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ギルドの扉を開けると、エマさんがいつもの笑顔で迎えてくれた。
「おはようございます、ソウマさん! 今日はどんなご依頼を?」
「おはよう、エマさん。廃坑のことで何か新しい情報は? それと、Eランクで何か手頃な討伐依頼でもあれば……」
掲示板を眺めていると、背後から声がかかった。
「あら、あんたも依頼探し? 相変わらず物好きね」
リーナだ。彼女も依頼を探しに来ていたらしい。腕には新しい革の小手が追加されている。少しずつ装備を良くしているようだ。
「リーナか。ちょうど良かった。何か面白い依頼はあるか?」
「そうねえ……この『廃坑周辺の魔獣掃討』ってのはどう? 最近、廃坑の入口近くの森で、凶暴な魔獣が商人を襲ったらしいわよ。あんた、また廃坑に潜るつもりなんでしょ? 先に周りを片付けといた方が安全じゃない?」
彼女が指さしたのは、報酬銀貨1枚の討伐依頼だった。
「そういえば、リーナもEランクに上がったんだったな」
「何よ。あんただけが昇格してると思った?」
リーナは少し得意げに鼻を鳴らす。
廃坑周辺の魔獣掃討か。確かに、ダンジョンに集中するためにも、外の安全は確保しておきたい。
「いいな、それにしよう。一人より二人の方が確実だ。一緒にどうだ?」
「……しょうがないわね。この前の借りもあるし、たまにはアンタの好きそうな面倒なのに付き合ってやってもいいわよ」
リーナは少しぶっきらぼうに、だがどこか嬉しそうに言った。
「ただし! 無茶してあたしに迷惑かけんじゃないわよ!」
「分かってるって」
依頼を受注し、準備に取り掛かる。
「聖水とウォーハンマーは持った。松明も十分だ」
「あたしは罠の材料を少し補充しておくわ。解毒剤も念のためね」
手際よく準備を進めるリーナは頼もしい。
「そうだ。昨日、ギルドから紹介された研究者のところに寄っていかないか? 廃坑から持ち帰った結晶片やゴーレムの部品について、少し見てもらってるんだ」
「研究者?」
「ルナっていう、ちょっと変わった人だ。あの魔獣についても何か知ってるかもしれない」
「へえ。いいわよ、興味あるし」
ルナの工房を訪ねると、彼女は昨日会った時と同じように研究に没頭していた。
「あら、ソウマさん。それに、そちらは……?」
「冒険者仲間のリーナだ。これから廃坑周辺の魔獣を討伐しに行くんだが、何か情報はないか?」
「廃坑周辺の魔獣、ですか……」
ルナは少し考え込む。
「最近、森の生態系が少し乱れているという報告がありますね。もしかしたら、ダンジョンの影響で凶暴化したのかもしれません。……もしよろしければ、その魔獣の体組織サンプルを少し持ち帰っていただけませんか? 生態や弱点の解析に役立つかもしれません」
「分かった。できる限り持ち帰ろう」
ちなみに、ルナには【コピーアンドペースト】の詳しい仕組みまでは話していない。物や機械からある程度の情報を読み取れる、とだけ説明している。
ルナはそれを「情報読解」系のスキルだと思っているようだった。
工房を出て、二人で廃坑方面へ向かう。
「そういえば、あんたMPの回復手段を探してたわよね。ルナなら何か分かりそうなの?」
「ああ。一応、相談はしてる。あの結晶片の解析が進めば、何か分かるかもしれないってさ」
「ふーん……。あたしは最近、弟と妹を養うために、ちょっと割のいい依頼をこなしてたのよ。おかげで、少しは生活も楽になったわ」
リーナの横顔が、ふと優しくなった気がした。
廃坑周辺の森に着いた。以前来た時よりも、空気が重く、不気味な静けさが漂っている。
「……いるな。それも、一匹や二匹じゃない」
リーナが鋭い目で周囲を警戒する。
「あたしが先行して痕跡を探る。ソウマは後方支援と、いざという時の壁役ね」
「了解だ」
俺たちは声を潜め、慎重に森の奥へと進んでいった。
しばらく進むと、リーナが足を止めた。
「ここよ。新しい足跡と、獣臭がする。近くにいるわ……複数!」
その瞬間、茂みの中から黒い影が数匹、同時に飛び出してきた!
