6 【腐蝕】の勇者
今回なんだか胸糞悪いのが出てきました。
「お前アナスタシアか? ハッ! もしかして護衛のつもりなのか?」
何か口の悪い奴だな、嫌いなタイプだ。
「アナスタシアって誰?」
「アーシアの事ですわよ」
まじか! アーシアってそんな名前だったの?
「何度来ても娘は渡さないのである!」
「ハッ! 良いぜ、なら力づくで奪うだけだ!」
空気がピリッと張り詰める。
「ヴァッカ、何でこんな小さな女の子を狙うんだよ?」
「アナスタシア、お前その女の価値に気が付いて無ぇのかよ、やっぱ【無能】だなテメェは! しかも、綺麗な護衛ばっかりじゃねぇか、楽しみが増えたってもんだ、それじゃ渡してもらおうか、女共含めて全員をな」
下品な目で品定めをする様な感じで此方を見渡してやがる、女を道具とか獲物としか見て無さそうな目だ。
余程自信があるのか、ゆっくりと此方に剣を構えて迫ってくる。
「させないのである!」
おっさんが無造作に鉄のフライパンを掴み投げつけるのだが、ヴァッカとか言う男はそれを受け止める。ヴァッカと言う男の手が光り、フライパンを数秒でボロボロにしてしまった。
「忘れたか? 俺は【腐蝕】何だよ! 鉄だろうと何だろうと関係ぇ無ぇ! 全て腐らせてやるよ」
「むぅ、鉄でも一瞬であるか」
すげぇ! アレが勇者が持つ女神の加護なのか! 触っただけで鉄のフライパンが数秒で腐るようじゃ、あの勇者に触れられただけでアウトだ。
おっさんは腐蝕の攻撃を喰らわないように、上手く立ち回りながら攻撃をするが、あのヴァッカという男も、あのおっさんの攻撃を掻い潜りながら反撃をしている。
おっさんの方が推している様子だが、お互いに決め手がない状況だ。
ヴァッカの目的はニーナを奪う事、おっさんを倒す必要は無いし、この中で一番強いおっさんを抜かれたら多分守りきれない。
それがわかっているから、おっさんも踏み込んだ攻撃が出来ないでいた。
アーシアが馬車から飛び出しヴァッカに向かっていく。
ティアとセシリアもアーシアを追いかけるが、此方の守りを薄くしてどうするんだよ!
「ボクも居るんだよ!」
アーシアが剣で斬りかかるが、躱されてしまい蹴り飛ばされてしまう。
おっさんを助ける為に行ったんだろうけど、むしろ邪魔になってしまっている。
ティアとセシリアもヴァッカを挟む様に位置取るが、手を出せないでいた。
「無能のくせに楯突いてんじゃねぇよ!」
光る手がアーシアの鎧に触れると、数秒で色が黒くなって崩れてしまった。
「くっ……」
「何だアナスタシア、久しぶりに会ったのに、まだ胸が育ってないのかよ! 俺が揉んで大きくしてやろうか?」
アーシアの胸を揉むだと? 何を言ってるんだあいつは?
俺はムカついてアーシアの胸に手を伸ばすヴァッカに思いっきりその辺にあったものを投げてやった。
「木杓子?」
ヴァッカは木杓子を簡単に受け止めて腐らしてしまった。
畜生、あれ手間かけて作ったんだぞ!
「ブラス!」
「何だテメェは?」
「お前なんかに名乗る名前は無い!」
「ブラス……っと、この無能が叫んでたぜ?」
アーシアめ、余計な事を叫びやがって、後でそのおっぱい揉ませろ! 揉む所無いけどな!
