13 魔族
GWが終わったので、再開します
ニーナとホーリーベルは泣き続けていた。
歌を歌えばリサさんが喜んでくれると信じて、必死で歌おうとするが、こみ上げる悲しみが歌にさせてくれない。
ただ、二人の鳴き声だけが部屋に響き渡っていた。
胸の奥に何か入り込むような感覚
これが何なのかは理解らないが、怒りと悲しみがブラスの中で沸き起こる。
魂が浄化された影響なのか、単純な気持ちは理解できても、いまいち複雑な感情がわからない。
だが、自分が親を亡くした時の記憶が蘇ってくる様で、居てもたっても居られなかった。
「マリア、二人の事は頼んだのである」
「はい、アルベルト様」
泣き止まないニーナとホーリーベルの事をマリアベルに任せて、俺はおっさんと共に、アーシア達が護る倉庫の入り口に降りていった。
野盗が倉庫を取り囲んでいる状況では悲しんでいる暇すら無い。
それに、あんな状態のニーナやホーリーベルの姿は痛々しくて見ていられない。
俺も前世で親を亡くしたから、その気持が良く分かる。
「くそっ! ニーナもベルも、まだ小さな子供だぞ!」
俺は心の中で舌打ちをしていた。
嫌な事を思い出させた野盗達に怒りが湧いてくる。
「アルベルト様?! リサ様は……?」
アーシア達は気遣わしい表情で訪ねてくる。
「うむ、精霊に導かれて、女神様の元に旅立ったのである」
「そう……なんだ……」
「外の様子はどうである?」
「良くは無いです、外は完全に囲まれてる」
「これだけの騒ぎなのに、衛兵が来ないのも変ですわ」
街中で騒ぎが起きているのだから衛兵の数が足りないのだろう。
それに、ここは路地に入った所の目立たない倉庫だ。
ここで少々の騒ぎが起きても気が付きにくいのだろう。
煉瓦作りの倉庫で扉は鉄製だが、相手には腐蝕が居る、あの馬鹿になら、この扉も数秒で破られるだろう。
「ここも長くは持ちそうには無いであるな……、ならば我輩が撃って出るしか無いのである!」
「危険ですわ!」
おっさんがダブル・バイ・セップスのポーズを決めるが、顔はいつもの笑顔ではなく、覚悟を決めた漢の顔だ。
だが、おっさんだけに行かせるつもりもない。
「俺も行く」
あのバカや野盗に怒っているのは俺も同じだ。
「ブラス、危険だよ!」
「それなら、私も撃って出ましてよ」
「いや、二人には我輩の娘を護って欲しいのである」
腐蝕の力を何とかしないと衛兵が来るまで持ちこたえることは困難だ。
扉の前で話し合っていると外からバカの声が聞こえて来る。
「バカどもめ、テメェらの所為で1人使えなくなったじゃねぇか! いいか、女共は傷つけるんじゃねぇぞ、男どもを引き離してから女を捕えるんだ! その扉は俺が開ける!」
鉄製の扉が、鍵の部分から腐食していく。
「やかましい! こっちはまだ取り込み中だ!」
そう言って腐食した扉の中心にナイフを突き立ててやった。
「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
バカの絶叫が聞こえる、ちょっとスッキリした。
ナイフを見ると血がたっぷり着いてて少し腐食していたが、あと1~2回は刺せそうだ。
「チクショウ、なんて事しやがる! もう許さねぇぞ」
バンッと言う音を立てて扉が震える、勢い良く扉に手をついたのだろう。また別の部分から扉が腐食していく。
「てやっ!」
腐食した部分に再度ナイフを突き立てる。
「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁ」
学習しない奴だな、だからバカなんだ。
「ブラス……えげつない事するね……」
命狙われているのに、えげつないも何もないと思うんだが……
そんなやり取りをしていると、アリシアがゆっくりと階段を降りてきた。
「ニーナ様とホーリーベルは、魔法で眠らせてきた……なの」
「うむ、かたじけないのである、我輩が扉を出たら、皆は二階の扉を閉めて、衛兵達が来るまで護って欲しいのである。腐蝕は我輩が何とかするのである」
「え、はい」
「理解りましたわ」
「任せる……なの」
「わ、ブラス! また扉が!」
扉をよく見ると、またじわじわと腐蝕が進み始めた。さっきよりスピードがかなり落ちている。
「しつこい奴だな!」
俺はまたナイフを突き立てるが、手応えがない。
「ふはははは、馬鹿め! 俺は指一本からでも腐蝕の能力は使えるんだぜ」
先程ナイフを突き立てた穴から覗き込んでみると、バカが勝ち誇った様に、扉に指を突き立てている様子が伺えた。
ゆっくりと指を動かしながら扉を腐食させていた。
確かにピンポイントで指を突き立てている場所は狙いにくいが……小学生かあいつは!
