8 スタークとカイン
「ねぇエイミー、敵の数は判る?」
「囲もうとするぐらいだから、30人以上は居るんじゃないかな?」
「そんなに沢山居るの?」
「うむ、包囲網が完成する前に抜け出したいのであるが、馬車の速度では危険であるな」
馬車では荷台の重さと、乗っている人数分の重さが有るので速度は出ないし、長距離も走れない。
しかし、このままでは完全に包囲されてしまう。
「まずは、何時でも馬車を走らる事が出来る様にしておきますわ!」
「私は、馬車を守っておく……なの」
「じゃぁ、ボク達は荷物をまとめるよ! 行こうティア!」
それぞれが慌ただしく動き、エイミーは、リサさん達を安全を確認しながら馬車に避難させていた。
「なぁ、おっさん」
「何であるかな?」
「俺の荷物返してもらう事は出来るか? あれが有れば俺も戦えるかもしれない」
「ふむ、そうであるな……」
「ダメだよブラス! 疑うわけじゃないけど街へ戻るまではそれは出来ないよ」
おっさんなら認めてくれそうだったが、アーシアの頭が固い、そんな状況じゃないだろうと思うんだが……
「大丈夫だよブラス、ボク達が守ってあげるよ」
「うむ、ブラスくんは巻き込まれただけであるからな、ブラスくんは我輩の家族と一緒にいて欲しいのである、できれば我輩の家族を守って欲しいのである」
おっさんの強さなら30人ぐらい何とかしそうではあるが、あのバカが居たら、おっさんは腐蝕のバカの相手で精一杯だろう。その場合、アーシア達だけで30人ほどの相手をする事になる。
「おっさん、提案があるんだが……」
――――
暫くすると、ヴァッカが10人程連れて姿を現した。
「今日こそ女共を貰いに来たぜ」
ブラスは唖然としていた。
目的がニーナ誘拐から女目的に変わっているだけでなく、夜襲の利点である奇襲や混戦すら生かさないで堂々と姿を現して来たのだからだ。
何の為に夜襲を仕掛けてきたんだ? やっぱりバカだ! もしくはアホだ!
「数にビビって言葉も出ない様だな? だが、まだ他に30人もの仲間が包囲してるんだ、逃げられねぇぜ!」
呆れて言葉も出ないんだよ! 何で目視出来ないほど遠くから包囲してるんだよ、スッカスカで簡単に抜けられそうな包囲じゃねぇか!
とは言え、馬車の速度ではすぐに追いつかれてしまうので逃げるのは得策ではないのだが。
そう言えば、このヴァッカは、アーシア達とそう年齢も変わらない、ただの粋がっているだけのガキンチョだったな、とんでもない能力に目が行ってて、その辺忘れてたわ。
「命乞いをして、女共を置いていくなら、命だけは助けてやるぜ……って、プッなんだその格好は? ハハハハハハ」
ヴァッカはおっさんを見て馬鹿にする様に笑っている。
そりゃおっさんの様なクマみたいな大男がフライパンや鍋を持って現れれば驚きもするだろうが、良く似合ってんじゃん、何も笑う事は無いよな?
