3 じいちゃんの遺言
今夜は、じいちゃんの通夜だ。ケンタは、理解していそうだ。俺とじいちゃんの間を行ったり来たりしている。だから、俺はじいちゃんのそばにいることにした。ケンタは、安心したようにじいちゃんのそばに陣取った。伯父さん達もケンタに席を譲っている。
通夜は、線香の火を絶やしてはいけないらしい。知らなかった。ケンタは知っているようで、線香が短くなると教えてくれる。
「ケンタ。ありがとう。お前は賢いな。」
ケンタのおかげで、無事、火を絶やすことなく通夜が終わった。
これから葬式だ。ケンタは、当然ついてこようとする。
「勘太、ケンタを抑えておけよ。置いてったら、またついてきそうだからな。」
「勘太が居れば大丈夫そうね。ケンタ、勘太のそばでおとなしくしているんだよ。」
「ワン、ワン。」
わかってそうだ。
ケンタは、おとなしかった。俺のそばで、ちゃんとじいちゃんを送っていた。ただ、じいちゃんが火葬している間、あの重い鉄の扉から動かなかった。俺もケンタのそばにイヤ、じいちゃんのそばにいた。じいちゃんの骨を見た時、一声
「ク~ン。」
と、寂しそうに泣いた。その鳴き声で、俺だけでなくみんなも、もらい泣きしていた。
葬式も無事終わった。ケンタは終わった後も、俺のそばを離れなかった。俺のトイレにさえついてきたほどだ。じいちゃんが死んだ悲しみを、一匹で背負っているかのようだ。俺は思わずケンタを抱きしめていた。
それでも、時間は過ぎていく。
「葬式が終わったばっかりだが、明日、遺言書をあけてもらうことにした。10時にここに集合だ。悪いが、甥っ子も姪っ子も同席してくれ。同席が条件にあるそうだ。」
伯父さん達も、仕事があるし仕方ないことだ。早く終わらせないとだ。おふくろが、
「いろいろと落ち着くまで、ここに居るから、お父さんのことは任せて。」
任せてって言っても、ただここに寝泊まりするだけだよね。なんて、思っていた。
「任すぞ。」
そう言って、みんな帰って行った。
途端、静かになった。残ったのは、じいちゃんちんの遺影と遺骨と位牌と俺たち日吉一家とケンタだけだ。ケンタが、俺の膝に頭をのせてきた。こいつなりに、俺を慰めてくれているようだ。俺の手は、ケンタの頭を撫でている。それで、寂しさがまぎれる。
10時には、全員集まっていた。いとこ達は、
「俺らにも、何かあるのかなあ。」
少し、期待しているようだ。じいちゃんの子供のおふくろ達も遺言書の中身は知らされていないらしい。
じいちゃんの遺影と遺骨と位牌が見守る中、弁護士さんが封を切り、発表される。みんな、無言だ。
「では、読み上げさせて、いただきます。」
じいちゃんの遺言書は、
【私は、以下の通り、遺言をする。
1、 私の所有する不動産は、私が住んでいる家と付随する山林である。
この不動産を、私が飼っている犬を引きとってくれるものに残す。
ただし、この家に1年以上住むことを条件とする。
2、 私の預貯金等の動産は、家を相続する者に、金一千万円を残す。
孫たちにそれぞれ金百万円を残す。
残りの金銭は、私の子供三人で均等に分けること。
上記の相続は、三か月以内に、速やかに行われることを希望する。
3、 ただし、1に該当する者がいない場合、全額自治体に寄贈すること
とする。
以上のことを、弁護士である***に委託する。
○○年◎月✕✕日
じいちゃんの署名 実印
立会人 弁護士さんの署名
封筒の中には、印鑑証明まで入っていた。
さらに、弁護士さんが続ける。
「遺言者の財産は、3を選んだ場合、お子さん三人の金額は、およそ二千万円ほど少なくなります。また、お孫さん達の相続は無くなります。」
この後、弁護士さんは、じいちゃんの遺産の詳細を明記した書類を配り、
「では、皆さんでご相談ください。ご連絡をお待ちしています。」
と、帰って行った。
全員、見送りも忘れていた。ケンタが
「ワン、ワン。」
まるで、ご苦労様といっているようだ。ケンタの挨拶で、伯父さん達も弁護士さんを見送ることができた。
これから、話し会いだ。修羅場かと思ったが、修羅場なのは俺だけだった。




