23 むかし、むかしのおとぎ話
昨日、花瓶を見つけられなかった。きっと、一つぐらいはどっかにあると思う。やみくもに探すのもあれなので、午後から花瓶を買いに車を走らせた。今は、コップが花瓶代わりになっている。
そこで、気が付いた。ケンタの鍵がきれいになっているのだ。太陽に反射して眩しいのだ。今まで、あの小箱の中に約10年いたんだ。きっとくすんでいたのだろう。
「ケンタ、鍵がきれいになったな。きらきらしてるぞ。」
「ワンワン。」
花瓶は俺の趣味で二つ選んだ。最終決定は、ケンタだ。ケンタの選んだ花瓶は一輪挿しだ。俺も賛成だ。もう一つは、口の広い花瓶なんだ。じいちゃんもばあちゃんも豪華な花束より、素朴な一輪が似合うと思ったんだ。俺とケンタの趣味が一緒で良かったよ。
久しぶりに、本格的な珈琲を飲みたくてお店を探して、ウロウロしてたら、
「勘太さ~ん。」
俺を呼ぶ声がする。この声は、確か、末っ子のいとこだ。どこにいるかと見渡せば、テラス席を陣取っている集団にいた。制服を着た生徒が数人と一人私服の人だ。多分、高校の先生か?挨拶しないとだよな。末っ子に呼ばれているしな。
「よう。何してるんだ。」
「課外活動よ。」
「授業をさぼってたのかと思ったぞ。」
「そんなことしませ~ん。今日はね。地元のおとぎ話を集めてたの。結構面白いよ。」
「お前は、非現実が好きそうだもんな。で。こちらの人は?」
「高校の先生。昔話に詳しいの。」
「始めまして。こいつのいとこの日吉と言います。いとこがお世話になっています。」
「初めまして。」
「ねえねえ、一緒に聞こうよ。先生のおとぎ話って、おもしろいんだよ。それに、この辺の話をまとめてくれてるんだよ。」
興味がわいた。みんなに断りを入れて、珈琲を飲みながら聞かせてもらった。だって、先生も生徒も、飲み物を持ってるんだ。俺も飲みたい。ケンタだって、飲みたそうだ。ケンタにも水を携帯用のお皿に入れてやる。
そして、始まった。
むかし、むかしのおとぎ話。
この地に、まだ魑魅魍魎がはびこっていた時代のことです。飢饉が数年続いて、民は生きるのもやっとの生活でした。
ある青年が、絶対に足を踏み入れてはいけないとされていたお山に入ってしまいました。青年は、家族を助けるため、山の幸を探しに山に入ったのです。
他の山は、既に山の幸は取りつくされ、残るのは、そのお山だけでした。
けれど、山の神は、大層ご立腹し、僅かに残っていた里の水さえ干上がらせました。
丁度、その時、伊勢の大社様の偉いお坊様がこの地を通りかかり、
「この怒りは、原因となった人を神に贄として差し出さなければ収まらぬであろう。」
里の人たちは、山の神の怒りを鎮めるため、一家を神に捧げてしまったのです。
神の怒りは鎮まりましたが、今も、お山は静かに怒っているのです。そして、そのお山は、来る人を拒み続けています。 おしまい。
「これは、代表作です。」
「他にも、同じようなおとぎ話があるんですか。」
「はい。良い話だと、家族の為の勇気をたたえて、神よりその山を賜ったとか。罰として、その山の管理をさせたとか。神は魑魅魍魎の頭で、お坊さんが退治して、その山を貰ったとか。同じ話なのに、内容が違うんです。」
「その山は、特定されているんですか。」
「いいえ、だいたい、おとぎ話って実話ではなく、人の戒めに作られたことが多いのです。多分これもその一つだと思います。それに、ここは山だらけですから、むやみやたらに山に入るなと言う注意喚起でしょう。」
「そうですよね。でも、おもしろい話をありがとうございました。」
「真面目に、聞いていただけたのって、久しぶりでしたので、私も楽しかったです。」
俺は、末っ子に
「叔父さんによろしく。」
「ワン。」
すっごく、このおとぎ話に興味が惹かれた。暇なときに、図書館とかで調べようと思ったほどだ。
「ケンタ。今日は、おもしろい話が聞けたな。」
「ワン。」
読んでいただいて、ありがとうございます。
次回は、頂上に到達します。




