9話 魔王との対面
魔王? 普通の、一般人にしか見えない。
──そう見せているんだ。
奥底の見えない不気味さが、私を強張らせる。
「はじめまして。魔王様、私は、ミカ・タチバナです。よろしくおねがいします」
驚きすぎて、逆に冷静になっている。足音一つ立てずに、部屋に入ってきたのだ。
「僕は、魔王と勇者の関係は対等だと思っているよ。故に、敬語はいらない」
「そう。じゃあ始めてよ。『質問』を」
「そう焦らなくていい。簡単な質問さ。ミカ、君は『日本』から来たんだよな?」
何で知っているのでしょうか……。 こっちの世界とつながりがあるのか?
「そうだよ」
「なら、あっちの記憶はあるわけだ。年齢は?」
「17」
「あっちにいた頃の身長は?」
「165cm……、65インチ。」
65が同じだからたまたま覚えていた。インチ使うのかはわからないけど。
「ご配慮どうも。cmで大丈夫だよ」
少し間を置いて、
「ありがとう。では、本題に移ろう」
「君は、戦闘職ではないね? だから、レセニア王国は、切り札である異界人を召喚したのにもかかわらず、戦力を得られなかったわけだ」
「あっ、すみません」
なんだか、申し訳ない気持ちになった。
「いいや、君は悪くないさ。過去にも、戦闘職以外の異界人は召喚されてきたからね」
そうなんだ。意外と、異界人って多いのだろうか。
「君も、モンデリア王国が、戦争を引き起こそうとしていることは知っているね?」
引き起こそうとしている? モンデリア王国っていう国にふっかけられていたんだね。
「はい」
「魔王様、その認識は正しくはありません。既にモンデリア王国は、本国に宣戦布告の手紙を寄越しておりますよ」
シノさんが訂正を言った。でもすぐに、それは違うと言われてしまう。
「いいや、合っているね。奴らは、トライにも手紙を出しているよ。戦争しないかってね」
その時、会場全体に緊張が走った。私は、この言葉がどういう意味かはわからない。
「そうなのですね……。我々の思っている以上に、自体は深刻化しているということですか」
「ああ。まさか二国に同時侵攻するとは思わなかったよ」
……モンデリア王国は、二国を相手取るほど強大な国なのか。
「説明不足だったね。連邦王国トライソート。人間の国の中ではそれなりの大国だよ」
「レセニア王国の北に位置する国で、物の加工産業が盛んな国ですね」
「無論、戦力はレセニアより何倍も大きい」
「モンデリアは、トライを倒せるほどの大きな戦力を有した、ということですか」
「まだ断定はできないけどね。虚勢張ってるだけかもしれないし」
無さそうだけど。負けたらもともこもないし。
「自体が悪化していることには違いはないと思うから、こっちで援軍を出すよ」
「ありがとうございます。トライソートとはどういたしましょうか」
「うーん、あそこの偉いさん、頭固いからね。レセニアみたいな小国と、共同戦線を結んだりはしないんじゃないかな」
「そうですか。一応、協力を要請しておきます」
「うん。協力してくれたらラッキーだね」
「トライソートが負けたら、実質負けなの?」
レセニアより強いんでしょ?
「そうだね。負けてもらっちゃ困るから、頑張ってね」
そういった途端、立ち上がる。そんな軽く言われても……。
「もう帰るの?」
「こっちも忙しいんだ。あっ、農民だったら、これは役に立つんじゃないか?」
そう言うと、シルブレアは大きな箱を、机の上に出した。
昨日、ルリに教わったことを思い出す。
(「物を収納したいときは、手を前に出して、そこから対象を見つめて、飲み込むような感覚で行ってください。但し、静止しているものしか収納できませんので」)
手を前に突き出し、意識を向ける。
眼の前の箱が、一瞬にして消えた。
「入るか心配だったけど、杞憂だったね」
「『勇者』は優秀だから」
扉に手をかけるシルブレア。振り返って、
「君も、勇者と仲良くね」
ルリに話しかけた。
「はい。ミカさんは私がお守りいたします」
「へぇ、頑張って」
「シルブレア様、私が王城の外までお見送りいたしましょう」
エリカが提案した。
「不要だ。ありがとう」
「そうですか。……」
ちょっと残念そう。
「じゃあ、また来るから」
そう言って『魔王』は、部屋から出ていった。
間を置かず、話し始める。
「戦争の際は、今よりも、もっと食料資源が少なくなってしまうだろう。だからミカには、稲作をしてほしいんだ」
エルさん。言われると思っていたよ。
「はい。勿論」
「引き受けてくれるのならありがたい。これを使ってくれ」
大きな石を、私に手渡してきた。石に見えるけど、いくつか穴や突起がある。
「それは水精製機と言ってね。魔素を与えると水に変換してくれる装置だ」
あー、あれか。家にあった石。それの大きなタイプだ。
「これは最新の技術を取り入れたすぐれものでね。設定したとおりに水量を調節できる」
だから『機』なのか。すごいね。
「設定には『循環』のスキルが必要なんだが、2人は持っているか」
「いえ」
「持っていません」
「じゃあ、エリカを連れて行け」
エリカは『循環』を持ってるのか。どんなスキルなんだろう。
「かしこまりました」
エリカが応じる。
「後は、これだ。中に苗がたくさん入っているから、気をつけてね」
そう言って、箱を出す。
「では、君の家に案内してくれたまえ。それは私が運ぼう」
「エルさん、シノさん。私達はこれで。シレンもまたね」
大きな扉に手をかける。
「ああ。ミカなら使いこなしてくれると思っているよ」
「次王城に来るときは、お米を持ってくるのよ」
「ミカ様、次にお会いできる日を、心待ちにしております」
……シノさんブレないな…。シレンは真面目だね。
◇◆◆◆◇
私達は、王城を出て、帰路についた。昼過ぎ。
――シルブレアは、どこまで知っているのだろうか。




