14 影渡り
「ブラス様、リリス様、チャム様、間もなくスターリィワイザー様とアルヴィス様が此方に参られます」
またリリスの影から声がして、ズズズ……っと言うイメージで、仮面に黒いフード姿の魔族がゆっくりと姿を現して、その場で跪いた。
あれ? シャドウアサシンって二人居なかったっけ?
ふと、そんな事を思っていると、チャムの影からオールバックでメガネのイケメンがゆっくりと姿を現した。
たしか、アルヴィスって名前のアークデーモンだっけ?
アルヴィスはそのままリリスの横に並んでその場で跪いた。
「アークデーモンがアルヴィス、只今参上いたしました。」
次は、スターリィワイザーと言う名前の死神みたいな奴だな、いきなり出てくるとビビるが、出ると理解っていれば心の準備は出来る。
俺は足元の影をじっと見て身構える。
さぁ、どの影から出てくる?
…………
あれ? 出てこないなっと気が抜けた瞬間、壁の影から骨の手が生えて来て、ドクロの顔が浮かび上がってくる。
下からだけじゃなく、横から出てくるのかよ! 予想外だったわ。
思わず悲鳴を上げそうになるのを必死で堪える。
壁の影から瘴気を纏った死神の様な姿をしたスターリィワイザーがゆっくりと姿をあらわす様子は、かなり怖い。夜の墓場とか学校でこんなのに遭遇したらショック死する自信まであるわ。
スターリィワイザーもまた、リリス達に並んで跪く。
「スターリィーワイザー、御身の前に参上いたしました」
スターリィワイザーは俺の方をじっと観ている、髑髏に赤い光を宿した目なので表情が読めない、怖いから止めて欲しいのだが、それを言う勇気もない。
上位の魔族が並ぶのだが、やっぱりシャドウアサシンが一人足りない気がする。
「もう一人居なかった?」
「はい、今シャドウアサシンの片割れには偵察を依頼しています。状況に関しては報告を受けておりましたので、『ティア』と『エイミー』と言う名前の人間の捕らえられている場所を探させております。間もなく戻るかと……」
そう答えるのはアルヴィスだった。
「え? もう動いてたの?」
「はい、ブラス様の魔王就任の報告を受け、すぐに行動に移させました」
アルヴィスってかなり優秀なんじゃないか?
リリスとチャムが、物凄く残念な魔族だったので、魔族全てが残念なのかと思ってたぐらいだ。
リリスを見ると、良い所を取られたって感じの顔をしていた。
「その、影から出てくるのは、魔族なら誰でも出来るものなのか?」
偵察が戻るまで時間がありそうなので、前回疑問に思った事を勇気を出して聞いてみた。
「これは『影渡り』と言うスキルで、ごく一部の者にしか使えません。影が繋がっていれば影に潜み、音の速さで移動できるスキルなのですが、出入りに時間が掛るのと、影と影が一定以上離れていると移動が出来なくなります。そして、影が消されると、次に同じ影ができるまで閉じ込められてしまう弱点もございます」
「便利なスキルだな」
「はい、ブラス様を迎える為に、リリスがこのスキルを持つ者から選りすぐった様です」
「は、はい、ブラス様の為に頑張って選りすぐりました」
リリスはアルヴィスから持ち上げられるとは思わなかったのだろう、一瞬キョトンっとした顔をした後、胸を張って答える。
やっぱりリリスはちょっと残念だと思う。
「どうやら、シャドウアサシンが偵察を終えて戻ったようです」
そう言うアルヴィスの影から、ゆっくりとシャドウアサシンが姿を現した。
「ブラス様、遅くなって申し訳ありません。只今偵察より戻りました。」
「時間がありません、ブラス様に報告をして下さい」
「はっ! 『ティア』と『エイミー』と言う人間は、ここから南西の民家に捕われていました、怪我などは無い様で無事です。倉庫の方は現在バリケードを築いて防戦している様子でした、此方はまだしばらくは持ちそうです。最後に、筋肉ダル……『アルベルト』と言う人間ですが、勇者と交戦中ですが、勇者側に野盗が多くやや劣勢に思えました。」
今、おっさんの事を『筋肉ダルマ』って言いかけたな……気持ちは理解るけど。
