「う……あ……」
クラスメイトの一人が、突然苦しみだした。
軽傷だったはずの女子生徒だ。
「どうしたんだ!?」
彼女が地面へ倒れ込む。
「息が……!」
「体に……何これ……!」
腕から首元へ。
不気味な黒い文様が浮かび上がり、少しずつ広がっていく。
「まさか、毒……!?」
リーナが慌てて解毒薬を取り出す。
だが、飲ませても症状は改善しない。
「だめ……普通の毒じゃない!」
『ソウマさん! コピまるを、その子の近くに!』
イヤホンから、ルナの切羽詰まった声が響いた。
「分かった!」
俺はコピまるを倒れた女子生徒のそばへ移動させる。
小さなゴーレムが、黒い文様を映すように彼女の腕へ顔を向けた。
数秒後。
通信の向こうで、ルナが息を呑む音が聞こえた。
『……この文様、古い資料で見たことがあります』