「ハッ! それじゃお前から潰してやるよ!」
ヴァッカがアーシア達を盾にする様にしておっさんの横を掻い潜ってきた。
ニーナ達に近づかせる訳には行かないので、俺は前に出てヴァッカに対峙する。
ヴァッカの振り下ろす剣をナイフで軌道を逸らす様に受け流して、そのままナイフをヴァッカに向けて斬りつける。
しかし、ヴァッカは体を反らしてナイフを躱し、光る手で掴みかかってくる。【腐蝕】の加護だ! アレはヤバイ! ブラスは後ろに下がって光る手を回避し、ナイフをヴァッカに向ける。
光る手にだけ注意をしていればブラスでもなんとか戦える、何度か撃ち合った後、おっさんがヴァッカの背後に追いつき、拳を振り下ろす。
ヴァッカは不利を悟り、そのまま大きく距離を取った。
「妙だな? 感が良いのかと思ったが、テメェ何か見えてやがるな?」
「何の事だよ?」
見えてると言ってるのは光る手の事だろうけど、そんな事をわざわざ敵に教える馬鹿も居ない。
「それに、レベルも高いな? 俺と渡り合えるのなら20以上だろう?」
「へ? レベル?」
何を言ってるんだこいつ? 急にゲームみたいな用語が出てきたので困惑する。
「ハッ! 惚けるのかよ! 良いぜ、多勢に無勢の様だから此処は退いてやるよ、いつ襲われるか怯えながら待ってな!」
「何度来ても娘は渡さないのである!」
「ブラスとか言ったな? テメェの事は覚えておくぜ!」
「おう、俺も覚えておく、腐蝕の勇者バカだったな?」
「ヴァッカだ! 脳味噌腐ってんのかテメェ!」
そう言われても俺は人の顔と名前を覚えるのが苦手だし、嫌いな奴の名前なんて尚更だ。
ヴァッカは後ろに下がると、林の側に繋いである馬の下まで駆け寄りそのまま去っていった。
「凄いよブラス! あのヴァッカと互角に戦えるなんて」
「まぁ、少しは見直しましてよ」
「ブラスさん、お強いんですね」
「うむ、見事なのである、吾輩も助かったのである、しかし話は後にして急いで此処を離れるのである」
また何時ヴァッカに襲撃を受けるか分からない、その場を離れる為に馬車に乗り込んだ。
――――
「所で、あのバカが言ってたレベルって何なんだ?」
ブラスはさっきから疑問に思っていた事を質問する。
「ブラスはそんな事も忘れちゃったの? 女神の加護のレベルだよ」
「女神の試練を受けて女神の加護を受けるのですよ」
「何か女神の為になるような事をすると試練を受ける資格が貰えるのですわ、その試練を乗り越えると女神の加護を授かる事が出来るのですわ」
なるほど、『フェアリーテイル』は確かスキル制のシステムだった、この世界もそのようなシステムが有るのだろう。
それだとその試練を乗り越えるとあの【腐蝕】の様な加護が得られるんだろうか?
「女神の加護って『勇者』が持ってる様なものなのか?」
「アレはまた別物なんだよ、勇者の持ってる加護は格が違うし、勇者の加護はレベルが存在しないんだ」
やっぱり別格か、確かにレベル上げただけであんなに凶悪な加護を誰もが持てたら全ての住人が超人の様なものだ。
「例えば、ナイトレベル3の方がナイトレベル4の試練を受けて乗り越えればナイトレベルが4になりますわ、でも失敗すればレベルは3のままになって試練を受けるための資格も取り直しになるのですわ」
「レベルが10になるまでは命を失うような試練は無いんだけど、その先は命を失う事だってある、特にレベル5の倍数の時は難易度が特に高いんだ」
「へぇ~、じゃあ皆もレベルがあるんだな?」
「例えば私はファイター10のナイト12の総合レベルが22ですわ」
「なるほど、複数の加護を受ける事も可能なのか、それで全て足したレベルを総合レベルって言う事だな?」
「その通りですわ」
経験値を貯めれば勝手にレベルが上ってたゲームとは違い、女神の試練を乗り越える必要があるのか、スキル制なのは似ているけど、やっぱりゲームとは違うんだな。
「それで、勇者の持つ女神の加護とは何が違うんだ?」
