45 時は来た。扉は開く。
【時は来た。扉は開く。】
「ケン太、聞こえたか。」
「ワン。」
「妻の伝言、しかと受け取った。礼を言う。」
初代様の台座がほのかに光っている。ヒカリ苔の灯かりではない。
「警戒しなくてもいいぞ。我が子孫よ。」
「はじめまして。日吉勘太です。あと、ケン太です。」
「ワンワン。」
「疑問がが山ほどありそうだな。全て答えよう。」
勘太は、何から聞いて良いのかわからなかった。ただ一つ、どうしても聞いておかなければならないことがあった。
「ケン太は、こもまま俺といられるのですか。」
「ケン太が望むにであればな。」
ホッとする。
「ケン太は、お前といることを望んでおる。そうだな。」
「ワンワン。」
「未だ、混乱しているようだな。」
「はい。」
「ならば、我が勝手に話そう。」
我の名はカイジン。名前のみだ姓はない。我は、ある日鍵を手の入れた。そして、ある扉を通ってこの地に来た。共は、ケン太の祖だ。我の故郷は、社の神の言う見えざる地だ。この地は、魑魅魍魎と戦っていた。我は、その戦いに加わった。そして、この山の頂上から魑魅魍魎が現れるのを知った。山には社があり、一柱の神が宿っていた。神に問うた。
「神よ、なぜ神ならね所業を致すのだ。」
神は一言、寂しそうに言ったのだ。
「疲れた。」
それからは、我は、神と共に有った。
我が死んだ時、我が通ってきた扉に鍵をかけ、我の亡骸はここに安置された。神も、社に帰り、社に鍵をかけた。二つの鍵は、我らの子供たちに託された。
神は、この地の永続を、子供たちに願った。神も誓った。この地に我らの子孫がいる限り、山の恩恵と平和を。
「まあ、こんなところかな。して、質問はあるか?」
「伊勢の苗字はどこから。それに台座は異世になってます。」
「この地に来た時、魑魅魍魎と戦っていたのは伊勢の大社の人達で、一緒に戦った。着ていて服が似ていたので仲間だと思われたようだ。そして、時の権力者からこの山を仲間と共に賜った。しかし、我以外の者は伊勢に帰ってしまった。我は、「伊勢様」と呼ばれ山に住み着いた。それ以来、伊勢となった。しかし、妻の神や子供達と
『伊勢ではなく、異なる世界から来たのだから、本来は異世かもな。』
たわいもない会話だったが、台座に「異世 界人」と刻まれた。
今ならわかる。我は、望郷の念があったのだろう。」
「いらっしゃらない方は、どこに埋葬されたのですか。」
「あれらは、妻や家族と共にいる。」
「ここに埋葬されなくてもいいのですか。」
「もちろん。愛する者と共に有ることは自然だ。我は、敵わなかったがな。」
「貴方は、異世界人ですか。なら、ケン太は?」
「神の言う、見えざる地から来たものだ。それを現代は異世界と呼ぶのだろう。ケン太の祖先もそうだ。お前とケン太は同じ境遇と言うことだ。見えざる地の人の子孫と見えざる地の魔物の子孫だな。ただ、ケン太には少しの前世の記憶がある。」
「魔物の子孫?」
「この地では使えないが、見えざる地は魔法が使える。我もあれも魔法が使えた。優秀な魔物で相棒であった。記憶も子孫に引き継がれていた。しかし、この地で、段々と血も薄れていき、記憶も少なくなっていった。
妻は、ここへの心情が強かった。そして、神だ。妻はほんの少しの神力を山に与えた。それ故、山は意思を持ってしまった。我は、その山に条件を付けた。我が一族が住まうまでと。我も優秀な魔法使いだっだのだ。
我が相棒は、我と共にこの地で過ごしてくれた。そして、今がある。」
「この鍵は?」
「見えざる地に通じる扉の鍵だ。今も使える。イヤ、使えるようになった。我は扉を封印した。扉は、鍵が無くても開くのだ。だが、見えざる地からは開かない。鍵を持っているもののみ、行き来ができる。鍵を持たぬまま扉をくぐる者がいた。己の意思でならいい。しかし、そうでない者もいた。助けを求める者に、こちらから扉を開けても、その者は帰ってこれなかったのだ。故に封印した。ただ、封印は、封印を解く条件が必要だった。条件は社の鍵が開くことだ。そして、社の鍵は開いた。」
「鍵を持たない者は、この地にもやってきたのですか。」
「来た。だが、不思議なことに、湧水までしか行けなかった。神のこの地の平和を守る誓いだろう。見えざる地は、そうではない。一度、向こうへ行った者から手紙が投げ込まれたことがあった。そこに、「見えざる地で元気にしている。」とあった。
「伊勢家の者が、この地を去るとただの山になると聞きました。」
「そうだ。山はただの山になる。当然、扉もなくなる。永遠にな。」
「貴方方は、それでいいのですか。」
「良い。我々も社も山も足かせになってはならない。」
「その他に、扉を閉める方法は?」
「ある。扉を開け鍵を投げ込み閉めればいい。簡単なことだ。」
「見えざる地への扉は、ここだけですか。」
「そうだ。我の生きた時代にはいくつもの扉があった。しかし、今はここだけだ。見えざる地に行って帰ってこれる者も、鍵を持つ者だけだ。」
「鍵は、二本だけですか。」
「ワレの知る鍵は二本だけだ。だが、鍵は他にもある。今は失われた扉の鍵だ。我は、それらの所在は知らぬ。」
「ケン太も持っている?ブラウニーは?」
「ケンタも鍵を持っているだろう。二つの鍵は生きている限りお前たちの物だ。他の者が手に取ろうと、我らに認められた者以外は無用の鍵になる。ブラウニーも見えざる地の妖精だ。しかし、いつ、この地に来たのわからない。突然来て、あの家を気に入って住み着いた。妖精は寿命が無い。我の時代よりあの家を守ってくれた。ただ、ブラウニーには鍵は無い。」
「扉は?」
「すぐそこにある。決めるのは勘太、お前ぞ。」
「・・・。」
「では、達者でな。我らは見守っている。」
初代様は、静に消えていった。
霊廟にはヒカリ苔が光を放っているだけだ。
「ワンワン。」
「そうだな。帰ろう。」
読んでいただいて、ありがとうございます。
次回が、最終話になります。勘太の決断は・・・。




