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ここからは、前のエリアとは比較にならないほど魔獣の気配が濃い。
「グルルルァァァ!」
巨大な鉤爪を持つ熊型の魔獣が、咆哮と共に襲いかかってきた!
「リーナ、右から回り込め! 俺が引き付ける!」
「了解!」
ウォーハンマーで魔獣の攻撃を受け止める。
腕に重い衝撃が走る!
その隙にリーナが背後へ回り込み、短剣で鋭い一撃を見舞った。
MPリジェネ・アミュレットのおかげで、以前よりはスキルを使いやすい。
[影特性]で気配を薄くし、死角へ回り込む。
コピまるも前方を走り、曲がり角の先や魔獣の位置を映像でルナへ送っている。
何度か魔獣との戦闘を繰り返しながら、さらに先へ進む。
「止まって」
突然、リーナが俺の腕を掴んだ。
「何だ?」
「床」
言われて見ると、石床の一部に不自然な継ぎ目がある。
「罠か?」
「たぶんね」
リーナはしゃがみ込み、慎重に仕掛けを調べ始めた。
細い金具を隙間へ差し込み、一つずつ機構を外していく。
カチッ。
小さな音がした。
「解除できた?」
「この程度ならね」
リーナが立ち上がる。
「チッ、面倒な仕掛けばっかりね、この連中は」
「頼りにしてるぞ」
「当然でしょ」
どれくらい進んだだろうか。
ごうごうという水音が聞こえてきた。
「……滝だ!」
視界が開け、巨大な滝が岩壁を流れ落ちているのが見えた。
そして、その滝の裏側に、ぽっかりと口を開けた洞窟の入口がある。
「間違いない。あそこだ」
洞窟の入口には、ゴブリンの上位種らしい屈強な兵士が数体、見張りを固めている。
「どうする、ソウマ? 正面から行く?」
「いや、無駄な戦闘は避けたい。俺が[影特性]で近づく。リーナは援護を頼む」
「了解。しくじるんじゃないわよ」
俺はスキルを発動し、周囲の影に紛れるように気配を薄くする。
一歩ずつ、見張りへ近づいていく。
完全に透明になったわけではない。
だが、暗い洞窟と滝の影のおかげで、気づかれていない。
背後へ回り込み、一人の口元を押さえながらショートソードを突き立てる。
倒れる音に気づいた別の兵が振り返った。
「ギッ――」
その瞬間、リーナの投げた短剣が喉元へ突き刺さった。
「ナイス」
「ぼさっとしてないで、残り!」
残った見張りも二人で素早く仕留める。
洞窟内部へ潜入する。
湿った空気と、獣の脂のような嫌な匂いが充満していた。
松明の光を頼りに奥へ進むと、そこは明らかに人工的な通路になっている。
魔王軍のアジトで間違いない。
壁際には、武器や食料の箱に混じって、松明用らしい油壺がいくつも積まれていた。
「……この先、人の気配がするわ」
リーナが小声で囁く。
狭い通路を隠れながら進む。
リーナの体が俺の背中にぴったりとくっついている。
「……ちょっと、近すぎんじゃないの……?」
リーナが顔を赤らめながら俺を睨んだ。
「し、仕方ないだろ、狭いんだから!」
そんなやり取りをしているうちに、俺たちは洞窟の最も広い空間へと辿り着いた。
そして――見つけた。
牢獄のような檻の中に、高山やレイカ、そして他の数名のクラスメイトたちが、ぐったりとした様子で捕らえられている。
皆、ひどく衰弱していた。
レイカは俺たちの姿に気づき、一瞬驚いたような表情を見せた。
だが、すぐに顔をそむける。
高山はうなだれたまま、こちらに気づく様子もない。
「みんな……!」
俺が声を上げようとした瞬間、冷たく、威圧的な声が響いた。
「ほう……ネズミが紛れ込んだようだな」
空間の奥。
玉座のような岩に腰かけていた長身の男が、ゆっくりと立ち上がる。
黒い甲冑。
腰には禍々しい長剣。
鋭い眼光が、俺たちを射抜いた。
「わざわざ捕虜どもを助けに来たのか。ご苦労なことだ」
男は腰の長剣へ手を掛ける。
「我は魔王軍が魔将、ヴァルガス。貴様らの墓標に刻んでやる名だ」
魔将ヴァルガスは、嘲るように笑った。
「お前が、高山たちをこんな目に……!」
「いかにも。だが、彼らは自ら滅びの道を選んだに過ぎん。愚かな人間どもよ」
ヴァルガスの周囲から、屈強な魔族兵たちが数名、武器を構えて現れる。
「リーナ、捕虜の方を頼む! 俺がこいつを引き付ける!」
「馬鹿言わないで! 一人で勝てる相手じゃないわよ!」
「分かってる! だから隙を作る!」
俺はウォーハンマーを構え、ヴァルガスと対峙する。
ヴァルガスは長剣を抜き放ち、凄まじい速度で斬りかかってきた!
「速い!」
ウォーハンマーで受け止めるが、腕が痺れるほどの重い一撃!
「ソウマ! 後ろ!」
リーナの声。
ヴァルガスの部下である魔族兵たちが、一斉に俺とリーナへ襲いかかってきた!
数が多い。
リーナが一人をかわし、短剣で牽制する。
俺もヴァルガスの剣を受けながら、クリップボードから[瓦礫]を選択する。
(ペースト!)
ヴァルガスの足元へ瓦礫を複数生成する!
「小賢しい!」
奴は足元の瓦礫を蹴り飛ばし、構わず踏み込んでくる。
「ほう……物を生み出すのか。妙な術を使う」
「まだ驚くのは早いぞ!」
俺は【コピペ】を発動する。
ヴァルガスの剣技全てを捉えることはできない。
あまりにも速く、複雑だ。
だが――。
(断片だけでも……!)
《[魔将ヴァルガスの剣技(断片)]をコピーしました。クリップボード容量:10 / 10》
保存された剣技の断片と、目の前のヴァルガスの構えを照らし合わせる。
左足が半歩前。
剣先がわずかに下がる。
肩の入り方も、さっき見たものと同じだ。
(この構え……横薙ぎ!)
俺は剣が振り抜かれる直前に身を沈めた。
頭上を凄まじい風圧が通り過ぎる!
「ほう!」
初めて、ヴァルガスの表情がわずかに変わった。
だが、分かっても身体がついていかなければ意味がない。
次の一撃をウォーハンマーで受け止める。
金属音が響き、武器ごと腕が弾かれた!
「ぐっ……!」
「ソウマ!」
リーナが俺を庇おうと前へ出る。
だが、それより早くヴァルガスの長剣が俺の首筋へ迫ってきた。
(間に合わない…!)
冷たい切っ先が、肌へ迫る。




