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「この先に何があるんだ……?」
好奇心と、それ以上の得体の知れない恐怖が背中を押す。松明の炎を頼りに、俺は慎重に音の源へと近づいていった。
通路は徐々に広がり、壁の質感も変わってきた。
人の手で削られたような滑らかな壁面だ。
所々には、見たこともない金属製のパイプのようなものが埋め込まれている。明らかに、これまでの坑道とは違う、人工的な構造だ。
ついに辿り着いた。
そこは、巨大な地下空洞だった。ドーム状の高い天井。そして、その中央に鎮座していたのは――巨大な機械だった。
いくつもの歯車が複雑に絡み合い、太いパイプが縦横に走り、時折、青白いスパークのような光が明滅している。あの低い唸り音は、この機械が発していたのだ。まるで、巨大な心臓が鼓動しているかのように。
「なんだ……これ……。遺跡か……?」
言葉を失い、ただ目の前の光景を見上げる。これが、廃坑の奥に隠されていた秘密か。
機械に近づき、その表面を観察する。錆びついてはいるものの、頑丈な金属でできているようだ。
表面には、見たこともない幾何学的な文様や、解読不能な文字がびっしりと刻まれている。
「この文字……コピーできないか?」
機械の表面に手を触れ、意識を集中する。
(コピー!)
《[古代機械の表面情報(断片)]をコピーしました。クリップボード容量:7 / 10》
成功した! 完全な情報ではないようだが、何かの手がかりになるかもしれない。
さらに、機械の動作している部分、例えば回転する歯車や、エネルギーが流れていそうなパイプへ意識を向ける。
動作原理とか、動力源とか……何かわかれば。
だが、複雑な機構やエネルギーそのものは、やはり簡単にはコピーできないようだ。
《対象が複雑すぎるため、部分的な構造データのみコピー可能です》
なら、構造だけでも。
露出している歯車やパイプの接続部分へ意識を集中する。
(コピー!)
《[古代機械の構造情報(断片)]をコピーしました。クリップボード容量:8 / 10》
《現時点では、高エネルギー体そのものの直接コピーは不可能です》
システムメッセージが脳内に表示される。
「やっぱり、そう上手くはいかないか……」
それでも、部分的な構造データでも何かの役に立つかもしれない。
その時だった。
キィィィン!!
甲高い警告音のような音が空洞に響き渡り、機械の一部分が赤く点滅し始めた!
「まずい、何か作動させたか!?」
次の瞬間、機械の周囲の床が数カ所開き、そこから金属製の腕を持った、人型の機械――ゴーレムのようなものが三体、姿を現した!
目は赤い単眼レンズで、腕には鋭いクローや、銃口のようなものが装備されている。スケルトンとは明らかに違う、無機質で冷たい殺意を感じる。
「チッ、警備システムか何かか!」
ウォーハンマーを構え直し、ゴーレムたちと対峙する。
一体が、腕の銃口から青白いエネルギー弾を撃ってきた!
「うおっ!」
横っ飛びで回避! エネルギー弾は壁に当たり、小さな爆発を起こす!
「魔法とは違う……エネルギー攻撃か!」
ウォーハンマーで殴りかかるが、ゴーレムの金属製の装甲は硬く、浅い凹みができるだけだ。
「こいつも硬いのかよ!」
ショートソードに持ち替えて関節部を狙うが、動きが機械的で正確なため、なかなか捉えられない。
(動きをコピー……!)
《[警備ゴーレムの動作パターン]をコピーしました。クリップボード容量:9 / 10》
これで少しはマシになるはずだ。
だが、敵の攻撃は容赦ない。クローが空を切り、エネルギー弾が飛び交う。
「聖水は……こいつらには効かないだろうな」
(ピッケルだ!)
ロックイーター戦で有効だった、ピッケルの複数ペーストを試みる!
「ペースト、3つ!」
MPを消費し、ゴーレムの頭上や関節部を狙える位置にピッケルを生成する!
重力に引かれ、ピッケルが落下した。
ガキン! ギギギッ!
何本かは弾かれたが、一体のゴーレムの肩関節にピッケルが突き刺さり、火花を散らしながら動きが鈍った!
