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12 リサ

「さぁ、追い詰めたぜ、もう逃げられねぇぞ」


 なんかこのパターン飽きてきたぞ。


「良くこの人混みの中で、俺達を見つけられたな」

「ハッ! 昔からこういうのは得意なんでね」


 ヴァッカは得意気に不敵な笑みを浮かべてみせた。

 此奴は俺達を見つけたり、追いかけたりするの妙に上手いよな、子供の頃かくれんぼとか得意だったとか、そういうタイプだろ。


「お前、腐蝕なんて呼ばれるより、かくれんぼの勇者の方が似合ってるんじゃないのか?」

「あん? テメェ、俺の弟を知ってんのか?」

「は?」


 何を言ってるんだこのバカは、どこから弟の話が出てくるんだ。

 皮肉どころか、会話も通じないのだろうか?


「ブラス……ブラスってば」

「何だよ? アーシア」


 アーシアが小声で俺に話しかけてくる。


「ヴァッカの弟は『かくれんぼの勇者』だって言われてるんだよ」

「居るのかよ!」


 居たよ、かくれんぼの勇者が!

 皮肉で言ったつもりだったのに、此方が驚かされたわ!

 その勇者に一体何の需要があるんだよ!

 女神の加護のバリエーション広過ぎだろう!


「それに、テメェらを分断させる作戦に見事に嵌ったようだな!」


 いや、お前作戦とか考えられる程頭良くないだろ?

 考えたのは野盗の誰かだろうな、此奴の能力はただでさえ煩わしいのに、大人の知恵が加わると非常に厄介だ。

 ヴァッカは懐から何かをを取り出して、見せつけるようにして此方に投げてきた。


「こいつも、さっき捕まえてきたぜ」

「それは、ティアの髪飾り!」


 アーシア達は絶望したかのような顔をしている。

 仲間が捕まったのだから当然かも知れない。


「この人数をどうしようかと思ったが、勝手に別れてくれたから捕らえやすかったぜ」

「スターク達はどうしたのである?」

「あん? さっきの二人組の男共の事か? 他の奴に任せて置いてきたぜ」


 スタークさんもカインさんも相当強いが、この数相手では手間取っているのかもしれない。

 いつの間にか俺たちを囲む野盗の数は20人近くにまで増えていた。

 剣にナイフ、弓を構えている奴も居る。


「おっさん! こんな場所じゃ不利だ、弓を構えている奴まで居る」

「うむ、承知したのである! この先に我がヴァルシュタッド家の所有する倉庫があるのである、其処に一旦逃げ込むのである」


 おっさんは倉庫に向かって走り出そうとしているのだが、アーシア達が動こうとしない。

 ティア達の事が気がかりなのだろうけど、今はそんな場合じゃない。


「おい、アーシア、何してんだよ! 早く走れ!」

「だって、ティアが……」

「お前まで捕まったら誰がティア達を助けるんだ? まずは自分で出来る事をしろ! 勇者なんだろ!」


 アーシアは勇者という言葉に反応する。


「理解った、ブラスの言う通りにする、そしてティア達は必ず助ける」


 アーシアは決意を固め走り出す。

 なんか、アーシアならティア達を助ける為に考え無しに突っ込んで行きそうだから、不安ではあるが、今はそれで良しとしておこう。


「よし、テメェら! 男は殺しても良いが、女はなるべく傷をつけないで捕らえろよ」


 ヴァッカがそう言うと、一斉に野盗達が動き出す。

 チクショウ! 俺とおっさんばっかり狙いやがって、ナイフや矢が飛んできて超怖い!

 膝に矢を受けてしまったらどうすんだ!

 目的の倉庫までの道のりを、おっさんが先頭で野盗を蹴散らしながら進み、俺が脚の遅いリサさんを庇いながら最後尾を走っていた。

 野盗の動きは、俺達を追い込む様に付かず離れずだった為、油断していたのかもしれない。


「ブラスくん、危ないのである!」


 道の突き当りを曲がった時、俺の行く手を塞ぐかの様に矢が放たれ、先回りしていた野盗が突然上から襲い掛かってきた。

 この野郎、狙ってやがったな!

