16 子どもたちの涙
おふくろを見たら寝ていた。昨日は眠れなかったようだから、少しでも寝られたのなら良かった。でも、手は、ケン太を撫でている。ケン太はセラピードッグになれそうだ。ただし、家族専用だ。
「母さん。着いたよ。」
おふくろは、車を降りずに遠い目をしている。俺は、おふくろが動き出すのを待った。ゆっくり、ゆっくり家に向かうおふくろだ。玄関が開いて、伯父さん達がおふくろを迎える。『大丈夫か』とも『疲れただろう』とも言わない。ただ、目を見て肩を抱いて、ばあちゃんのところに促す。おふくろは、兄や弟に手をひかれ、母親に会いに行った。おふくろは震えていた。
俺は、しばらく庭をぶらぶらしてた。今は、母子だけの時間のような気がした。思いっきり、悲しんでほしかった。
ついでに、果物を採った。食欲はないだろうが、果物なら少しは食べられると思ったんだ。葡萄なら、洗っておいておける。あと、お供え用にも。
「こんなに、おいしいんだ。きっと食べてくれるよな。」
「ワン。」
「きっと、長い間、待ってたんだろうな。」
誰がとは言わない。だって、じいちゃんも含んだ全員だと思うから。どんな事情かわからないけど、やっと家族が集まれたんだ。話はできないけど、多分声の無い会話を5人でしているんだ。
じいちゃんやばあちゃんの思い。おふくろ達子どもの思い。どれも、言葉は要らない。
俺は、涙が出てきた。ケン太も鳴いている。
「俺たちが、代わりに泣いてやろう。なあ、ケン太。」
「クオーン。」
叔母さんが、俺を呼びに来た。
「みんな落ち着いたみたいよ。こんな時だけど、弁護士さんが来たの。相続の手続きが終わったみたいで、書類を持ってきたの。ここに三兄弟もそろっているし、連れてきたのよ。それから・・・。」
家に戻る間、叱られていた。
「門が空いてたわよ。」
せっかく作ってもらったのに、用をなしていなかった。昨夜も閉めていなかったらしい。緊急事態だから、許してもらおう。門のリモコンは、各おじさんにも、持ってもらっている。
「すみません。注意します。」
「まあ、今回はね。」
わかってくれている。
門を閉めに行ったら、例の獣医が居た。車を敷地内に止めている。
「今日は、立て込んでいるので帰ってください。」
「そんなこと言わずに。ケン太君は?」
ケン太がいない。
「貴方の顔を見たくないんでしょ。」
「私のことが分かったんですか。やっぱり……。」
「勘太さん。お困りのようですね。」
ケン太が、弁護士さんを連れてきてくれたらしい。獣医さんを紹介する。もちろん、良い紹介ではない。
「ケン太に興味を持ってしまって、人ではなく犬体実験させろってうるさくまとわりついてくるんです。断っても、こうして押しかけて来て、迷惑してます。」
「私は、弁護士をしています。招かれないのに敷地内に入るのは、不法侵入です。あとですね。犬にも権利がありますし、飼い主には、飼い犬を守る義務があります。これ以上、ストーカー行為を繰り返しましたら、あなたを法的に訴えることもできますけど、どう致しますか。」
獣医は、すごすごと帰って行った。流石、弁護士先生だ。
「勘太さん、またストーカーされたら、相談ください。」
頼もしい味方ができた。そうか、俺たちは、ストーカーされていたのか。
俺は、シャッターを閉めて家に急ぐ。
「ケン太、グッドタイミングだったぞ。弁護士さんを連れてきてくれてありがとう。」
「ワンワン。」
おふくろは、大丈夫かなあ?
読んでいただいて、ありがとうございます。
次回は、ばあちゃんのことが少しわかります。




