30 むかし、むかしの恋物語
先生は語る。
むかし、むかしの恋物語
この地が、魑魅魍魎に支配されそうな時代のことです。伊勢の大社から偉いお坊さんが遣わされました。浄化しても成仏させても、後から後から現れます。お坊さんは、魑魅魍魎が、ある山から下りてくることを突き止めます。その山の頂上にお社があり、そこが入り口だったのです。お社には、結界を司る神が居ました。
「神よ、なぜ神ならね所業を致すのだ。」
「童は、忘れられた神。この世界から必要とされなくなった神だ。この地に災いをもたらすものをくい止めたところで、民は何も思わん。なら、この地を魑魅魍魎に明け渡せば結界は解け、見えざる地より来たる者によって魑魅魍魎は滅びるであろう。」
「滅びるなら、良いではないか。」
「魑魅魍魎が滅びることで、この地も見えざる地も変貌する。その変貌は神々の望むものではない。我は、二つの世界を守る役割も持つものだ。しかし、もう、疲れた。」
「疲れたのなら、休めば良い。神の一柱に支えられた世界など滅びて当然だ。世界は、その地に住まう民によって支えられなければならない。」
「其方は、おもしろいことを言う人間ぞ。そうか。童は休んでもいいのか。」
「休むところが無いのなら、ここではどうだ。」
「ここか。良いかもな。ここは結界の境。どこからの干渉も受けぬ。ここに童がいることでこの世界も見えざる世界も魑魅魍魎も抑えられる。しかし、もう一人でいることにも飽きたのだ。」
「なら、私もここに住もう。私も、一人でいることに飽きたからな。」
こうして、二人は夫婦となり世界と世界の境界で暮らしました。その幸せは、お坊さんが天に召されたことで終わりを告げます。結界を司る神も、天に戻らなければなりません。結界を司る神は、子供達に言い残します。
「童は、結界を司る神。そして、この地と見えざる地を守る神。童は、天に戻ります。けれど、童の子孫がこの地にいる限り平和と繁栄は守ります。愛しき子らよ。この地を頼みます。愛する者との幸せな地を、どうか守って。」
「曽祖父はこの話が大嫌いだったそうです。でも、祖父はいつも聞かされていたそうです。祖父は私に語ってくれました。私は、それもあって古文書とか昔話に興味を持ったんです。」
「信じているのですか。」
「わかりません。でも、曽祖父から祖父に、そして私に託されたこの鍵を海人さんのひ孫である勘太さんにお渡しできたことで、我が家の悲願は達成されたんです。」
「形見ですよね。本当にいただいてもよろしいのですか?」
「もちろんです。佳はいつもこの話を語った後に、『私には、呪いの物語にしか思えない』と言っていたそうです。」
「そんな…。」
「この鍵をお返しするのは、私たちにとって、呪縛から解き放たれた開放感があるのです。この地に立って思い知らされました。曽祖父は山を嫌っていました。山は自分の嫌いな者は受け付けないのでしょう。私は、ここまでが精一杯です。ここから先は進めません。山に嫌われていることがわかります。」
「山は、優しいですよ。」
「貴方だからですよ。曽祖父の勝手な思いを、勘太さんに押し付けることになりますが、この地をこの山をお願いします。」
彼女は、そう言って帰って行った。
「ケンタ。どう思う。本当かなあ?でも、山の頂上に社はあるな。」
「ワン。」
「この鍵、どうしよう。ケンタ、この鍵も付けるか?」
「ワンワンワン。」
嫌らしい。
どこの鍵だろう?しばらくは、俺が持つか。
「この話、母さんたちに、話すか?」
「ワンワンワン。」
「しばらくケンタとの秘密だな。」
「ワン。」
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