狼型の魔獣だ! だが、普通の狼ではない。その体はまるで影のように揺らめき、実体があるのかないのか判別しづらい。目が赤く不気味に光っている。
「シャドウウルフ! 厄介なのが来たわね!」
リーナが短剣を構える。数は四匹!
「キシャアアア!」
シャドウウルフたちが、俺たちを取り囲むように襲いかかってきた!
俺はウォーハンマーを、リーナは二本の短剣を構え、背中合わせになる!
「ソウマ、右から来るわよ!」
「了解! そっちは任せた!」
一体が影の中から奇襲を仕掛けてくる!
(動きをコピー!)
《[シャドウウルフの奇襲パターン]をコピーしました。クリップボード容量:10 / 10》
コピーした奇襲パターンと、目の前のシャドウウルフの姿勢を照らし合わせる。
沈み込む前脚、飛び出す直前の重心の偏り。
軌道を読み、ウォーハンマーで叩き潰す!
「ナイス!」
リーナが叫ぶ。
彼女もまた、驚異的な俊敏さでシャドウウルフの攻撃をかわし、短剣で的確に急所を狙っていく。
事前に仕掛けていたらしい音の鳴る罠が発動し、一匹の動きを鈍らせた!
「こいつら、影に紛れるぞ! 気をつけろ!」
俺は石ころを複数ペーストし、手元に現れた石を、影が揺らめいている場所へ次々に投げつける!
MP消費は大きいが、出し惜しみはできない!
さらに瓦礫を複数ペーストし、簡易的な障害物を作ってシャドウウルフの連携を分断する!
リーナがその隙を突き、一匹の喉を切り裂いた!
「あと二匹!」
だが、シャドウウルフの攻撃は激しさを増す。一匹が俺の死角から飛びかかってきた!
「ソウマ!」
リーナの声と同時に、彼女の投げた短剣がシャドウウルフの目を貫いた!
「助かった!」
「借りは返したわよ!」
最後のシャドウウルフを、俺とリーナの同時攻撃で仕留める。
ウォーハンマーの一撃と、リーナの短剣が、寸分違わぬタイミングでシャドウウルフを捉えた。
「はぁ……はぁ……やったか……」
森の中に、俺たちの荒い息遣いだけが響く。
シャドウウルフの死骸が四つ。激しい戦いだったが、二人の連携は見事に機能した。
「なかなかやるじゃない、ソウマ。あんたのスキル、やっぱり便利ね」
「リーナこそ、助かった。あの短剣は見事だった」
お互いの健闘を称え合う。少し照れくさいが、悪い気はしない。
戦闘が終わり、改めてクリップボードを確認する。
シャドウウルフの奇襲パターンは、もう残しておく必要はないだろう。
《[シャドウウルフの奇襲パターン]のデータを削除しました。クリップボード容量:9 / 10》
ふと、倒れたシャドウウルフの体を見る。
死んだ今でも、その黒い毛並みは周囲の影に溶け込むように揺らめいていた。
(動きじゃなくて……こいつの、この性質そのものは?)
試しに意識を集中する。
(コピー)
《[シャドウウルフの影特性(断片)]をコピーしました。クリップボード容量:10 / 10》
「……え?」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
以前試した時には、こういう「性質」そのものはコピーできなかったはずだ。
《特性情報の一時的な自己適用が可能です》
「……マジか」
いつの間にか、できることが増えている。
「どうしたの?」
「いや……ちょっと、スキルに変化があったみたいだ」
「また? 本当に変なスキルね」
シャドウウルフの牙や毛皮、そしてルナに頼まれた体組織サンプルを採取する。
依頼は達成だ。
ふと、廃坑ダンジョンの入口が、森の木々の間から遠くに見えた。
「……」
「次は、あの中ね」
リーナが、俺の視線の先を追って呟いた。
「ああ。今度は、あの機械をもっと詳しく調べたい」
俺は力強く頷いた。仲間がいれば、もっと深くへ行けるかもしれない。