「返答は変わらないのである! 家族は我輩が護るのである!」
「何だよ、料理でも振る舞ってくれるのかと思ったぜ、しかしそんなもの、俺の腐食の力で……ぎゃふん」
その瞬間、おっさんがフライパンを強く握りしめ、フライパンごとヴァッカを殴りつけた。
ガンッっと言う音と共にヴァッカは後ろに吹っ飛ばされる。
しかし、「ぎゃふん」なんて初めて聞いたわ。
「むぅ、ブラスくんの言う通りであるな! 一瞬であれば鉄が完全に腐食する前に殴れるのである」
以前ヴァッカが数秒でフライパンやアーシアの鎧を砕いた事があったが、数秒かかったのだ! しかしそれでもフライパンの三分の一程は腐食していた。
「さっきは速すぎて軽い拳になってしまったであるな、次はもう少し強く行くのである!」
そう言って、おっさんはフライパンを曲げて拳に巻きつけてしまった。
「くそ! テメェら何してやがる?! 仲間に合図して全員で襲わせろ!」
「お、おう、テメェら腐蝕の旦那の言う通りに合図をだ……ぐふっ」
おっさんは合図を出す野盗を殴りつけて1人倒してしまった。
他の9人の野盗が必死で松明をグルグル回して合図を出すが、その間におっさんが一人ずつ倒していく
おっさんが更に3人程殴り倒した所でヴァッカが立ち上がる。
「くそっ、何で誰も来ねぇ! ちゃんと打ち合わせ通りにしやがれ!」
「あぁ、そいつは無理じゃねぇかな?」
不意に背後から声をかけられ、ヴァッカは振り向いた。
「むぅ、スタークであるか」
「よぉ、今追いついたぜ」
其処に現れたのは、黒髪の短髪で精悍な顔つきだが少しタレ目なガタイの良いおじさん風で、マントと背負っている大剣が特徴的だった。
「酷でぇよな、待っててくれって言ったのに、先に行っちまうんだからよ」
「御主が我輩の娘を引き取るとか言うからであるな」
「おまいさんが一人じゃとても守れそうにないから、此方が引き取って護ってやるって言ってんだろが」
誰? 知り合い? おっさんと親しそうな雰囲気なんだが。
「おいテメェら! 包囲されてるって事を忘れてるんじゃねぇだろうな?!」
無視されるのが気に食わなかったのだろう、ヴァッカがイライラしていた。
「あぁ、周りをうろちょろしてたアレな、あっちのはさっき倒してきたんだが……カイン! そっちはどうだ?」
スタークが呼びかけた方向から、漆黒に金で装飾された全身鎧に深紅のマントの騎士がゆっくりと歩いてくる。
スタークの呼びかけに答えるようにヘルムのスリット部分から「ぐぽ~ん」っと赤い光が漏れる。
ロボットとかじゃないよな? どういう構造になっているのか理解らないが、暗闇から現れる赤目の騎士とか怖すぎる。
「30人ばかし居たようだが、全部片付いたみたいだな」
「くそ! おい、あの黒い騎士を倒して逃げるぞ」
「「「「「「おぉ!」」」」」」
「いけぇ!」
そう言って、残った6人の野盗をカインにけしかけて、ヴァッカだけ一人違う方向に逃げていった。
「え?」
「あれ?」
その事に気がついた野盗がは何も出来ずにカインに蹂躙されていった。
ヴァッカ、あいつかなりの小者だったな。
「あいつ酷い奴だな、仲間を見捨てやがった」
「うむ、性根の腐った奴なのである」
俺も同感だ、心の方が腐蝕してるんじゃないかと思えてくる。
「あの~、アルベルト様、その人達は?」
「うむ、魔族との戦争の時に共に戦ったスタークとカインであるな、旧知の仲ではあるが、我輩の娘を狙う不届き者である」
「おいおい、そりゃねぇぜ、別に無理やり連れて行くわけじゃないって言ってんだろ、その娘を護る為に引き取りたいってリサさんにも相談してだな……」
「娘は我輩が護ると言っているのである」
「あらあら、スタークさんお久しぶりね」
リサさんが馬車から降りて来て話しかけてくる、だんだん和やかな雰囲気になってきた。
「あのぉ~、つまりこのお二人は敵では?」
「あらあら、スタークさんもカインさんも信用の出来るお人よ?」
「うむ、見どころのある奴なのであるが、我輩から娘を引き離そうとする敵なのである」
「アナタ、スタークさんを敵じゃないわよ、娘を守ろうとしてくれているんだもの」
「うむ、しかしであるな……」
どうやら敵じゃないようだ、またおっさんの我儘に振り回されたみたいだな。
「ねぇティア、ボク達が聞いてた話と何か違うんだけど」
「そうね、でも確認しなかった私達の落ち度だわ」
「それでも、腐蝕から護るという仕事はちゃんと残ってますわ」
「それも今回何もしてない……なの」
「私達の仕事これでいいの?」
アーシア達は落ち込んでいた。
「今回は助かったのである、礼は後で何かするのである」
「それじゃあよ、ちょいとばかし手伝ってくれや」