「普通の女神の加護は身体能力が少し上がったり、魔法が使いやすくなったり、威力が少し上がる程度なんだけど、勇者の持つ女神の加護は【腐蝕】の様に、とんでもない能力があるんだよ、使い方次第であらゆる状況が覆る程に、だから勇者はその加護で女神の試練も乗り越えるからレベルも総じて高いんだ」
なるほど、レベル上げも容易で、反則級の加護まであるのなら、勇者は脅威だ。
「それで、同じ勇者のアーシアのレベルは?」
「ボクはファイター14だよ」
「総合レベルは?」
「え? 14だけど?」
「勇者の女神の加護は無いんだよな?」
「うっ……だからボクはレベル上げも苦労してるんだよ……」
「……それって、勇者じゃなくファイターって言わないのか?」
「酷いや!」
アーシアは馬車の隅でティアに甘えながらいじけてしまった。
「ブラスさん、それは皆が思っていても言わない事ですわ」
「思ってたなら言ってやれよ!」
なんだか俺がアーシアを虐めたみたいじゃねぇか。
「アーシア、胸の大きくなる食事を作ってあげるから機嫌直せよ」
「ブラス! それは本当かい?」
ガバッと顔を上げて満面の笑顔を見せるアーシア、割と単純なんだな。
「それで、あのバカと言うのはレベルは高いのか? 腐蝕も常に使っている様子でもなかったけど勇者の持つ女神の加護はずっとは使えないのか?」
「あの強さならレベル20以上だと思う。勇者の女神の加護は普通の加護と相性が悪かったりするんだ、だから切り替えながら戦ってたんだと思うよ。」
それであのバカの手が光ったり光らなかったりしてたのか、まぁ、常に腐蝕で腐らせていては自分で武器も持てないもんな。
「バカと戦ってたおっさんは相当レベル高いのか?」
「うむ、吾輩はファイター24とモンク64の総合レベル88であるな」
「強すぎじゃねぇか!」
「しかし、流石の吾輩も腐蝕の能力を警戒していては実力の半分も出せなかったのである」
おっさんも、腐蝕のバカも、どっちもただの化物だな
「総合レベルで能力補えるのなら、全てのレベルを安全圏の10まで上げれば良いんじゃないのか? 10の技能レベルを10にして総合レベル100とか」
「それは無理がある……なの、総合レベルが上がれば上がるほど資格を得る為の女神への貢献する量が多く必要……なの」
「受付にお金も必要だし、時間もお金もどれだけあっても足りなくなるんだよ、だからそれは現実的じゃないね」
「それに、相性の悪い組み合わせもある……なの、3つ以上の技能レベルの習得は器用貧乏になっていくだけ……なの」
お金と時間かぁ、それで強さがあまり上がらないなら何かに特化させた方が強い。
普通の女神の加護と、勇者の女神の加護が併用できないと言うだけでも有益な情報だ。
「それよりも、ブラスがあんなに強いとは思わなかったよ! レベル相当高いんじゃないの?」
「そのレベルって言うのは何処で解るんだ?」
「あ、そうか、記憶が無いんだっけ?」
「街へ着いたら女神の試練を受けてみると良いのですわ」
「受付の時に解るはず……なの」
俺がなんとか戦えていたのはあの腐蝕の加護が見えていたからに過ぎない。
そうでなければ俺は多分負けて腐らされていた。
触れるだけで何でも腐らせるあの能力は厄介過ぎる。
それに、ああいう奴は次の行動が読みやすい、次は数を揃えて襲撃してくる、多分今夜あたりだろう。
――――
ヴァッカは馬を走らせながら考えていた。
あの小娘を手に入れれば勇者の後継者になれる。
そうすれば隣国の王女と結婚して地位も力も得られるはずだった。
ヴァルシュタッド家が自領に戻るのは知っていたし、どのルートを通ろうが、目的地に近づけば自ずと絞られるからこそあの場所で張っていたのだ。
障害になりそうなのは前大戦で鬼神と恐れられたアルベルトだけだと思っていた。
後は雑魚だ、それに小娘さえ手に入れれば良かった。
しかし、肌の綺麗な女ばかり居たので欲が出てしまった。
それもこれもあのクソ野郎の所為だ!