「我輩に任せるのである」
おっさんが力を貯める様に腕を振りかぶり、勢い良く拳を鉄扉に叩き込んで、鉄扉ごと吹き飛ばした。
「ぶべぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
扉が無くなり、見晴らしの良い出入り口からは、バカが鉄扉ごと勢い良く空を飛んでいる姿が良く見えた。
あまりもの出来事に野盗達は空を見上げたまま固まっていた。
そのままバカは、民家に叩きつけられる様に頭から突っ込んでしまった。
「では後は頼んだのである」
おっさんが野盗をなぎ倒しながら、バカの所に勢い良く飛び出す。
「扉塞いどけよ」
そう言って、俺も飛び出したのだが、今まで大人しくしていたリリスとチャムまで一緒に飛び出してきた。
――――
アーシアは、リリスとチャムが飛び出して行った事に焦りを覚えていた。
「リリスさん、チャムちゃん、危ないから戻ってー」
アーシアは叫ぶが、もう遅い。
「早く入り口を塞ぎましてよ!」
セシリアとアリシアは出入り口を大きめの荷物でなんとか塞いだ。
「どうしよう……リリスさんとチャムちゃんまで行っちゃったよ」
「もう、どうしようもありませんわ、アルベルト様とブラスを信じるしかありませんわ」
「こんな荷物じゃすぐに出入り口は破られる……なの、早く二階にバリケードを作って扉を護る……なの」
こういう時、アリシアの知識は役に立つ。
アリシアの指示でアーシアとセシリアはすぐに動くのだった。
――――
「ブラス様、お供いたします」
「あわわ……と、共に戦いますです」
そう言ってリリスとチャムが俺に付き従う
「怪我しても知らないぞ」
「これでも魔族なので、この様な人間には遅れを取りません」
俺は、おっさんを襲おうとしている野盗を倒しながら進むのだが、この野盗が地味に強い。
野盗を薙ぎ倒しながら突き進むおっさんが強すぎるので、おっさんとの距離が少し離れてしまった。
「覚悟するのである!」
おっさんが、バカの元にたどり着き、腕を大きく振りかぶった所で、突然民家が倒壊した。
腐食の力で民家を倒壊させて、建物ごとおっさんを潰そうとしたのだろう。
まさか、野盗を巻き込んででも、おっさんを潰そうとするなんて予想外だ。
建物の残骸がこっちにも倒れてきて、俺とおっさんは分断されてしまった。
「おい、おっさん! 大丈夫か?」
倒壊した建物が邪魔で、おっさんの所にも、アーシア達の所にも戻れなくなってしまった。
七人の野盗が、俺達を取り囲む様にしてジリジリと距離を詰めてきている。
「我輩は大丈夫なのである!」
おっさんの返事が帰ってきた事に安堵するが、状況は悪くなっている。
一人の野盗が動き出したのを合図に、一斉に俺達に襲い掛かってきた。
俺は正面の野盗の腕を手持ちの鎌で切りつけ、右側の野盗の攻撃を防ぐ。
しかし、後ろから襲ってくる野盗の攻撃まで手が回らない。
背後に迫った野盗が剣を持った腕を勢い良く振り上げてきたのだが……
「ブラス様を襲うなんて、万死に値します」
後ろを見ると、黒い翼を生やして魔族の本性を現したチャムが、野盗の心臓を貫いていた。
「ば、ばか……な、魔族……だと……」
「ここでは、他に誰も私達を見ていませんから、正体を隠す必要が無いのです」
周りを見ると、リリスも魔族の本性を現していて、五人の野盗が倒れていた。
「私達の正体を知ったからには、生かしておく訳にはいきません、死んでブラス様の糧となりなさい!」
「ゆ……許してくれ、俺はただ命令されてやっただけなんだ」
俺の正面で倒れている野盗が、魔族を目にして震えていた。
リリスが俺の正面で倒れている野盗の元に歩み寄ると、心臓に手刀を突き入れて、止めを刺した。
リリスとチャムって、俺より強くね?
「二人共強いんだな」
おっさん程ではないが、リリスもチャムも、確実に俺より強い。
リリスとチャムは、俺の前で跪いて俺の質問に答える。
「私もチャムも、一応上位魔族ですので、この程度の人間には遅れを取りません、人に擬態していると力が制限されますので、擬態している時はこの人間よりも力は弱くなってしまいますが、魔力は擬態していても人間を凌駕します」
リリスとチャムは人に擬態して、人に紛れることが得意で、隠密や暗殺に長けた魔族らしい。
リリスとチャムは旅に加わってから、なるべく目立たないようにして俺に付き添ってきた。
所々で危なっかしかったが、良くバレないよな……
「ブラス様、私達に魔王として命じて下さい」
リリスが本気で言っている事は伝わってくる。
「それはどういうことだ?」
「我々、魔族をお導き下さい」
「『魔王として』……つまり、俺に魔王として魔族の国に君臨して魔族を導けと言うことか?」
「はい」
リリスの言いたい事は理解る、その為だけに、俺に付き従ってきたのだから、しかし俺には目的がある。
「以前にも言ったが、俺には目的がある。悪いが魔族の国に行く事は出来ない」
「その目的をも手伝わせて下さいませ。それに、暫くの間であれば、優秀な者に代理を任し、連絡さえしっかりしていれば国は遠隔からでも統治は出来ます。我が国へは必要な時にだけ戻って頂ければ良いかと」
え? そんなんでいいの? なんか騙されてないだろうか?
「俺の目的が第一優先で、魔王としての仕事がついでで良いのなら……まぁ引き受けなくも……ない、かな?」
「本当ですか!」
「まおー様、嬉しいです!」
言ってみただけのつもりだったが、こんなに満面の笑顔で喜ばれると「やっぱやーめた」って言いにくい。
「シャドウアサシン! ブラス様の気が変わらない内にスターリィワイザーとアルヴィスに魔王様降臨の報告を!」
「はっ! ただ今すぐに!」
突然、リリスの影から声がしたと思うと、影の中から気配が消えた。
そう言えば、影の中にあの不気味なのが居たんだったな……
って事は、またあの怖い魔族が影から出て来るの?
スターリィワイザーとアルヴィスとか言う魔族は見た目からして、やたら怖いんだけど……
ここから反撃です。




