22話 トライソート/プレーチューズ
連邦王国トライソートの国王、エスターブは思案する。
如何にすれば、モンデリアに対して、安定した勝利を収められるかを。
戦略戦争ならば、用意周到に情報を集めれば済む。
しかし、今は攻められる側。モンデリアがどのような策を講じてくるかは、派遣した外交部が戻って来るまでは一切わからないのだ。
三ヶ月という期間は、案外短くはない。
今偵察しても、その情報は今後変わる可能性があり、安心できる判断材料とはなりにくい。
おそらく、一ヶ月もしないうちにモンデリアは入国を制限する。
そうなれば、偵察など夢のまた夢である。
トライソートは地域間の戦争を繰り返して大きくなった。
戦うことには慣れているが、国同士の戦争はこれが初めてになるだろう。
どんな規格外があってもおかしくはなく、状況が状況なだけに彼の頭を悩ませているのだ。
その上、トライソートには異界人や勇者は少ない。
法によって召喚魔法の使用を制限しているためである。
そういう条件で言えば、魔王シルブレアが後ろにいるレセニアのほうが状況は良いとも言える。
トライソートにできるのは、高い品質の武器を使った物量攻撃のみなのだ。
地域感の小さな争いとは規模感の違うこの戦いにおいて、戦う手段が少ないのは敗北に繋がってしまう。
狭い地域で戦う際には物量が物を言ったが、国同士ではそうはいかない。
また、トライソートには同盟国が少ない。
トライソートの北東に位置する、プレーチューズ地域。東に位置する中央諸国のうちの三国。これにはネルリネ興国も含まれる。
数えてみるとこれくらいで、いずれも小国であり魔王や勇者とは縁遠い。
――いや、ネルリネにはアマネがいるが、彼女はあの場を離れられない。
(本当は、魔王シルブレアの手を借りたいのだが……)
それは叶わない。
魔王シルブレアは、自分の守りたいところしか守らない。
それに、トライソートを良く思っていない。
トライソートの過去の国王が関係しているのだが、その話は置いておこう。
結局、何処かに頼れる状況では無いのだ。
それを再確認し、エスターブは決断する。
「これは防衛戦争だ。モンデリアとの国境線付近に、櫓を大量に構えろ。話はそこからだ」
自国のことは、自国で守る。
絶対的なその掟を正しく認識し、司令を飛ばす。
技術を重んじるトライソートの準備期間が、こうして始まった。
◇◆◆◆◇
ここは、プレーチューズ地域。
広い草原の大地が広がっている、豊かな場所。
この地域には五千人ほどが住んでいるが、国の体を成さず、村のようになっている。
その領主、つまりは村長である女――ミユリ――は同盟国のトライソートから送られた手紙を読んだ。
それには、モンデリアからの宣戦布告を受けたこと。レセニアにも同様の宣戦布告が送られていること。
そして、プレーチューズ地域の軍事協力を受けたいということ。
ミユリは、新興国であるモンデリアが、どうして大国と小国の二つを同時に相手取れる戦力を有したのかがすぐにはわからなかった。
文書を受け取ってから、数日間考え続けた。
わざわざトライソートの小さな図書館に赴いて、理由を調べようともした。
そして、一つの可能性にたどり着く。
それは、魔王とも勇者とも異なる職業。
――『対抗者』――。
『対抗者』は、かなり珍しい職業で、史実でもその職業を持つものは、数人しか知られていない。
特徴として、天使や悪魔、精霊の攻撃にめっぽう弱いことが挙げられる。
――そして、『魔王』や『勇者』のそれに匹敵するほど、スキルの力が大きくなること。
その稀有な職業の存在が、モンデリアにはいる可能性があるとミユリは思ったのだ。
まともに戦えば、敗北は必至だろう。勇者や魔王ならばあるいは、といったところだが、期待はできない。
(ありえない、か)
そう。その極めて珍しい職業持ちがモンデリアにいるとは考えにくい。
だから、ミユリはその可能性を割り切った。




