39 鍵が開いた
天気は良好。
これから伊勢家のお墓探しだ。
一番疑わしい洞窟に行くことにした。今日も奥に行けないかもしれないが、【時は来た】を聞いたのは洞窟を出た時だ。奥に行けなかったら、お社に行ってみようと思う。今のところ、鍵穴があるのはお社だけだ。
留守番をブラウニーに頼み、ケン太と山に入る。湧水でケン太の水飲みだ。お花畑では、果物のつまみ食いだ。山に入るルーティンを済ませる。
一度来ているので、少し歩きやすくなっている。ただ、今回の荷物に梯子があるんだ。洞窟は、登りは良いんだ。降りるのに苦労したんだ。運動神経が平凡な俺では、怖かったんだ。
考えてみてくれ、いくら短いとはいえ、ボルタリング見たいなところを降りるんだ。前は、必死だった。だから、今回は用意した。もちろん置いてくる予定だ。お花畑を出てから狭い山道を梯子を背負っての登りは大変だった。でも、何とか着いた。
ケン太は、登りも降りも一飛だ。かっこいい雄姿だった。
残念ながら、洞窟の奥は行けなかった。ここではないのか。
この後は、お社だ。
お社まではすんなりと着いた。驚いたことに、お社がきれいになっている。
「ケン太、もしかしてブラウニーか?」
「ワン。」
家の住民は、オレ以外有能だ。
お花畑のお花と果物を供える。手を合わせて、
「おはようございます。今日は、鍵を合わせていただきます。」
ケン太の鍵を外そうとしたら、嫌がった。なので、先に俺の持つ鍵を試してみた。やっぱり、回らない。
ケン太の鍵はバネになっていてのびるフォルダーがついている。ケン太は、首についていれば嫌がらないようだ。
首につながったまま、鍵を回す。
回った。
俺は、ゆっくりお社の扉を開ける。其処には、一体の女性の姿があった。岩に直接彫られているようで、動かすことはできない。でも、汚れている。俺とケン太は蜘蛛の巣を払ったり、断りを入れて、全体をお掃除した。
「苔を取らせていただきます。」
失礼ではあるが、新品のタワシで全体をゴシゴシさせてもらった。
汚れを落とし、仕上げは湧水を含んだ布で拭いた。途端・・・。
「我が子孫よ。礼を言います。」
驚いて、返事もできない。
「フフフ。驚いていますね。」
「ハイ。」
やっと、声が出た。
「童は、結界を司る神。そして忘れられた神である。」
「は、初めまして。日吉勘太と申します。こ、この犬はケン太です。」
「ワンワン。」
やっとこさ挨拶した。
俺は聞きたいことはいっぱいあったはずだ。でも。ただただ驚くだけで、何もできない。俺とは反対に
ケン太は、臆することもなく吠えている。
「ワン。」「ワンワン。」
「ケン太。良い名を貰いましたね。お前には長く苦労を掛けました。まもなくお前の故郷の扉も開くでしょう。帰りますか?帰るのなら、元の姿に戻しましょうか。」
「ワンワンワン。」
「そうですか。お前は既に決心しているのですね。」
神とケン太が話をしている。俺は、ハッとした。
「待ってください。ケン太は、ケン太は………。連れて行ってしまうのですか。」
「いいえ、ケン太はあなたと共にいることを望みました。」
良かった。ケン太は、いてくれる。でも、
「ケン太は?あなたは?」
「先に言いました。童は、結界を司る神。そして忘れられた神である。そして、日吉勘太よ。そなたは童の子孫ぞ。」
「では、むかし話は事実なんですか。」
「概ねは事実である。しかし、童の言葉がこれほどに重い言葉になるとは思わなんだ。伊勢家の子供達には、苦労を掛けてしまった。童は、子供たちの幸せを望んでいたのにな。」
「では、この山は?」
「確かに、山は童の結界で守られておる。よそ者は受け入れぬ。故に山は豊かなり。」
「でも、じいちゃんは山に入ってました。」
「お前の言う、お花畑までだ。それは、童の意思ではない。山の意思だ。」
「山にも意思がある?」
「そうだ。お前のじいちゃんは、違うの。七海の夫は、七海の為に山に願うた。妻の心を無駄にしないでくれと。山は受け入れただけだ。そして、お前が来た。山は喜んでおる。」
「山はこれからも意思を持ち続けるのか。」
「山に我が子孫のいる限り。」
「子孫が居なければ、どうなる。」
「どうにもならない。ただの山になるだけだ。気にすることは無い。山は、童の心情とちょっとの神力、それと、童の夫の生命力で意思を持ったのだ。深く考えるな。深く考えるほど呪いの物語になるようだからな。」
「それは………。」
「あの者は、山に受け入れられなかった。どうしてかわからぬ。だが、あの者は山を一番理解していたのかもしれん。今は、どうでもいいことだ。山は許したのだからな。」
「貴方は、全てご存じなのですね。」
「童は忘れられた神ではあるが、この地のことは見えている。山がこの山である限りな。」
「山がただの山になったら、どうなるのですか。」
「先にも言った。どうにもならない。」
「でも、山が魑魅魍魎を抑えていると、聞きました。」
「むかし話だな。魑魅魍魎は、既にお前たちの住む世界に蔓延しておる。今更、結界で抑えることなど必要ない。」
「どういうことですか。」
「魑魅魍魎は、人を惑わすことを知ったのだ。現代は、魑魅魍魎と人の一対一の戦いをしているのだ。さて、どちらが勝利するのか、興味深いのう。」
「魑魅魍魎は人の心に入り込んでいる?」
「そういうことだ。そろそろ童は行くとしよう。もう良いか?」
「伊勢家の墓標はどこにあるのですか?」
「もうそこにある。夫にあったら伝えて欲しい『今も、変わらぬ愛を』とな。」
「わかりました。」
「勘太よ。好きに生きよ。山に家に人に縛られるな。童はここに子孫がいる限り見守り続けよう。子孫の幸を願って。」
「はい。お願いします。」
「勘太、ケン太、ブラウニー。童を思い出し、むかしの在りし姿を取り戻してくれたこと感謝する。湧水やお供え物、花は何よりの供物になった。達者でな。」
神は岩に吸い込まれるように消えていった。
「ワンワン。」
ケン太の呼ぶ声に我に返る。俺は、ケン太と山を下りた。
家について、じいちゃんとばあちゃんに報告する。誡さんと海人さんにもだ。心なしか、家の空気が優しくなった気がする。
お掃除ロボが動き出す。その上にブラウニーが乗っている。
いつもと変わらない日常があった。
読んでいただいて、ありがとうございます。