 矢を躱し、そのまま目の前の野盗からの攻撃を手持ちのナイフで咄嗟に受け止める。

 その瞬間、俺を追っていた野盗が追いつき、背後から剣を振り下ろした。




 ――――




 鮮血が舞っていた。

 リサさんが俺を庇って野盗の振り下ろした剣を体で受け止めていたのだ。

 色を失い、まるでスローモーションの様に、血の一滴一滴を散らしながら、俺の目の前でゆっくりと体を崩す様に倒れ込む。

 俺は咄嗟に目の前の野盗を蹴飛ばして、リサさんを抱え込む様にして抱きとめた。

 何が起きたのか理解出来なかった。

 いや、頭が、心が、目の前で起きた事を理解するのを否定していた。

 皆が異変に気が付き、こちらに引き返してくるのが視えた。


「マ……ママぁ――――――――――!」


 ニーナの搾り出すような悲痛な声が響き渡る。


「何でだよ、何で俺を庇ったんだよ!」

「うふふ……親が子を庇うのは当然よ……」

「俺は子供じゃねぇだろ……いいから黙ってろ」


 おっさんが引き返して来てくれた。

 俺はリサさんを抱きかかえて倉庫を目指して走り出す。

 アーシア達は倉庫の前で待っていてくれた。


「早くこの中へ!」

「うむ、ブラスくん、早く入るのである」


 倉庫の中に入ると、アーシアはドアを締めて閂で閉ざした。


「此処はボク達に任せてリサさんを奥へ」

「二階の奥に休めそうな所がありましたわ」

「私は、リサ様についていくなの」


 倉庫の二階の奥に布を束ねたものが沢山あったので、そこにリサさんを、そっと寝かせるように下ろした。


「ブラス……そのまま動かさないで、私の魔法で傷は癒せないけど、痛みを和らげる事は出来る……なの」


 アリシアは呪文を唱えてリサさんを淡い光で包む

 俺はリサさんが楽になれる姿勢を探して、そのまま支えた。


「ほら……やっぱり優しい息子だわ」


 リサさんは満足そうに笑ってみせて、そのまま抱く様にして、俺を胸元に引き寄せた。


「あの人(アルベルト)が貴方を息子と呼んだのだもの……貴方は私の息子よ」


 やめろよ……やめてくれ……

 抱きしめる温もりと共に、リサさんの優しさが流れ込んでくる。

 絶望とも恐怖ともしれない感情が胸を締め付ける。


「ずっと辛い思いをしてきた……のね……、ごめんなさい……もっと色々なものを与えてあげたかったのだけど……こんな事しか出来ないわ」


 リサさんは、ブラスを抱きしめる手を緩めようとはしなかった。

 ブラスは、転生の時に魂を浄化されていた為、自分の中に芽生えた嫌な感情を理解できなかった。

 前世の記憶から、旅の間に芽生える感情を、与えられる優しさをずっと避け続けていた。

 しかし、ブラスの魂は、心は、旅の間に全てを吸収して学び取っていた。

 その感情は危険な物だと思い込んでいた。

 

 違う……怖いのは失う事だったんだ。

 ニーナ達がリサさんの元に駆け寄ってくる。


「ニーナ……それにベルも、こっちにいらっしゃい……」


 リサさんは、俺を抱きしめる手をするりとほどいて、ニーナとホーリーベルを抱きしめる。


「ごめんなさい、あなた達を抱きしめてあげられるのは、これが最後になるわ……」

「やだ……やだぁ、そんなの嫌だぁ!」

「うわぁぁぁぁぁん」


 また(・・)俺は失うのかよ!

 その光景を、親を亡くした時の想いが脳裏に蘇るようで、胸が張り裂けそうなほどつらく悲しい気持ちで見ているしかできなかった。


「マリア、それにあなた……後の事はお願いするわ」

「はい、奥様……後はお任せ下さい」

「うむ、立派だったのである、後は任せるのである」

「ニーナも……ベルも……これからは二人で力を合わせて強く生きなさい。」

「うん、約束するから、だから死んじゃやだぁ!」

「ちゃんと約束するから死なないで!」


 二人の悲痛な願いが胸を強く締め付ける。


「ニーナ……ベル、そんなに悲しい顔をしてちゃダメよ……」

「でも……だって……」

「悲しい時は歌を歌って元気になるんだったでしょ? ラララ~ララ~……」


 リサさんは歌いながら二人を優しく抱きしめる。


「どうしたの? 一緒に歌ってくれないのかしら?」

「歌ったら元気になる?」

「痛くなくなる?」

「えぇ、辛い痛みが治まっていくわよ」

「それなら歌う」

「「「ラララ~ララ~……」」」


 3人の優しい歌が響き渡る。


「あなた、私すごく幸せよ……」


 そのまま二人を抱きしめる手が静かに落ちて、リサさんの歌が止まった。

 後2話ほどでブラスの反撃(予定)です

 こういう悲しい話書くのは辛いですね。

 GWが終わるまでは更新速度落ちますが、ちゃんと続けていく予定です。

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