37 海人の手紙
ばあちゃんの手紙は、俺には計り知れなものがある。母親と子供。この手紙は、きっとおふくろが一番衝撃が大きいと思う。同じ母親として、何を思うんだろう。俺は、おやじに電話した。今日は、早く帰って夫婦で過ごしてほしかったんだ。
二階にお茶とお水を持っていく。伯父さん達は、涙を堪えようとしていた。堪えなくてもいいのに。
おふくろとの電話が切れていた。すぐに電話したら、
「思いっきり泣こうと思っていたのに、親不孝者。」
怒られた。でも、
「心配してくれたんでしょ。ありがとう。」
わかってくれていた。母親には敵わないな。
「あの二人が立ち直ったら、また電話して。」
そっと、お茶を置く。それとテッシュも。鼻をかんでお茶を飲んで鼻をかんで水を飲んで、少し落ち着いたようだ。
「最近、勘太にはみっともないところを見せっぱなしだな。」
「ケン太にもな。」
叔父さんは、ケン太を撫でている。
「誡さんは、どうします。別の日にしますか。」
「いいや、いつ開けても同じだろう。」
「もしかしたら、泊めてもらおうかな。末っ子に、感づかれそうだからな。」
おふくろに電話して、心して、もう一つの箱を開ける。
やはり、誡さんの遺骨だった。海人さんと同じに埋葬許可証があった。そして、ここにも手紙が入っていた。
『七海へ』
お前は、この手紙を読むことがあるだろうか?願わくば、誰の目にも触れずに伊勢家の墓標に父と眠りたいと思う。
私には、兄がいた。兄は家を山を嫌っていた。山もそれがわかるのか、兄が足を踏み入れると必ず天候が崩れた。私は、山が大好きだった。
「俺よりお前が跡取りにふさわしい。」
常々、父にも進言していた。しかし、請けいられることは無かった。
兄のみに施される伊勢家のしきたりや伝承。兄は、こっそり私に教えた。私は、この家の全てを知っていたのだ。
父が急逝した時、兄は黙って出て行った。一つの鍵を持って。私は、家を継いだ。だが、伊勢家の墓標に入れなくなってしまった。なぜなのかわからなかったが、きっと兄の持ち出した鍵が必要だったのだろう。私は、墓標に弔えないことを父に謝った。だが、母は喜んだ。
「やっと、私だけの夫になった。」
伊勢家は、代々の当主のみを墓標に安置する。当主の妻は、死後実家の墓に入ることになっている。山は、伊勢家以外の血族を拒む。
私は、お前に山と伊勢家の秘密を隠した。私は、山が好きだった。だから、己の人生に悔いはない。しかし、お前は私ではない。何のしがらみのない環境で、自分の人生を歩んでほしかった。
お前が結婚し子供に恵まれ、幸せに暮らしているのを見るのが好きだった。だから、何も教えなかった。しかし、お前は帰ってきてしまった。私のことなど、どっかの施設に入れてしまえばよかったものを。そして、山のやさしさに気付いてしまった。お前の夫や子供達に申し訳ないと思う反面、嬉しい気持ちがある自分に気が付いた。
私は、この地で幸せに逝ける。しかし…。
「七海よ。お前は、今、幸せか?幸せでいてくれ。」
伊勢 海人
海人さんの手紙は、娘への愛に溢れていた。
孫三人、ひ孫一人、ケン太、ブラウニーまで静かに海人さん一族の冥福を祈っていた。
読んでいただいて、ありがとうございます。




