27 牡丹餅の誘惑
ウキウキしながらジープを走らせる。車も弾んでいるような気がする。
「ケンタ、車も俺の気持ちをわかるんだな。」
「ワン。」
このジープは、欠かせない生活の一部だ。山で生活をすると決めた時、一応整備に出したんだ。そしたら、ほとんど走ってなかったようなだ。じいちゃんは、軽トラ派だったんだな。軽トラには悪いが、俺はジープ派だ。
ジープを宅配会社の駐車場に止めて、荷物を受け取りに行く。ケンタは、車だ。事務所は2階にあるんだ。階段をトントン昇って荷物を貰って、ドアを開けて、思わず荷物を落としそうになった。
雨だよ。それなのに、猫が寄ってきてるんだ。ボンネットの上に、何匹もだよ。ケンタなんて、車の中から、目をまん丸くしている。
「あー。この辺野良猫が多いんですよ。ちょっと食べ物の匂いがあるとすぐに寄ってくるんです。」
猫が、ボンネットをなめているのを見て、ドライバーさんが教えてくれた。でも、ボンネットの上に何があるんだ?家から1時間走って、雨でも流れなかったのか?なんなんだよ。霧雨ではあるが、それでもおかしい。
俺は、野良猫を追い払うが、なかなかどかない。とうとうケンタが、ボンネットの上に上がって吠え始めて、やっとどっかに行った。俺は、ティッシュを持ってお掃除だ。確かに、何かあった。ティッシュの汚れを、見たりかいだりしたら、甘い匂いがした。ケンタなんて、直接舐めていた。
「ケンタ、これって、はちみつか?」
「ワンワン。」
どうやって、はちみつがここについた?はちみつの巣は、傷がついていなかった。それは、養蜂屋さんと確認済みだ。それに、蜂の巣をジープに近づけていない。なら、ケンタが、盗み食いして、汚れた足で乗った。イヤ、それだったら、家の中も汚れているはずだ。そんなことは無かった。そうすると俺だ。
「ケンタ、きっと俺の服にはちみつがついてるのを知らずにジープに寄り掛かったんだよな。それしか考えられないよな。気をつけないとな。」
「・・・。」
ケンタは、答えない。どうしてだ?
でも、はちみつは些細なことだ。今は湧水だ。車で荷物を確認する。
【飲食可】
やったね。
「ケンタ、早く帰ってお茶にしよう。」
「ワンワン。」
早速、湧水で珈琲を入れる。珈琲のお供に買ってきた牡丹餅を用意する。おふくろがばあちゃんと良く作ってったって言ってたのを思い出したんだ。それに、珈琲に和菓子って、結構合うと思うんだ。もちろんお供えしたよ。ケンタも食べたそうだ。
庭の見える縁側で、座椅子に座ってコーヒーブレイクだ。座椅子は、押し入れの確認の時、伯母さん達が見つけてくれた。自分たちがここに来たように取り出しやすいところに置いてあったが、もっぱら、俺専用だ。ケンタも、もう一つの座椅子に座っている。ケンタの前にも湧水と牡丹餅だ。
じいちゃんとばあちゃんも庭を見ながら、お茶を飲んでたのかな。そうあって欲しいな。
「きっと、じいちゃんもばあちゃんもこうして、お茶を飲んでたんだろうな。」
「ワン。」
昨日、コーヒーブレイクのあと、検査を依頼した会社からの荷物を確認したんだ。【飲食可】の文字が目に入ったら、他はすっぽ抜けちゃったからね。
報告書は、結構詳しく載っていた。最初は、成分の分析結果だ。ミネラルが多く含まれているらしい。水道水よりきれいだった。ただ、その時の状況で微生物が変化するので、沸騰してから飲むことをお勧めします。ってあった。もちろん、そうしている。ケンタは、両方飲んでるけどね。彼奴は、どっちでもいいらしい。
最後に、検査してくれた人の自筆の手紙が入っていた。
『これほどミネラルが入った水を調べた事がありませんでした。多めに送っていただいたので、少し飲んでみました。さらに飲みたいとの思いを強くしました。そこで、失礼ながら、麻薬等の疑いが出てきました。ご要望の項目にはありませんでしたが、勝手に調べさせていただきました。結果は、私の鳥越苦労でした。ただただ美味しいお水でした。お詫びと共に、お願いがございます。さらなる検査をお願い致したく検査キットを同封いたします。ご了承いただけますようお願い申し上げます。検査キットをご返信いただければ幸いです。』
俺は、これ以上の検査は望んでいない。だから、検査キットはそのまま返そうと思っている。まさか、この人も彼奴と同類じゃあないよな。ちょっと心配になった。けど、これで、心置きなく湧水が飲める。もちろん沸かしてから飲むよ。
気分爽快で目覚めた。山も輝いている。
ケンタと朝食だ。最近は、はちみつにパンだ。湧水の珈琲が加わったから、しばらく朝はパンに決定だ。ケンタもカリカリにはちみつをちょっとかけてやったら、お気に入りになった。
気分よく出かけようとしたら、お掃除ロボが動き始めた。
「ロボ、お掃除よろし…」
「ワンワン。」「ワン。」
ケンタがお掃除ロボにとびかかっていく。ケンタは、お掃除ロボを通り越している。ロボは、相変わらずお掃除に専念している。
俺は、何を見たんだ?ロボの上に黒っぽい物が浮かんでいたんだよ。何だったんだ?ロボの上を触っても何にもない。それに、ケンタはロボを素通りして何かを追いかけて行ったような。ボーとしてたら、ロボに、邪魔にされた。軌道上にいたらしい。
ケンタを追いかけたら、
「ワンワンワン。」
空中に向かって吠えている。思わず、
「ケンタ、何かいるのか?何か見えるのか?」
俺の声は聞こえないらしい。そばによって、驚かせないようケンタを撫でる。
すると、下に落ちていた黒い物を口に入れようとした。慌てて止めた。止めたと言うより、俺の手の方が早かったんだ。
それは、あんこだった。
仏壇を見れば、牡丹餅がかじられたような跡がある。あんこが少なくなっているんだ。今回のことは、俺でもケンタでもない。ネズミか?でも、あんこは宙に浮いていた。考えられるのは・・・。
「ケンタ、この家は古くから伊勢家が代々守ってきた家だ。ご先祖様の幽霊が居てもおかしくないよな。きっと、食いしん坊のご先祖様だったんだよ。」
「ワ~ン。」
「悪さもしないようだし、このままで良いな。」
「ワン。」
「そういえば、伊勢家のお墓ってどこにあるんだろう?伯父さん達は、しってるのかな?近くだったら、お墓参りに行きたいな。」
「ワンワン。」
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