31
「「Dランク昇格、おめでとう!」」
「「乾杯!」」
酒場の喧騒の中、俺とリーナはエールジョッキを景気良くぶつけ合った。
銀貨25枚ずつの大金だ。今夜くらいは、少し羽目を外してもバチは当たらないだろう。
「まさか、一気にDランクとはな。ギルドマスターも太っ腹だ」
「あんたのあの化け物じみた発見のおかげでしょ。あたしは便乗しただけよ」
リーナはエールを一口飲み、頬を少し赤らめている。普段より素直な物言いだ。
「それにしても、あの受付のエマさん? あんた、いつの間にあんな仲になったのよ」
リーナが、ニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んでくる。
「なっ、別にそういうんじゃ……!」
「ふーん? 顔、真っ赤だけど? ソウマ“様”?」
エマさんの真似をして、リーナがからかう。くそっ、この女狐め!
「それより、今後のことだ。廃坑の巨大魔石、ギルドが本格的に調査するんだろうな」
俺は慌てて話題を変える。
「ああ。俺たちも発見者として、また協力を求められるかもしれない」
「あの機械も気になるわよね。ルナなら、何か分かるかもしれないわ」
酒が進むにつれて、会話は弾んだ。
コピーしたスキルデータのこと、ゴーレムの構造のこと、そして、これからどんな冒険が待っているのか。
気づけば、俺たちは肩を並べ、一つの未来を語り合っていた。
翌日。
少し二日酔いの頭で、俺はまず冒険者ギルドへ向かった。
ギルドマスターへの追加の報告を済ませる。
巨大魔石の回収隊を編成するには数日かかるらしく、準備が整い次第、改めて連絡をくれるとのことだった。
また、昨日預けた魔石サンプルのうち、ごく小さな欠片と、新型ゴーレムの部品の一部については、研究用に使用しても構わないと許可をもらった。
それらを持って、その足でルナの工房を訪ねる。
リーナは「あたしは二日酔いで無理」と宿で寝ている。
工房の扉を叩くと、以前にも増して散らかった部屋から、隈のできたルナがひょっこり顔を出した。
「ソウマさん! お待ちしていました! これが昨日見つけたサンプルなんですね!」
彼女は興奮した様子で、俺を工房の奥へと招き入れる。
「新型ゴーレムのパーツと、魔石のサンプル……素晴らしいです! 特にこの魔石! これだけの高純度のものは、私も見たことがありません!」
俺は、コピーしておいた[古代機械の制御システム情報(部分)]や、[動力伝達機構の設計図(断片)]を頭の中で確認しながら、必要な部分を紙に書き出してルナに見せた。
「これは……! ソウマさん、あなたの『情報読解』スキル、本当にすごいですね! これがあれば、あの古代機械の謎も解けるかもしれません!」
ルナは目を輝かせ、書き出した設計情報に見入っている。
「それで、ソウマさん。以前お話ししていたMPの回復手段についてなんですが……」
ルナは作業台の上に、小さなアミュレットと、青白い魔石の欠片を並べた。
「この高純度魔石の欠片を核にして、ソウマさんが読み取った古代機械の『動力伝達機構』を魔力回路に応用できれば……MPの自然回復を少し促進できる装具が作れるかもしれません!」
「本当か!?」
MP回復手段は、俺にとって喉から手が出るほど欲しいものだ。
俺はクリップボードから[動力伝達機構の設計図(断片)]を呼び出し、その情報を確認する。
「この辺り、エネルギーの流れを一か所に集めてるみたいだ」
「やっぱり! では、この回路をここへ繋げれば……」
ルナが魔石の欠片と細い金属線を組み合わせていく。
俺はコピーした情報と照らし合わせながら、その配置を確認する。
繊細な作業だ。
途中、俺自身も何度かMPを流し込み、回路が正しく反応するか確かめた。
数時間後、ようやくアミュレットが淡い光を放ち始めた。
「……できました! 『MPリジェネ・アミュレット(試作品)』です!」
ルナが完成したアミュレットを、少し誇らしげに俺に手渡す。
「少し試してみましょう。効果があるか確認しないと」
「ああ」
俺は石ころを数回ペーストして、意図的にMPを消費する。
そのまま椅子に腰を下ろし、しばらく休んでからMPの戻り具合を確認した。
「……確かに、いつもより少し早い」
「本当ですか!?」
「ああ。劇的ってほどじゃないけど、ちゃんと違いはある」
「成功ですね!」
ルナが嬉しそうに笑った。
「これがあれば、MP管理が少し楽になるかもしれない」
これはかなり大きい。
「これも、ソウマさんのスキルと、あの素晴らしい魔石のおかげですよ」
ルナははにかむように微笑んだ。その笑顔は、普段の研究に没頭している時の険しい表情とは違い、とても魅力的だった。
(この人も、笑うと可愛いんだな……)
不意にそう思ってしまい、俺は慌てて視線を逸らした。
ルナの工房を出て、街を歩いていると、ふと見覚えのある後ろ姿が目に入った。
「佐知さん?」
声をかけると、彼女はびくりと振り返った。
「あ、相馬君……! こんにちは」
佐知さんは小さな修復屋の前で、何かの荷物を運んでいたようだ。以前より顔色も良く、少し元気になったように見える。
「相馬君、Dランクになったって本当? ギルドで噂になってたよ!」
彼女は心から祝福してくれているようだ。
「ありがとう。佐知さんも、元気そうで何よりだ」
「うん! あのあと、ここの修復屋で少し手伝わせてもらえることになって……」
そう言って微笑む彼女は、以前のやつれた姿とはかなり印象が違って見えた。
だが、その笑顔がふと曇る。
「でも……相馬君、王都の方から、もっと悪い噂が流れてきてるの……」
「悪い噂?」
「うん……高山君たちのパーティ……魔物の大群に襲われて、本当に何人か……行方不明になったみたいなの。レイカさんも、その中にいるって……」
佐知さんの声が震える。
(レイカ……クラスでも目立つ側だった女子の一人だ)
高慢なところはあったが、クラスメイトであることに変わりはない。
それに、佐知さんは彼女たちのことを本気で心配しているようだ。
追放されたとはいえ、見殺しにしていいものか……?
「相馬君……もし、もしよかったら……あの子たちを……」
佐知さんが、懇願するような目で俺を見つめてくる。
Dランク冒険者としての実力。
MP回復アミュレットという新たな力。
そして、ルナやリーナという仲間。
今の俺なら、何かできるかもしれない。
「……分かった。少し、情報を集めてみる」
俺は、佐知さんの小さな手を、力強く握り返していた。
「あ、待って、相馬君」
佐知さんは何かを思い出したように店の中へ戻り、少しして、小さな布袋を手に戻ってきた。
「これ……大したものじゃないけど。私が直して、少しだけ刺繍を入れたお守りなの。もし行くなら、持っていって」
「いいのか?」
「うん。私には、これくらいしかできないから」
俺は布袋を受け取った。
「ありがとう。大事にするよ」




