5 ご近所にご挨拶
昨日で生活に関係する手続きは終わっている。
ちなみに、買い物のできる町までは、車で一時間だ。昨日は、結構、車を走らせた。
今日は、お隣にご挨拶に行こうと思う。隣と言っても、歩いて行けない。車で10分くらいだ。昨日、ちゃんとお土産は買った。俺だって、そのくらいの気遣いはできるんだ。お土産は、蕎麦だ。だって、どんな人か。家族はいるのかとか、わかんないから、無難に蕎麦にしたんだ。
隣の家に着いた。でも、チャイムが無い。探しても無かった。良く考えると、じいちゃんちにもないことに気が付いた。
「ケン太。留守かなあ。」
ケン太が、突然、走り出した。
「ワン。ワン。」
「何だ、犬っころか。爺さんが死んで、また野良に戻ったか。」
「ワンワンワン。」
「あの~。」
隣人に驚かれた。驚きっぷりに俺の方が驚いた。
「悪いな。客なんて、久しぶりだからよ。」
「俺は、隣にしばらく住むことになった日吉勘太です。」
「隣って、この犬っころの家か。」
「はい。じいちゃんが、生前お世話になりました。」
お世話になったのか知らないが、定番の挨拶だ。
「爺さんは、残念だったな。ご愁傷様。」
向こうも、定番だ。
「これ、ご挨拶です。」
蕎麦を差し出せば、
「悪いな。気を遣わせて。」
ぶっきらぼうでも、悪い人ではないみたいだ。ケン太もなついていたしな。
「この辺は、何も知らないので、教えてもらえたら助かります。あと、この犬に名前を付けました。ケン太です。」
「やっと、名前がついたのか。ケン太か。良かったな。」
ケン太の頭をクシャクシャ撫でている。やっぱりいい人だ。
「何でも、聞きに来い。」
車に戻って、なぜかケン太の頭をクシャクシャ撫でていた。なんでだ?
挨拶も終わった。じいちゃんちのさらに奥は、民家がないそうだ。でも、せっかくだからちょっと様子を見に行ってみよう。と、思ったのがいけなかった。行けども行けども一本道だ。もちろん、人も歩いていない。車だってすれ違わない。だけど、山側にずーとフェンスが張ってある。頑丈そうなフェンスだ。不法投棄防止だろうと思いながら、戻る方法を探す。戻ろうにも、uターンできる道幅ではない。どうしようかと思いながら車をゆっくり走らせると、ちょっと広いところに着いた。
心臓がバクバクしていたのが、少し落ち着いた。uターンしたら、看板が目に入った。降りて読むと【国有地】【立入禁止】と書いてあった。国有地なら、あの頑丈そうなフェンスも納得がいった。俺は、一つ学んだ。じいちゃんちより奥は、来る必要の無い場所だ。さっさと帰ろうとしたが、何か、気持ちが良い空気だ。ケン太も気持ちよさそうだ。木が風にゆれてサワサワと心地良い。
これが森林浴か?マイナスイオンか?
ちょっと、寝っ転がってみたら、寝ていたらしい。ケン太の顔ペロペロで起こされた。少し、暗くなっていた。寝る前の気持ち良さが、嘘のように無くなり、チョットの不気味さが漂ってくる。
木が風でゆれる。ザワザワと木がゆれるているだけなのに、不気味さがある。
「ワン、ワン、ワン、ワン。」
ケン太も、怖いのか吠えている。急いで、来た道を戻る。暗くなる前に帰ってこれた。なんだかホッとした。
じいちゃんちが、温かく迎えてくれてるみたいだ。ケン太も尻尾を振っている。
あらためて、じいちゃんちを眺めた。
「ワン、ワン。」
ケン太が、早く家に入ろうと言っている。
もう、ここが、俺の家なんだ。俺とケン太の家だ。
明日は、家の周りの散策をしよう。何があるのか楽しみだ。
でも、ケン太が居なかったら、一人暮らし一日目で逃げ出していたかもな。
「頼りにしてるぞ。相棒。」
「ワン。」