しかし、シャドウアサシンも凄い優秀だ。あれから5分程しか経っていないのに、もうそこまで調べてきた事に驚愕する。
「ブラス様、よろしいでしょうか?」
「え? ああ……」
不意にアルヴィスに声をかけられそっけない返事をしてしまった。
「ブラス様にとって、救出の為の優先順位はどの様になってますでしょうか?」
「あぁ~っと……レディファーストで良いんじゃないか?」
優先順位なんて考えてなかった。
「ブラス様はおっぱいが大好きなんです。おっぱいの大きい順に助けるべきです! そうですよね? ブラス様!」
「そ、そうです! ブラス様はおっぱい優先です!」
リリスとチャムは黙っててくれ、誤解を受ける! ……まぁ正解だけど。
「ではリリス、どの娘がそのブラス様の好みだと言うのかね?」
「大きさでは『セシリア』と言う娘と『ティア』と言う娘が同じぐらいでしょうか? どう思いますチャム?」
「形の良さでは『ティア』と言う娘がブラス様の好みに思います!」
「では捕らえられている『ティア』と言う人間の娘から助ける事にしましょうか」
なんか魔族達が優秀過ぎて淡々と決まっていく……一部は残念だけど。
「ふむ、敵に勇者が居るのが厄介ですね……、ブラス様の目的の為には魔王である事はまだ知られない方が良い様子ですから、我々が表立って動くわけには行きません。自力で助かってもらうか、ブラス様が助けた様にする必要があります。」
「ならば、これを使えば良いでは無いか」
そう言って、スターリィワイザーが指差すのは、野盗の死体だ。
「なるほど、流石はワイザーですね、それで行きましょう! いかがでしょうかブラス様?」
「あぁ、俺もそれが良いんじゃないかと思ってた所だ」
良くわからんが、ここは空気を読んで流れに乗っておく事にした。
「流石はブラス様! 私達の考える事なんてお見通しだったのですね」
「流石はブラス様ですぅ~」
「リリス、チャム、二人共理解ってないでしょう?」
「う……うるさいわね、アルヴィスは早く詳細を教えなさいよ」
「良いですか、あなた達はブラス様と共に影渡りで、民家に捕らえられている『ティア』と言う娘を助けに行くのです。その後は走って倉庫に戻るのですよ、人間が居ると影渡りを使えませんからね」
「そのぐらいわかってるわよ」
「倉庫に居る娘を助けた後は、勇者を倒しに行くのです。我々魔族は勇者の聖を苦手とします、勇者の聖を浴びない様に気をつけてくださいね」
魔族じゃなくても、男の精なんか浴びたくないわ!
しかし、リリスとチャムが残念で助かった。
なんでこんな優秀な魔族が残念なリリスやチャムに従っているのか解らん……
「作戦は理解ったわ」
「良いですかリリス、優秀なブラス様に仕えるのですから、無様は許されませんよ」
なんで俺は高評価なんだろう?
俺の事をじっと見ているスターリィワイザーも怖いし、やっていけるのか不安になる。
「それでは始めるとしようか……」
そう言って、スターリィワイザーは野盗の死体に杖を突くと、死体がムクリと起き上がった。
「良いか、ブラス様の為に、ブラス様に楯突く者共を根絶やしにしてくるのだ! アルヴィスの指示に従い行動せよ!」
ゾンビとなった野盗はコクリと頷いて、アルヴィスの元へと進んでいった。
「ではブラス様、我々も行きましょう。影に潜りますので、少々不快かもしれませんが、少しの間ご辛抱下さい」
そう言って、リリスが後ろから抱きついてくる、皮鎧の所為でおっぱいの感触が全く伝わってこない。
そのままズブズブっと影に沈み込んでいく。
影の中は泥の中に沈んだように動きにくいが、呼吸は苦しくない、そして、影の中から外の様子も理解る。
そこからは早かった。
シャドウアサシンの案内で、泥の中を高速で泳ぐ様にスイスイと進んだかと思えば、どこかの建物の天井の梁の部分に出ることが出来た。
そのまま下を見ると、ティアとエイミーが縛られたまま捕まっていた。
今までアホしか登場しなかったので、魔族が優秀過ぎるんじゃないかと思えます。
次回、おっぱい……じゃなかった、ティアとエイミーを救出します。




