♪20楽章 ダンスの主役は…?
全国大会が過ぎ去り、すっかり吹奏楽部員にも平和な日常が戻った。
「…瑠璃がダンスメンバーのリーダーでいい?」
「仕方ないなぁ」
瑠璃、凪咲、音織、美心乃は文化祭で、ダンスを画策していた。というか、毎年吹奏楽部員の女子は、こぞってダンスをやりたがる。
「…あの!」
「んっ?みるくちゃん?」
その時、みるくが教室に入ってきた。その背は少し縮こまっていた。
「…私も…ダンスやりたいです…」
「…あっ、」
すると音織が声を上げた。
「そうそう。この子もね、ダンスやりたいんだって」
「へ、へぇ…」
瑠璃が意外そうな声をあげた。みるくと瑠璃は、あまり話したことがなかった。そして内気な性格をしているであろう、彼女がまさかダンスをやりたがるなんて。
「…瑠璃?いい?」
凪咲がこう言うので、瑠璃は迷いなく承諾した。
その後、みるくは言われた通り、難しい動きもこなしてみせる。
「…みるくちゃん、うまいね」
「ありがとうございます。小さい時からやっていたもので」
「すごいね」
瑠璃が無邪気に褒めるも、みるくは恐縮していた。
「…いえ」
その様子が、瑠璃は何だか気になってしまった。
――部活終わり♪
部活終わり、瑠璃と凪咲と音織は3人で帰っていた。しかし音織は何だか悩んでいるようだ。
「音織?」
「あ、瑠璃」
「どうしたの?」
瑠璃が問う。
「あー、瑠璃には関係のないこと。大丈夫だよ」
音織は笑って返すので、瑠璃はそっかで済ませた。
「…そういえば、静奈さんの葬儀、行ったんだって?」
音織と別れると、凪咲が突然に瑠璃へと言う。
「うん。雄成に来てって言われて…ね」
「矢野ったら…瑠璃を振り回しすぎなんだから」
すると、瑠璃は悲しげに首を横に振った。
「ううん。私も雄成に嘘ついたから…別にいいの」
「嘘?」
凪咲が訝しげに瑠璃を見る。
「…うん。雄成はお母さんを信じろ、って言った時ね、『私の親戚は肺がんでも生きてる』って言ったの」
「そうなんだ」
「…でもね、私が小学4年生の時に亡くなった」
その言葉で、明らかに凪咲の表情が変わった。
「そ、そうなの!?」
「うん。肺がんは本当だったけど…、どうしても雄成に言って聞かせたくて……」
瑠璃の声が徐々に縮む。鼓動は木魚のように無機質に、されど力強く規則的に響いた。
思い出しただけで、力が抜けそうだった。
……あの日を思い出すと。
――数日前…
『…かあさん』
『静奈さん…』
あの時、雄成と澪子は静かに泣いていた。
その光景がフラッシュバックしたのは、小学4年生の時に、親戚のひとりが亡くなったことだ。
『…ば…ちゃ…』
『さつきちゃん…』
あの時、隣で親戚の友達が泣いていた。それを見て、思わず泣いてしまったことがあった。
瑠璃は、あの時と同じよう…いや静かに、誰にも見られない場所で涙を流した。
『…どうして…?どうして…?』
中学1年生の事件を経て、黙って静かに泣くことが得意だったからだ。
だが…静奈が亡くなったことを、頑なに信じたくなかった気がした。
「…そうなんだ」
(…どこまで…私の姉さんと似てるんだ)
凪咲はやはり、瑠璃に姉の優子を重ねた。優子も無尽蔵のやる気と未来に満ちていた。あと数年鍛えれば、優秀な奏者になっていたことだろう。
そんな優子は事故に見せ掛け自殺した。
最後の会話。それは真っ赤な嘘だった。すぐに戻ると言って…結局一生戻ってこなかった。
『…ねえさん。どうして?うそだよね?』
棺で眠れる美少女は何も話さない。
『…どうしてぇ…』
あの時、自然と泣けなかった。
葬儀の前夜まで、布団で毎日泣いていたからか。
「…だけど、これで雄成も一歩を踏み出せるかな?」
瑠璃の問いに、凪咲は強く頷いた。
「…たぶん。矢野なら…きっとね」
そう言った凪咲の声は…本当に強いものだった。
人にいつか、死は訪れる。早かろうと…遅かろうと…、でもいつかは前に進む。忘れたふりをして生きなければ…他愛もない話しで笑えないから。
――翌日 ♪
翌日もダンス練習が続いた。昨日よりもみるくの動きは、更に硬いものだった。まるで何かに怯えているようだった。
「…はぁ…はぁ…」
疲れたように、膝に手をつくみるく。瑠璃はそれに違和感を感じていた。
「みるくちゃん、休もう」
瑠璃がみるくに話しかける。
「…あ、いえ。お気になさら…ず…」
そう言いながら、ぎこちない動きでみるくは躍る。それは限界をとうに越えていると分かった。
だからだろうか、みるくは本音を口にした。
「…私、どうしてもセンター…1曲は…やりたいんです」
「えっ?センター…?」
ダンスのセンターはいわゆる主役だ。1曲目は瑠璃がセンターを務める。リーダーだからだ。
しかし…もう1曲目のセンターは、まだ未定だ。
「…そうなんだ」
瑠璃は何も言わず、ただ相槌を打った。
しかし、ここまでセンターに執着する理由が分からず、首を傾げていると、音織が部活終わりに話しかけて来た。
「…瑠璃」
「ん?」
「お疲れ様」
「お疲れー」
そう言うと、音織が口ごもった。
「…頼みがあるんだ」
「…頼み?何?」
「みるくを…センターにしてあげてほしい…」
「えっ?別に構わないけど…。音織がそうやっね頼んでくるなんて…」
音織が後輩を気遣う所はよく見る。だが、みるくに対してだけは、入れ込みが違う。
「…みるく。親が厳しいんだ」
「厳しい?」
「ああ。やるなら全力で、と言われてるらしくてな。せっかくやるなら…1番を」
そう言って、音織は人差し指を1本立てた。
「…なるほど。親が厳しいから、良い所を見せないと…ってこと?」
「そうだ。難儀な問題よ」
音織が頭を抱える以上、それを無下にはできない。
「…仕方ないなぁ。凪咲たちに聞いて、良ければ…私も全然いいよ」
そう言うと、音織が目を丸めた。
「恩に着る!!」
「へへっ。別に構わないよ…」
瑠璃からしたら、むしろ負担が減りありがたい。
「…あ、このことは…みるくには内緒な」
「うん!」
鈴衛音織。彼女は良い先輩だった。
それを3年生女子へと相談する。音織含めて、凪咲や美心乃たちはすぐに納得した。
「私は別に主役はいい」
「みーちゃんがやりたいなら、みーちゃんがやれば良いと思うよ」
木管ふたりも快い返事をしてくれた。
「ふたりともも…恩に着る」
「まぁー、ぶっちゃけ…中畑さんが頑張りすぎてるからね」
皆、みるくの努力を認めていたからだ。
――当日 ♪
「…本当にありがとうございます!」
みるくには当日まで、感謝された。
「頑張ろうね。みるくちゃん」
「はい!!」
瑠璃の言葉と共に……ステージでのダンスは幕を開けた。
結果は…大盛況だった。
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