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朝日を背に、俺とリーナはコピまるを伴い、ついに「嘆きの牙」と呼ばれる魔獣領域の入口に立った。
ごつごつとした黒い岩肌が、巨大な獣の牙のように天を突き、その奥からは不気味な風が吹き付けてくる。空気が重い。
「……ここが、嘆きの牙か。噂通りの気味悪い場所ね」
リーナが短剣の柄を握り締め、警戒を解かない。
「ああ。だが、行くしかない。佐知さんとの約束もある。あいつらを見つけ出す」
俺は松明に火を灯し、ウォーハンマーを肩に担ぎ直す。
リュックには食料や水、以前買った聖水の小瓶も入っている。
MPリジェネ・アミュレットが首元で微かな温もりを放っていた。
「ルナ、聞こえるか? これから内部に侵入する」
通信用の魔道具に話しかけると、すぐにルナの声が返ってきた。
『はい、ソウマさん! こちらでもコピまるの映像を受信しています。何か見つけたらすぐに知らせてください!』
「頼んだぞ」
俺たちは、一歩、また一歩と、暗く湿った「嘆きの牙」の奥へと足を踏み入れた。
坑道のような通路は狭く、天井も低い。
地面はぬかるみ、時折、毒々しい色の粘菌が壁一面を覆っている。
「うわっ、この匂い……!」
リーナが鼻をつまむ。
「この粘菌……嫌な匂いがするな」
「毒持ちかもしれないわね。長居しない方がよさそう」
「分かった。口元を布で覆え。ここは急いで抜けるぞ」
「言われなくても!」
俺たちは布で鼻と口を覆い、足早に通路を抜けていく。
しばらく進むと、最初の魔獣に遭遇した。
「グルルルル……!」
洞窟の天井から、巨大なムカデのような魔獣が何匹も現れた!
体長は二メートルを超え、鋭い顎からは黄色い液体が滴り落ちている。
「数が多いわよ!」
「リーナは側面を頼む! 俺が正面を引き受ける!」
ウォーハンマーを振るい、突進してきた一匹の頭部を叩き潰す!
硬い甲殻が砕ける音が洞窟に響いた。
リーナも俊敏な動きでムカデの攻撃をかわし、短剣で関節の隙間を的確に突いていく。
コピまるも小さな体で百足魔獣の周囲を走り回り、その注意を逸らしていた。
(こいつの攻撃……コピーしておこう!)
《[百足魔獣の強酸液噴射パターン]をコピーしました。クリップボード容量:10 / 10》
「ソウマ、こいつら、何か吐くわよ!」
リーナの警告と同時に、一匹の百足魔獣が頭部を大きく持ち上げた。
口元に黄色い液体が溜まっていく。
コピーした予備動作と一致する。
「酸だ! 下がれ!」
俺はクリップボードから[瓦礫を選ぶ。
(ペースト!)
目の前へ瓦礫を複数生成する。
出現した石塊が折り重なり、即席の遮蔽物になった。
直後――。
ジュウウウッ!
黄色い酸液が瓦礫へ降りかかり、嫌な煙を上げる!
「ナイス、ソウマ!」
「長くは持たない! 今のうちだ!」
酸を吐いた直後の百足魔獣へ駆け込み、ウォーハンマーを叩き込む。
リーナも別の一匹の背後へ回り、甲殻の継ぎ目へ短剣を突き立てた。
数分間の激闘の末、俺たちはなんとか百足魔獣の群れを殲滅した。
「はぁ……はぁ……いきなりこれかよ……」
「さすがCランク以上推奨の危険地帯ね。油断できないわ」
MPリジェネ・アミュレットのおかげで以前より回復は早いが、それでも消耗は激しい。
百足魔獣の酸液パターンは、この先まで持っていくほどではない。
《[百足魔獣の強酸液噴射パターン]のデータを削除しました。クリップボード容量:9 / 10》
さらに奥へ進むと、明らかに戦闘の痕跡が見られる場所に出た。
壁には魔法による焦げ跡。
地面には折れた剣や、引き裂かれたマントの切れ端が散乱している。
「これ……クラスメイトたちのものか……?」
俺はマントの切れ端を拾い上げる。
見覚えのある、王都の騎士団から支給されたもののようだ。
「ソウマ、こっち見て!」
リーナの声に駆け寄ると、彼女は青ざめた顔で岩陰を指さしていた。
そこには――無残にも食い荒らされた、人間の遺体があった。
身に着けている鎧には見覚えがある。
クラスメイトの一人だ。
「……っ!」
言葉が出ない。
これが、この世界の現実。
追放された俺も、一歩間違えばこうなっていたのかもしれない。
リーナも唇を噛み締め、俯いている。
『ソウマさん、リーナさん……大丈夫ですか……?』
通信機から、ルナの心配そうな声が聞こえる。
「……ああ、大丈夫だ。だが、状況は最悪に近いかもしれない」
俺たちは遺体を丁重に埋葬し、短い祈りを捧げた。
こんな場所で死んでいった彼の無念を思うと、胸が締め付けられる。
「……行くぞ。まだ生きている奴らがいるかもしれない」
俺の声は、自分でも驚くほど低く、硬かった。
痕跡を辿り、さらに奥へ。
やがて、洞窟の壁に、何かで無理やり引っ掻いたような文字が残されているのを見つけた。
『タスケテ……タカヤマ……オク……レイカ……マホウ……』
断片的で、意味ははっきりしない。
それでも、書いた人間が追い詰められていたことだけは分かる。
「高山……レイカ……?」
俺は文字を見つめる。
「二人に何かあったのか?」
「分からない。でも、この先で何か起きたのは間違いなさそうね」
リーナの表情も険しい。
この先に、何が待っているのか。
生存者はいるのか。
俺は佐知さんから預かったお守りを強く握りしめた。
必ず、見つけ出す。




