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『タスケテ……タカヤマ……オク……レイカ……マホウ……』
壁に残された、かぼそい文字。
クラスメイトたちの間で、一体何が起きたというんだ。
俺とリーナは顔を見合わせる。
重苦しい沈黙の中、松明の炎が揺れる音だけがやけに大きく聞こえた。
「……この先に、まだ誰か生きているかもしれない。急ごう」
俺は短く告げ、再び歩き出した。
「待って」
先を歩いていたリーナが突然しゃがみ込み、地面へ視線を落とした。
「足跡がある。新しいわ。それも複数」
俺も周囲を見る。
岩壁には、まだ完全には乾いていない血痕が残されていた。
「こっちへ続いてるな」
「ええ。まだ生きてる人がいるかもしれない」
俺は[影特性]を自分へペーストし、少し先まで偵察することにした。
完全に姿が消えるわけではない。
それでも暗い洞窟の中なら、かなり見つかりにくくなる。
リーナは少し後ろから、コピまると共に周囲を警戒している。
足跡と血痕を追ってしばらく進む。
やがて、リーナが岩壁の前で足を止めた。
「ソウマ。ここ」
見ると、岩壁の一部に、人ひとりがようやく通れそうな亀裂がある。
「中に続いてるな」
「ええ。足跡もここで途切れてる」
「行ってみよう」
俺たちは息を潜め、その亀裂へと入った。
亀裂の奥は、人が数人隠れるのがやっとの、小さな空洞になっていた。
そこに、数人の男女が身を寄せ合うようにしてうずくまっている。
ボロボロの服。
土気色の顔。
虚ろな目。
間違いなく、俺のクラスメイトたちだ。
「……誰?」
一人の女子が、俺たちの姿に気づき、怯えた声を上げた。
他の者たちも、びくりと体を震わせる。
「落ち着いてくれ。俺だ、相馬だ。助けに来た」
俺が松明で自分の顔を照らし、静かに声をかける。
彼らは一瞬、信じられないといった表情を浮かべた。
やがて――。
「相馬君……!? 本当に相馬君なの……!?」
「うわあああん! 助けに来てくれたんだね!」
「もうダメかと思った……!」
堰を切ったように泣き崩れた。
生存者は、男子が二人、女子が三人。
いずれも戦闘能力の低いスキル持ちか、あるいは怪我を負って動けなくなっていた者たちだ。
俺とリーナは持っていた水と食料を分け与え、怪我の手当てを手伝った。
「一体、何があったんだ? 高山やレイカたちはどうした?」
俺が尋ねると、生存者の一人、以前はクラスでも目立たない存在だった男子生徒が、震える声で語り始めた。
「高山君が……勇者である自分なら大丈夫だって、どんどん奥に進んでしまって……」
別の女子が続ける。
「レイカさんの魔法も、最初は魔物を倒せていたけど……だんだん余裕がなくなって、私たちの近くにまで魔法が飛んできたりして……」
「食料の管理もずさんで、すぐに底をついたんです……」
「それで、みんなイライラし始めて……高山君とレイカさんも言い争ってばかりで……」
そんな時だったらしい。
突然、黒い影のような魔獣の群れに襲われた。
「私たちは、ただ逃げるしかなくて……」
「高山君とレイカさん、それに他の何人かは……魔獣に囲まれて……北の方へ連れて行かれたように見えました……」
黒い影みたいな魔獣。
シャドウウルフか?
いや、もっと強力な、魔王軍に属する何かなのかもしれない。
そして、高山とレイカは連れ去られた。
「……あんた、意外とお人好しなのね」
生存者たちに食料を分け与え、怪我の手当てを手伝う俺の姿を見て、リーナが呆れたように呟いた。
「今さらか?」
「まあね」
助けられた女子生徒の一人が、俺に小さな花飾りを差し出した。
「あ、あの……ありがとう……ございます……」
こういうのは慣れない。
「北の方角……大きな滝の裏にある洞窟に、黒い影の奴らが入っていくのを見た、って誰かが……」
生存者の一人が、おぼろげな記憶を辿るように言った。
これが、唯一の手がかりか。
俺とリーナは顔を見合わせる。
「……どうする、ソウマ? あの脳筋勇者と高慢ちきな女を助けるために、また命を張るっていうの?」
「ああ。見捨てて後悔するよりはマシだ。それに、佐知さんとの約束もあるからな」
俺の答えに、リーナはふっと息を吐いた。
「……分かったわよ。あんたのそういうお人好しっぷりには、もう慣れたわ。付き合ってあげる。ただし、分け前はきっちりだからね!」
「助かる」
『ソウマさん、リーナさん、くれぐれも気をつけてください!』
ルナの声が響く。
『コピまるの映像はこちらで確認します。何かおかしなものが映ったら、すぐ知らせます!』
「頼む。それより、この五人をどうする?」
『こちらからギルドへ救助を要請します! 入口から救助隊を向かわせてもらいます!』
「分かった」
俺は生存者たちを見る。
「救助隊が来るまで、この場所に隠れていてくれ。食料と水は置いていく」
「相馬君たちは……?」
「高山たちを探す」
「でも……」
「大丈夫だ。救助隊が来るまで、できるだけ外には出ないでくれ」
俺は残っている食料と水の一部を置いた。
怪我人でも使えそうな布や薬も残す。
「どうか……みんなを助けてください……!」
彼らの懇願を背に受け、俺とリーナは、さらに危険な「嘆きの牙」の深部――北の滝の裏にあるという洞窟を目指すことにした。