――――
スタークは40人の野盗を一箇所に集めて金品を漁り始めた。
「うぅ、なんだか此方が野盗の気分ですわ」
「何言ってんだ嬢ちゃん、こいつらの持ち物も誰かから奪ったものだろう? それに、こいつらが持っていても碌な事に使わねぇ」
「リサさん、すまねぇが子供達を連れて馬車に行っててくれねぇか? これから先はとてもじゃねぇが見せられねぇ」
「わかりました、さぁ、ニーナ、ベル、マリアとリリスさんとチャムちゃんもいらっしゃい」
リサさんは皆を連れて馬車に戻っていった。
「さて、野盗共! お嬢ちゃん達の前で殺す事もしたくないし、さすがに街に連れて行く事も出来ないので此処で解放してやる」
「お、おい、俺達助かるのか?」
野盗たちから声が漏れる。
そりゃそうだ、金品を取られただけで解放してくれるのなら破格とも言える。
「それじゃ、腕か脚か好きな方を選べ」
「へ?」
「早くしろよ、40人も居るんだからよ」
「それは何を……?」
「仕方ねぇな、それじゃ両方だ、悪く思うなよ」
スタークが野盗に剣の鞘で腕を潰すようにして打ちつける。鈍い音を響かせて腕が潰れた。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
野盗達の顔が青ざめる、アレは骨が治らない潰し方だ。治ってもまともには動かなくなるだろう。
そのまま脚も潰された野盗は声にもならない荒い呼吸の様な悲鳴をあげていた。
「さて、これじゃ不公平だから、全員腕と脚いっとくか?」
「ちょ、ちょっとまって、スタークさん! ボク達は冒険者だ!人殺しでも野盗でもない、非道なことは見逃せないよ!」
血の気の失せた野盗から、まるで縋るような視線がアーシア達に集まる。
「それじゃ、正義感の強いお嬢ちゃんに聞くが、40人もの野盗は連れていけない、このまま開放すればまた野盗として略奪を繰り返す。どうするつもりだ?」
「それは……街の衛兵に連絡して……」
「それじゃ逃げちまうだろ。それに、こいつらはお嬢ちゃん達を殺すつもりで襲ってきた連中だ、今まで人を殺し、物を奪い、女や子供は弄んで売って私腹を肥やして来た。そんな連中を改心させた所で、被害者は納得しないと思うがね」
「う……」
「それに命を奪うわけじゃねぇ、二度と野盗なんか出来ないようにして、今まで好き放題した報いとして少々ハンデを背負ってもらうだけだ」
もう野盗は諦めと恐怖で声も出ないほど震えていた。
「そういや、アジトの場所聞き忘れてたな、優しい嬢ちゃんに免じてアジトの場所を吐けば腕をへし折って脚は歩ける程度で勘弁してやるが、どうだ?」
「い、言う!」
「俺もだ!」
「んじゃそっちから個別に聞いてくれ」
野盗は僅かな希望に縋ってアジトの場所を話し始めた。
整合性も取れているので本当にアジトの場所を話したのだろう。
「うむ、戻ったら騎士団を結成して向かわせるべきであるな」
「よし、ならさっさと済ませるか、カインはそっちから頼むわ」
そう言ってスタークとカインは腕を砕き、脚にはナイフを突き立てて歩ける程度の損傷を負わせていく。
どっちにしてもあの怪我では野盗には戻れないし、次の水場まで歩くことも出来ないので、このまま騎士団が来るまでこの場から動けないだろう。
「まだ夜は明けてないが、このまま街に向かうのである」
流石に40名もの盗賊がうめいている悲惨なこの場に留まりたくもないので、夜中だが出発することにした。
――――
「なんだと!40人もの仲間がやられただと?」
「あぁ、あいつら卑劣にも別の戦力を隠してやがった、あの女共は俺達を誘い出す為の囮だったんだ」
ヴァッカは自分の失態を隠す為に作り上げた話をフェルドに話す。
女を囮にして野盗を誘き寄せて罠にかける作戦だったと言う話を帰る間、ずっと馬上で考えていたのだ。
「おいヴァッカ、もっと詳しく聞かせろ! これはもうお前だけの問題じゃねぇ、このフェルド様の問題でもある!」
フェルドはヴァッカの報告に怒りを感じていた。
ヴァッカの報告には矛盾点が多い、ヴァッカだけ無事に逃げ帰ったのもおかしい、仲間を見捨てたのだろう事は容易に予想がつく。
フェルドは今までの付き合いからヴァッカの性格を見抜いていた。
それでも、金の払いは良かったし、特殊な能力を持っていたので利用価値も高かった。
しかし、今回は違う。面子の問題もあるし、40名も失ったとあれば野盗団も壊滅の危機でもある。
「次は俺が直接出る! ヴァッカよ、今度は逃げるとかそんな下手な真似するんじゃねぇぞ?」
次回あたり街に到着です。(予定)
ヴァッカはこんなに小者になる予定ではなかったのですが




