19 ケンタの首輪
朝食はそうめんだ。まだ。暑いから美味しい。ケンタはいつものカリカリだ。デザートに季節の果物だ。
ケンタは、果物が好きらしく、何でも食べる。でも、スーパーで買った果物は、クンクンするだけで口にしない。食べるのは、家の果樹園産のみだ。リンゴやブドウも家の物しか食べない。スーパーで買ったカリカリは食べるのに、どうしてだろう?
それより、ケンタは朝から、仏壇でチーンしている。ケンタもチーンできるよう、おりんセットを下のテーブルを置いておいたんだ。夜もチーンしてから寝ている。それに、鍵が気になるようで、仏壇の引き出しにしまっているのを自分で引っ張り出して、クンクンして体に隠すように大事にしている。それが数日続きた。
「これは大事な鍵だから、遊んじゃあだめだ。」
いくら言っても鍵が気になるらしい。なら、いっそのことケンタに鍵の保管をお願いすることにした。いつも、俺と一緒にいるんだ。鍵に合う鍵穴を見つけたら、すぐ試せるだろうと思ったんだ。
「明日は、木曜日だ。農協の後、首輪を買おうな。ケンタに似合うのを買おうな。首輪に鍵を付けて、ケンタは鍵の番犬だ。頼むぞ。」
「ワン。」
木曜日の朝、農協に出掛けようとして、道に出たら、危うく車とぶつかりそうになった。ここまでくる人は、伯父さん達しかいないから、気が抜けていたようだ。どんな道でも気を付けないとだ。でも、何の用だ。
「こちらの家の方ですか?」
「はい、そうです。」
「先日、電話したものです。」
すっかり忘れていた。連絡しようにも、黒電話は発信者の番号が出ないんだよ。ここは、素直に謝ろう。
「すみません。祖父はなくなりまして、連絡先もわからなかったものですから。」
「それは、ご愁傷様です。改めて、ご挨拶させていただきます。」
名刺を差し出され、事情を聴く。
数年前から、家でとれる蜂の巣を丸々購入していたそうな。
「こちらが、用件だけ伝えてお返事を待たずに電話を切ったのが失礼でした。申し訳ございません。」
でも、蜂の巣なんて見たことが無いので、探してみてあったら連絡することにした。
「わざわざ、来ていただいたのに申し訳ありません。」
「いいえ、ぜひ見つけてください。お願いします。」
熱心にお願いされて、
「わかりました。」
って、言ってしまった。
果樹園には無かったはずだから、山にあるのかも。いい機会だ、山に入ってみよう。
それより、ケンタの首輪だ。今までも、首輪はしていたが、俺の好みではないんだ。じいちゃんが用意したんだと思うと、交換できなかった。でも、今の首輪だと鍵を通すに不便なんだ。だから、新しくすることにした。ケンタも首輪より鍵が大事らしい。
ペットショップって、何でもそろっているんだな。ケンタも気に入った首輪があったので、それにした。革製で名前入りだ。鍵もぶら下げられるような穴が空いている。鍵は大きくなく、重くないから、ケンタの負担にならないだろう。
ケンタは上機嫌で車に乗っている。人間だったら、絶対鼻歌が出ていたと思う。なんだか、俺も上機嫌になって、俺が鼻歌を歌っていた。
家に帰るとケンタは、仏壇に一直線だ。俺が手を洗っていると、鍵を咥えて持ってきた。余程、ばあちゃんの鍵が気に入ったようだ。早速つけてやる。でも、見えないから気になるのか、足でいつも鍵を触っている。
俺は、ケンタを鏡の前に連れていき、鍵が首にあるのを見せる。納得したようだ。
「おはよう、ケンタ。」
「ワン。」
ん、なんだかケンタが大きくなったような気がする。まあ、犬だって成長するよな。
読んでいただいて、ありがとうございます。