ブラスと言ったか、俺がアナスタシアの胸を揉もうとした時に木杓子なんかを投げてきやがった。
あの時のアナスタシアが嬉しそうに呼ぶあのブラスという男の名前!
アナスタシアの男か? ならばあの男の目の前で自分の女が奪われる所を見せてやるのも良い。
胸の無いアナスタシアに何の興味も湧かなかったが、泣き叫ぶアナスタシアと、ブラスと言う男が悔しがる姿を想像するだけで胸がすくようだ。
殺すだけじゃすまさねぇ!
何もかも全部奪って後悔させてから殺してやる。
ヴァッカがたどり着いたのは、とある野盗のアジト。
100名をも超える野盗を束ねるフェルドのアジトである。
「おい、誰か来るぞ」
「大丈夫だ、アレはヴァッカの旦那だ」
見張りの男がヴァッカの姿を確認して、門番に報告をする。
ヴァッカは門番の前で馬を降り、馬を馬房に繋ぐ。
「フェルドに至急の仕事を頼みたい、取り次いでくれ」
門番の男はアジトの奥へ走り去って行き、暫くすると開門の合図が下される。
そうして、ヴァッカを迎え入れるのであった。
――――
奥に居たのは40代ぐらいの隻眼の男、貫禄のある髭を蓄えた風貌で赤く焼けた髪が目立つ。
「おう、ヴァッカじゃねぇか! 久しいな」
「フェルド挨拶は良い、早速急ぎで仕事を頼みたい」
フェルドと呼ばれた男はグイッと酒を煽ってヴァッカの顔を見て怪訝な顔をする。
「急ぎだぁ? 高けぇぞ?」
「あぁ、いつも通りの特急料金を払う!」
「狙う相手は何だ?」
「馬車が二台、狙うのは男二人と後は女が11人ほどだ」
「女か……10人ほど連れて行け!」
「いや、それじゃ足らん! 相手は鬼神アルベルトだ!」
ヴァッカの発言にどよめきが走る。
「馬鹿か! 領主の馬車を狙うのか?! そんな依頼受けられるわけがねぇだろ!」
フェルドがそう言うのも当然だ、あの鬼神アルベルト何かを相手にしたら50人居ても足りない。
それに、領主何かを襲ったとあっては討伐隊どころか騎士が出てくる可能性だってある。
そうなればこのアジトは終わりだ。
「心配するな、襲うのは俺だ! それにアルベルトの相手は俺がする、お前らは女を攫って俺がアルベルトを殺す手伝いをすれば良い」
「勇者様が領主殺しの汚名を被ると?」
ヴァッカは黙って頷く。
「おい! 今すぐ出れる奴はどのぐらい居る?」
痩せた暗い風貌をした男が隣の部屋を確認して答える。
「40人は出せるかと」
「……だそうだ、ただし料金はいつもの倍だ! それと女は此方にも廻せ」
「チッ……その代わり最初は俺だ!」
足元を見られた事には腹が立つ、それにあんなに良い女共をこんな奴らに廻した後では手を付ける気にもならなくなる、一回楽しんだだけで手放すのは惜しい気がしていた。
しかし目的を果たせば地位も金も女も思いのままだ、今回は妥協する事にした。
ヴァッカは40人もの野盗を連れてヴァルシュタッド家の馬車を襲う為にアジトを後にした。
ちょっとゲームっぽいシステムが出てきました。
この世界の住人は女神に貢献する事で女神の加護を受ける資格が与えられます。
試練があるのは身の丈に合わない加護を得てしまわない為ですね。
最近、文章やストーリーはこれで良いのか悩みます。
よろしければ評価等頂ければ何処が悪いのか、何処が良いのか考える材料になります。
こういう所もっと説明が欲しい、こういう所もっと掘り下げてほしいなど、感想など頂けましたら幸いです。
良いものにする為の参考にさせていただきます。
最後に、ブクマしてくださった方、ありがとうございます。




