2 じいちゃんの犬
歯ブラシは、空港で買った。おふくろも忘れていたらしい。だって、二つ買っていたからね。
空港から、伯父さんに電話をしていた。あっちの空港まで迎えに来てもらうようだ。ホッとした。だって、あっちの空港から、この荷物を持って電車やバスを乗り継ぐなんて無理だ。おふくろは、オレがいるからか、これでもかってほど、お土産を買いまくっていた。
「誰が持つんだよ。」
「あんたのスーツケース、まだあいてるでしょ。」
やっぱり俺だった。飛行機に乗る前に、スーツケースを御開帳して、入れてやりましたよ。
「なんかね。発見した人とか、迷惑かけた人が結構いるみたいなのよ。」
俺は、己の呑気さに呆れてしまった。じいちゃんは、一人暮らしだったんだ。突然、連絡が来たんだ。ちょっと考えればわかることなのに。バイトだけど、自分はいっちょ前の人間だと思っていたんだ。けど、学生気分が抜けてないようだ。
おふくろも、詳しくは聞いていないようだ。ただ、郵便屋さんが、犬の鳴き声がおかしいと、警察に通報してくれたらしい。じいちゃんの家は、ちょっと山の奥にあり、犬が泣いても近所迷惑にはならない。だから、もしかしたら……。幸い、死亡推定時刻は、数時間前だったらしく、綺麗なじいちゃんらしい。
「じいちゃん、犬飼ってたんだ。」
「犬のおかげね。会ったら、褒めてあげないと。」
その犬は、俺がじいちゃんちに着くなり、飛びついてきた。尻尾を振り振りだ。俺は、支えきれずに尻餅をついてしまった。さらに、尻餅の俺の上に乗り、顔中を嘗め回してきた。褒めるどころじゃあない。
親戚一同爆笑だ。
「勘太。悪いが、犬に何か食べさせてやってくれ。」
叔父さんの話を聞くと、じいちゃんから離れなかったらしい。救急車で病院に搬送した時も、救急車の後を必死についていったらしい。肉球が割れていたとか。病院では、おとなしくじいちゃんが出てくるのをじっと待っていたんだと。じいちゃんちに帰ってきたときは、素直に叔父さんの車に乗ったのだけど、それからは、じいちゃんのそばで『クォーン』と切なそうに泣いてばかりだったらしい。餌も水も口にしてないと言う。
「俺達より、よっぽど、おやじの子供っぽいよな。」
俺は、言われた通り、犬に餌と水を差しだした。犬は美味しそうに食べはじめた。じいちゃんの恩人だ。みんなホッとしている。
「勘太、しばらく犬の世話を頼むよ。」
俺は、仕事ができたことにホッとした。なんせ、俺だけ手持ち無沙汰だったのだ。何をして良いのか分からなかったんだ。
まず、犬を褒めた。
「じいちゃんを助けて?じいちゃんのそばにいてくれて、ありがとう。良くやったな。きっと、じいちゃんは、寂しくなかったよな。お前が居てくれたんだもんな。」
「ワン、ワン。」
「じいちゃんが死んで寂しいけど、頑張ろうな。」
「ワン、ワン。」
「ヨシヨシ。撫でて欲しいのか。」
「ワン、ワン。」
まるで、会話しているみたいだ。
ところで、犬の名前を教えてもらっていない。
「こいつの名前は?」
「わからん。」
「エッ。」
「半年くらい前に、飼いだしたらしいが、誰も名前を知らないんだ。」
取り合えず、名前を付けようとなった。俺のいとこ達が、
「チビ」小さくないぞ。「シロ」白いからな。「バロン」どっか気品はあるな。俺は、「ケンタ」だ。みんなで、犬の名前で盛り上がった。あまり、会う機会がないいとこ達だが、なんだかうち解けた気がした。その間、犬は俺の隣で、おとなしく座っている。
最後は、犬に決めさせようと、口々に自分の気に入った名前を言う。一番尻尾を振った名前に決まった。
犬の名は、『ケンタ』だ。
ケンタは、俺のそばを離れない。
じいちゃんは良いのか?
読んでくださって、ありがとうございます。




