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「……分かった。少し、情報を集めてみる」
佐知さんの小さな手を力強く握り返したものの、正直、何から手をつければいいのか見当もつかない。
行方不明のクラスメイト……それも勇者パーティの連中だ。危険な場所にいることは間違いないだろう。
まずは、相棒に相談だ。
俺は宿に戻る途中、訓練場帰りのリーナと合流した。
「リーナ、ちょっと話があるんだが」
「何よ、改まって。あたしはこれから飯だけど」
「飯でも食いながらでいい。実は……」
俺は道すがら、佐知さんから聞いたクラスメイトたちの話をリーナに伝えた。
「はぁ? あんたの元クラスメイト? 勇者様ご一行が聞いて呆れるわね。自分たちで何とかしなさいよ、ってのが普通でしょ。自業自得じゃないの?」
リーナは呆れたように、バッサリと切り捨てた。まあ、彼女の言うことも一理ある。
「そうなんだが……佐知さんが、すごく心配していてな。それに、レイカも行方不明者の中にいるらしい」
「レイカって……あんたと同じクラスだったっていう、あの高慢ちきな魔法使いの女?」
「ああ」
「……まあ、あんたがそこまで言うなら、付き合ってあげないこともないけど」
リーナは少し考え込む素振りを見せた後、ため息混じりに言った。
「ただし、危険な任務になるなら、報酬はきっちりもらわないと割に合わないわよ。ボランティアで命張るほど、あたしもお人好しじゃないからね」
「分かってる。ありがとう、リーナ」
なんだかんだ言って、こいつは付き合ってくれる。
頼りになる相棒だ。
翌日、俺とリーナは冒険者ギルドへ向かった。
「エマさん、行方不明の勇者パーティについて、何か公式な情報や依頼は出ていますか?」
俺が尋ねると、エマさんは神妙な顔つきになった。
「ああ、その件でしたら……ちょうど今朝、王都騎士団から緊急の協力要請が各ギルドに通達されたところです。こちらに……」
彼女が指さした掲示板には、ひときわ大きな羊皮紙が張り出されていた。
『緊急依頼:魔獣領域における召喚勇者一行の捜索および救助』
依頼主:王都騎士団
ランク:Cランク以上推奨(Dランクでも熟練パーティなら可)
内容:先日、魔獣領域「嘆きの牙」にて消息を絶った召喚勇者パーティ(リーダー:高山 大輝 他数名)の捜索、および可能であれば救助。
危険度:極めて高し。強力な魔獣多数、および未知の罠の存在も確認。
報酬:銀貨50枚。生存者救出の場合は追加報酬あり。
備考:生存は絶望的との見方が強い。遺体または遺品の回収が主目的となる可能性も考慮のこと。
「銀貨50枚……! けど、生存絶望的って……」
リーナが息を呑む。
「嘆きの牙……聞いたことがある。凶暴な魔獣が跋扈する、生きては戻れないと言われる場所だ」
俺も表情を険しくする。
エマさんは少し迷ったように俺たちを見た。
「本来なら、Dランクでも十分に経験を積んだパーティ向けの依頼です。ただ……お二人は今回の廃坑での実績を評価され、ギルドマスターから特例でDランク昇格を認められています。受注資格そのものはあります」
「なら――」
「でも!」
エマさんが俺の言葉を遮った。
「受けられることと、無事に帰ってこられることは別です。あまりにも危険すぎます。それでも、本当に受けるんですか?」
「やるしかないだろ。見殺しにはできない」
俺は依頼票を掴んだ。
次に、ルナの工房へ向かう。
彼女の知識と技術が、この困難な任務には不可欠だ。
「ルナさん、力を貸してほしい」
事情を説明すると、ルナは即座に頷いた。
「召喚された方々が……それは大変ですね。私の知識や古代技術の解析が、少しでもお役に立てるなら喜んで協力します。廃坑で見つかった古代機械の情報や、ゴーレムの技術が活かせるかもしれません!」
俺たち三人は、ルナの工房で作戦会議を始めた。
エマさんから得た「嘆きの牙」の地図――不完全なものだが――を広げ、情報を整理する。
「敵は強力な魔獣多数、か。罠もあるかもしれないな」
「あたしが先行して斥候を務めるわ。罠の解除も得意だし」
リーナが言う。
「私は後方から情報支援をします。それと、廃坑から持ち帰ったゴーレムの部品を元に試作していた小型ゴーレム――『コピまる』を、偵察に使えるよう調整してみます」
ルナが作業台の隅に置かれた、小さな金属製のゴーレムを指さした。
「遠隔操作もできるようにしてみますね」
役割分担は決まった。
次は装備だ。
「MPリジェネ・アミュレットもある。回復量はわずかとはいえ、長期戦では大きい」
俺は首にかけたアミュレットに触れる。
「対多数の魔獣戦なら、ウォーハンマーと、複数ペーストによる牽制が有効か……? いや、MP消費を考えると、一体ずつ確実に仕留める方がいいか」
「あんたのその変なコピー能力で、何か新しい武器とか作れないの? 例えば、魔法の矢を無限にコピーできる弓とか」
リーナが期待の眼差しを向ける。
「……まだそこまでは無理だな。今できるのは、シャドウウルフからコピーした影特性みたいな、一部の特性を自分自身に一時的に重ねるくらいだ」
それでも、以前よりはるかに戦術の幅は広がっている。
リーナも罠の材料や、特殊な効果を持つ矢尻を買い揃えた。
ルナは、古代機械の解析を進める中で試作したという「魔力探知機」を俺に手渡してくれた。
「まだ精度はあまり高くありませんが、強い魔力反応を探すくらいなら使えると思います」
出発の前夜。
宿の部屋で、俺は佐知さんから預かった小さな袋を開けた。
中には、彼女が丹精込めて修復し、清めの刺繍を施した布製のお守りが入っていた。
「相馬君、どうか無事で……。皆を、お願い……」
彼女の言葉が蘇る。
このお守りを、必ず持ち帰らなければ。
翌朝。
ギルド前には、俺とリーナ、そして小型の荷運びゴーレム「コピまる」に物資を積み込むルナの姿があった。
「ルナは後方支援、頼んだぞ」
「はい! 通信用の魔道具で、定期的に連絡を取り合いましょう! ソウマさん、リーナさん、ご武運を!」
「じゃあ、行くか!」
「ええ!」
俺とリーナは、コピまるを伴い、行方不明のクラスメイトたちを救出すべく、朝日を浴びながら「嘆きの牙」へと続く道を踏み出した。
危険な任務になることは分かっている。
だが、俺たちには仲間がいる。
そして、この世界で成り上がるための、確かな力がある。




