8 チャイムの設置と不思議現象
昨日買ったチャイムを取り付けた。これで少し文明的な生活ができるだろう。チャイムがあるって文明的だよね。思っているのは俺だけ?自己満足でいいや。
「なあ、ケン太。」
「ワン。」
じいちゃんちじゃあなくて、俺んちは、車庫の後ろに倉庫があるんだ。倉庫は二つ。
手前の倉庫は、道具置き場だ。俺の知らない作業道具がきちんと整理されて、壁につるされていた。トラクターまである。俺は、トラクターの運転なんてしたことがない。どうやるんだ?
トラクターの勉強は、今夜の暇つぶしとなる予定だ。
山に近い倉庫は、収穫した作物を置いておく倉庫らしい。入るとちょっとひんやりする。エアコンもないのにどうしてだと思ったが、そこは、昔の蔵みたいで、壁の厚い漆喰仕様みたいだ。
「昔の人ってすごいよな。電気もないのに知恵だけでこんな建物を作るんだもんな。ケン太もそう思うだろう。」
「ワンワン。」
すでに、収穫したリンゴを置いてある。なんだか、採った時よりおいしそうに見える。一つつまみ食いだ。ケン太もそそくさっとやってきて、自分でリンゴを加えて外に出て行った。出ていく時、俺を振り返るんだ。で、思い立った。倉庫はきれいに使わないと。食べるんだったら、外に出てからだ。ケン太に作法をお教えてもらった。そのケン太は、倉庫のそばでおいしそうにリンゴをほおばっている。
「リンゴ、美味しいな。」
「ワン。」
ピンポーン。
チャイムがなった。結構大きな音だったので驚いた。ケン太は驚いていなそうだ。動物は、音に敏感だから、誰か来るのがわかったんだろう。動物って、すごいよな。チャイムが早速役に立った。
昨日の宅配業者だった。今日は、おふくろからだ。俺の服とかだろう。連日、こんな奥に申しわけない。
「ちょくちょく山を下りてますから、来る前に連絡ください。事業所に取りに行きますよ。」
「そうしていただけると、助かります。」
「ご苦労様。」
「ワン。」
ケン太も労わっている。このドライバーさんにもリンゴのお裾分けだ。
それがあんな事件になろうとは……。
本日は、チャイムの出来に満足して、ごきげんに布団に入ったんだよ。そしたら、ケン太が夜中にむっくり起き上がって
「ウー、ウゥ。」
とか吠えるんだよ。隣の俺さえ怖くなるほどだった。ケン太は外に向かって敵意をむき出しにしていた。良く聞くと、人の声が聞こえてくる。内容は聞き取れない。俺は、なけなしの勇気を振り絞って、玄関から一番遠い縁側の窓から外に出て、玄関にソーと回った。何と、リンゴ泥棒だ。倉庫の鍵を閉め忘れたらしい。
ケン太を落ち着かせ、110番だ。俺は、家中の鍵を静かに確認して、警察が来るのを待つ。でも、ここは町から車で1時間の距離だ。
「間に合ってくれ。」
祈るような気持ちでスマホを握りしめていた。願いは、通じなっかった。
バタン、バタンとドアの閉まる音がして、泥棒野郎は任務完了して帰ってしまった。
倉庫を見ると、根こそぎやられていた。俺は収穫しただけだが、じいちゃんの苦労を思うと怒りがふつふつと湧いてくる。ケン太も倉庫を見て鳴いている。もう一度、警察に電話しようとしたら、パトカーが到着した。
遅い、と文句を言おうとしたが、途中で泥棒に遭遇しているはずだ。俺は文句を言うのをやめた。正解だったらしい。
「ちょっと先で、リンゴを積んだトラックに会いましてね。確認して欲しいのですが。」
俺は、空っぽの倉庫に案内して、家の中にあったリンゴを持ってきて、
「これと同じリンゴを盗まれました。」
パトカーから、
「証拠がねえだろう。」
「それは、俺たちが違う家から頼まれて運んでるんだ。」
騒いでいる。警官も、
「決定的な証拠がないと、難しいかもしれません。」
暗かったし、顔はハッキリ見ていない。でも、車はわかる。でも、
「盗んでいるときの画像でもあれば一発なんですが。」
ケン太が、玄関先で吠えている。そうだ。あれだ。
証拠は、バッチリ映っていた。玄関のチャイムだ。このチャイムは高性能ではないが、おもしろい機能がついていた。チャイムを押すと画像が録画されるんだ。残り1つで安かったんだよ。今時、家の中に通じないのはお呼びじゃあないらしい。
そんで、寝る前に、チャイムがなったんだよ。俺にはちゃんと聞こえたんだが、ケン太が反応しないから、気のせいか、何かの誤作動だと思って放置してたんだ。
それにくっきり映っていたんだ。それも音声付きで。これをつきつけられて言い逃れはできなくなった。何て、高性能のチャイムだ。
犯行動機は、【美味しいリンゴだから、都会に持っていったら売れるだろう】。人の迷惑を考えろ。
リンゴは、無事に帰ってきた。
後日、宅配業者のドライバーさんが謝りに来た。
「すみません。俺が、ご近所にリンゴを配ったんです。そん時に、こちらの家を教えてしまって、俺のせいです。」
なんでも、
「美味しいリンゴだから、大量に買って親戚に送ってやりたい。」
って、言われたらしい。ドライバーさんは、何度も頭を下げて帰って行った。
「ケン太。門扉もかんがえるか。」
「ワン。」
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