24話 魔王軍
魔王シルブレアは忙しい。
今はレセニアが第一ではあるものの、彼はホワシー魔王国の王である。
自国を治めるのは、彼の仕事だ。
「だぁ〜。セリナ、一日魔王、やってみないか?」
異界人から聞いた軽いジョークを交える。
大きなため息を吐いて、豪快にソファに座るシルブレアを横目に、セリナが応えた。
「遠慮しておきます。大体、私はシルブレア様の護衛ですから」
彼女はシルブレアの護衛であり、秘書ではない。
ここはホワシーの首都、ワーカーにある、シルブレアの住居兼職場。
禍々しい魔王城……ではなく、政府機関の集まった小さな街のようなエリアである。
その中央に、シルブレアの家があるのだ。
先程まで書類確認をしていて、今、休憩に入ったところなのだ。
「僕にも秘書が欲しいよ」
多忙なシルブレアの嘆きだ。
「雇えばいいじゃないですか」
「それは違うだろう?」
そう。用意には雇えない。
それは、ホワシー魔王国の住む種族が関係している。
ホワシー魔王国は魔王シルブレアが統治しているだけあって、人間以外の種族も多く暮らしている。
その人口の三分の一以上を占めるのが魔人だ。
魔人とは、魔物の性質と人の性質を併せ持つ種族のことで、人間よりも保有する魔素が多く、魔法の扱いにも長けている。
多種族国家で人口も多いので、下手に雇ってしまうと反感を買ったり、種族間での差別が生じたりしかねない。
だから、秘書をつけるとなると、厳正な選抜を行い、公正に決める必要性があるのだ。
「そうですね。私も苦労しましたし」
「セリナを雇えたのも、奇跡みたいなものだと思っているよ」
セリナは人間で、魔人よりも弱い種族だ。
だが、こうして護衛をやっているのは、強力な彼女のスキルと、民に人間は侮れない種族だと思わせたいという、シルブレアの思惑があるからだ。
強力な種族が多いが故の、ホワシー魔王国の苦悩である。
「それで、レセニアに何処の部隊を派遣するのですか?」
三ヶ月後に差し迫る、モンデリアとレセニア、トライソートの戦争。ホワシー魔王国はレセニアの後ろ盾として、レセニアを援助するのだ。
「今のところ、第二軍からいくつか。今から見に行く?」
「いいですね。様子を見に行きましょうか」
◇◆◆◆◇
レセニアの軍部隊は主に三つ。
国の防衛に当てられている第一軍。そして、非常用、派遣用の第二軍。外交、諜報も兼ねた第三軍だ。
二人は、第二部隊の戦闘訓練が行われている、ワーカーから少し離れたところにある丘にやってきた。
「やあ。調子はどうだ」
シルブレアは第二部隊の最高指揮官である、ヘルトに声をかけた。
「はっ、シルブレア様。皆、訓練に励んでおります。それで、どのような御用で?」
「前に司令を出したけど、やっぱり援軍を出すことにした。第二軍からいくつかレセニアに送るんだ」
「そういうことでしたら、すでに選定済みです。部隊長をお呼びいたします」
「できるね。頼む」
ヘルトは仕事のできる男だ。事前に要件から情報を推測し、対応できるような人選を行っている。
五分も経たずして、部隊長が集まった。シルブレアの正面に、ヘルトと他の三人が並んでいる。
左から順に、遊撃隊隊長、バンス。弓兵隊長、リウム。魔法兵隊長、ナナメル。
バンスは人間の青年で、リウムは女天使。ナナメルは幼女のような魔人だ。
天使は悪魔に弱いのが特徴で、身体能力も低い。しかし、知能はかなり高い種族である。
また、天使は本来召喚魔法で呼び出されるが、リウムは例外的に自然発生した天使なのだ。
「初めまして、それなりの腕があると思ってもいいんだね」
シルブレアは、普段は軍部に干渉しない。
ある程度の方向性だけ設けて後は任せているので、人員構成に関してほとんど知らないのだ。
シルブレアの見方に対し、三人はそれぞれ自身ありげに、
「勿論です」「…うん」「はい!」
と。
そして、シルブレアは『診察』を使う。
( バンス・レドアリア
種族:人間
職業:『遊撃手』
スキル:『遊撃』『速攻』
リウム
種族:天使
職業:『弓兵』
スキル:『速射』『命中』
ナナメル
種族:魔人
職業:『魔法使い』
スキル:『湾曲』『煌々』 )
シルブレアが彼らから読み取った情報だ。
三人とも若い。しかし、レセニアでは彼らより強いものは数少ないだろうと、シルブレアは判断した。
つまり、使えるのだ。
ただ、一つの心残りがあった。
それは、モンデリアが悪魔、あるいは異界人を召喚している可能性があることだ。
確かに三人の能力は信用に値するが、遊撃、弓兵、魔法兵では、召喚された者が近距離系のスキルを持っているなら苦戦してしまうだろう。
「そうだな。一人、剣技に長けているやつはいないか?」
近距離系のスキル持ちに対抗するには、こちらも近距離に長けたものでないといけない。
「一人、でよろしいのですか?」
「ああ。優秀な者を一人頼む」
少し経って、ヘルトは一人の男を連れてきた。
若いとも年老いたようとも言えない、曖昧な風貌のその男の名は、スオード。
「初めまして、シルブレア様」
スオードは敬礼の姿勢をとり、頭を下げた。
「悪いね。部隊じゃなくて個人で行かせるなんて」
それは、ある程度の強さがある異界人や悪魔でも、一人の優秀な剣士が入れば対応できるという考えからだ。
そして、『診断』する。
( スオード・センプル
種族:人間
職業:『剣士』
スキル:『攻勢』 )
スオードはかなり珍しいスキルである、『攻勢』を持っていた。
『攻勢』は、自身の攻撃速度を大幅に上昇させる、強力なスキルだ。
「優秀だな」
これは、シルブレアの心からの本音だ。このくらいなら活躍してくれそうだ、という。
「お褒めに預かり光栄です」
スオードはもう一度深々と頭を下げた。