「よし!」
その隙を逃さず、ショートソードで関節の隙間を抉る!
ゴーレムは異音を発しながら、その場に崩れ落ちた。
あと二体!
だが、MPの消耗が激しい。複数ペーストは連発できない。
(足止めだ!)
ゴーレムたちの足元に瓦礫を複数ペーストし、動きを阻害する!
その隙にウォーハンマーで一体ずつ確実に殴りつけ、関節部や、エネルギーを発していそうなコアの部分を狙う。
「くそっ、しぶとい!」
一体のゴーレムが、俺の生成した瓦礫を蹴散らし、突進してきた!
避けきれない! チェストプレートで受け止めるが、強い衝撃に息が詰まる!
(まだだ!)
体勢を立て直し、カウンター気味にウォーハンマーを叩きつける!
何度目かの強打で、ついに二体目のゴーレムが機能を停止した。
残るは一体!
そいつは、仲間がやられたのを見てか、より激しくエネルギー弾を連射してくる!
「これ以上MPは使えない……!」
回避に専念し、懐に飛び込むチャンスを窺う。
ゴーレムがエネルギーチャージのために一瞬動きを止めた。
(今だ!)
ショートソードを逆手に持ち、全力でゴーレムの単眼レンズめがけて突き刺した!
バリバリッという音と共に、レンズが砕け散り、ゴーレムは動きを止めた。
「はぁ……はぁ……終わった……のか……?」
その場にへたり込む。MPも体力も、もう限界に近い。
ゴーレムが全て沈黙すると、先ほどまで機械から発せられていた低い唸り音が、ふっと止まった。
そして、機械の中央部分がゆっくりと開き、中から眩い光と共に、人の頭ほどの大きさの、透き通るような青い結晶体が姿を現した。
「なんだ……あれは……魔鉱石の原石……? いや、もっと純粋なエネルギーの塊……?」
見たこともない、美しい輝き。これが、この機械の動力源か何かだったのだろうか。
(これをコピーできれば……!)
だが、今のMPでは何もできない。それに、これ以上ここにいるのは危険だ。
よく見ると、結晶体の根元には、先ほどの戦闘の衝撃で欠けたらしい青い破片がいくつか散らばっていた。
「本体は無理でも……これくらいなら持ち帰れるか」
俺は小さな欠片を一つ拾い、布で包んでリュックへしまった。
さらに、倒した警備ゴーレムから外れていた金属部品もいくつか回収する。詳しいことは分からないが、ギルドへ持ち帰れば何か分かるかもしれない。
借りてきた羊皮紙を取り出し、ここまでの分岐と、大空洞へ続く経路、その位置をできる限り正確に書き込んだ。
完全な地図とは言えないかもしれないが、次に誰かがここまで来るための目印にはなるはずだ。
俺は、コピーしておいた機械の断片的な情報を頼りに、後でまた調査に来ることを決意した。
疲労困憊の体を引きずり、俺は来た道を引き返し始めた。
松明の光も、もう残りわずかだ。
ダンジョンの入口近くまで戻ってきた時、前方から見覚えのある姿が歩いてくるのに気づいた。
高慢ちきな剣士、カイトだ。
彼は俺の姿と、その疲弊しきった様子を見て、眉をひそめた。
「……おい、お前」
「なんだ?」
「まさか……あの奥まで行ってきたのか?」
「ああ」
カイトの顔に驚きが浮かぶ。
「嘘だろ。あの先はアンデッドまで出るって話だぞ。Eランクになったばかりのお前が、一人で……?」
「俺も、こんなことになるとは思ってなかったけどな」
カイトの視線が、膨らんだ俺のリュッくへ向かう。
「ビッグボアを倒したって話……まぐれじゃなかったのかよ」
「まぐれでも何でもいいさ。無事に帰ってこられたなら、それで十分だろ」
「くっ……」
俺はそのままカイトの横を通り過ぎようとした。
「待て!」
カイトが呼び止める。
「お前……何者だ? ただの新人じゃねえな?」
その目には、初めて会った時とは違う、どこか探るような光が宿っていた。
「さあな。ただの冒険者だ」
俺はそれだけ答えて、今度こそカイトを後にした。




