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ギルドの扉が軋む。
「エマさん、戻りました!」
カウンターの彼女が顔を上げる。俺の姿を見て、目を丸くした。
「ソウマさん! その格好……! まさか、廃坑の奥で一体何を……!?」
「ああ、色々とな。廃坑の深部まで行ってきた。そこで、とんでもないものを見つけてしまってな……警備ゴーレムと戦う羽目になったんだ」
「ゴーレム!? 一人で!? あと、このリュックの中身は……?」
エマさんが息を呑む。
俺はリュックから、青い結晶体のかけらと、ゴーレムの金属パーツをいくつか取り出し、カウンターに置いた。
「それと、前回途中だった地図も、ここまで埋めてきた」
借りていた羊皮紙を取り出し、カウンターへ広げる。
未踏破だった坑道の分岐から、大空洞までの経路を書き込んだ地図だ。
その時、ギルドの奥から重々しい足音が響いた。ギルドマスターだ。
「……話は聞かせてもらった、小僧」
ギルドマスターの鋭い目が、俺とカウンターの品々を射抜く。
「ギルドマスター……!」
ギルドマスターは地図を確認し、続いて青い結晶片とゴーレムの部品へ視線を移した。
「Eランクになったばかりとは思えん成果だ。廃坑の未踏破区域を調査し、ここまで地図を完成させ、その上でゴーレムを複数体倒し、この未知の結晶体まで持ち帰るとはな。正直、驚いている」
周囲の冒険者たちが、どよめいた。
「ありがとうございます」
素直に頭を下げる。
「この地図なら、大空洞までの経路は十分に確認できる。今回の依頼は完了扱いでいいだろう」
「本当ですか?」
「ああ。それ以上、一人で深入りしなかったのも正しい判断だ」
ギルドマスターは青い結晶片を見つめる。
「その結晶体、極めて純度の高い魔石のようだが、詳細は解析が必要だ。ギルドで預からせてもらう。無論、相応の報酬は支払う。ゴーレムのパーツも、鍛冶ギルドに回せばそれなりの値が付くだろう。これも買い取ろう」
エマさんが、興奮した様子でずっしりと重い革袋を差し出す。
「こちら、前回保留になっていた廃坑調査依頼の残りの報酬と、今回の成果報酬、それから結晶片とゴーレム部品の買い取り、遺跡発見の特別報酬を合わせて……銀貨30枚になります!」
「銀貨30枚……! こんな額になるのか……」
目を疑うような大金だ。これで装備もかなり整えられる。
その時、ギルドの入口が騒がしくなった。
「おい、相馬! てめえ、本当に廃坑の深部から戻ってきたのか!? ギルドマスターまで出てきて、一体何をやらかしたんだ!?」
カイトだ。俺とギルドマスター、そしてエマさんが持つ報酬袋を交互に見て、信じられないといった表情を浮かべている。
「カイト、騒がしいぞ」
ギルドマスターが静かに、だが有無を言わせぬ口調で制した。
「相馬君は、その実力に見合う正当な評価と報酬を受けたまでだ。お前も、他人の成果に口を出す暇があるなら、自分の腕を磨くことだな」
「くっ……!」
カイトは悔しそうに顔を歪め、俺を睨みつけた。
「見てろよ相馬! 俺だってすぐにEランクになって、お前なんぞ追い越してやるからな!」
そう捨て台詞を残し、カイトは荒々しくギルドを出て行った。
「やれやれだ……」
だが、これでようやく少し落ち着ける。
ずっしりと重い報酬袋を手に、俺はエマさんとギルドマスターに改めて礼を言い、ギルドを後にした。
まずは腹ごしらえと、情報収集を兼ねて、少し評判の良い食堂へでも行ってみるか。
街の少し外れ、普段はあまり足を向けない静かな通り。
露店の陰で小さな人影がうずくまっているのが見えた。
薄汚れた服、痩せた頬。何かを売ろうとしているようだが、その商品は粗末な木彫りの人形や、いびつな形の焼き物ばかりだ。
まさか……。
「……佐知さん? ……クラスの、佐知さんか?」
声をかけると、少女はびくりと顔を上げた。間違いなく、元クラスメイトの佐知さんだった。だが、ひどくやつれている。
「え……? あ……あなたは……相馬……君? 本当に……? その格好……冒険者、なの?」
彼女は俺の姿に戸惑っている。
「ああ、なんとかやってる。佐知さんこそ、どうしてこんなところで……」
「私……最初は【修復】系のスキルだからって、お城に残れたんだけど、私のは【修復(劣)】だから……結局、役に立たないって言われて、お城を出ることになって。それから戦闘パーティにも全然入れてもらえなくて……」
「そうだったのか……」
「最初は、こうやって自分で作ったものを売って生活しようとしたんだけど、全然売れなくて……もう、お金も食べ物も……」
俯く彼女の声は、か細く震えていた。
そうだったのか……。この世界は、非戦闘スキル持ちには過酷すぎる。
リュックから、保存食のパンと干し肉を取り出し、彼女に差し出す。
「これ、食ってくれ。それと、ここにあるもの、全部買わせてもらうよ」
「えっ!? そ、そんな……悪いよ! こんなガラクタにお金なんて……」
「いいから。困った時はお互い様だろ? 元クラスメイトとしてな」
俺は銅貨を数枚取り出し、彼女の前に置いた。
佐知さんは、パンを震える手で受け取ると、堰を切ったように泣き出した。
「ありがとう……本当に、ありがとう……相馬君……!」
少し落ち着いた後、ギルドで紹介してもらった安くて安全な宿の場所を教えた。
「それで、佐知さん。他のクラスメイト……勇者たちはどうしてるんだ?」
「勇者君たちは……王都で、お城の人たちと一緒に訓練してるって聞いたけど……。でも、高山君たちが、結構無茶なことしてるみたいで……そのせいで、怪我する人も多くて……もう、何人か……戦えなくなった子もいるって……」
(高山……クラスでも目立つ側だった男子の一人だ)
佐知さんの声が再び曇る。良くない話だ。
「そうか……」
胸に重いものがこみ上げてくる。
佐知さんに別れを告げ、食堂へ向かう足を止めた。
手に入れた報酬。これで俺は強くなれる。だが、それだけじゃない。
この力で、何かを変えられるかもしれない。
俺の成り上がりは、ただ自分のためだけじゃない。そう、強く思った。




