19話 かつての同志
「へぇ、結構実家に似てるかな」
私の家を一通り見回したカミノは、呟いた。
似てるって…
「書院造りってこと?」
「そう言うのかは知らないけど、君が言うならそうなんじゃないか?」
うーん、微妙な反応。
まあ、レセニア以外の家を見たことがないからわからないけど、王城の近く以外はほとんど和風だった。
「で、どこから?」
ルリが聞いた。それは確かに聞いていなかった。
「ネルリネからだ。意外と近かったよな」
「私は遠く感じたけど」
カナメは嫌そうな表情をした。移動中に何かあったのだろうか
「ネルリネからですか。飛翔の勇者の加護で成り立っていると聞きますが…、どうなんですか?」
ルリ!? それは禁句じゃないかな。
「ちょっとルリ!」
声を荒げてしまったが、ルリからすればただのネルリネ国民だと思っているんだろうね。でも違うんだ。
「へぇ、他国からはそんなふうに思われているんだ。参考になったよ。一つ言っておくと、僕達のお母さんは飛翔の勇者なんだ」
まぁ、ルリに落ち度は無いと思うけど。私も気をつけよう。
「え、あ、失礼しました!」
勢いよく謝罪する。仕方ないね。
「いいよいいよ。言わなかったのはこっちだし」
「気をつけます……」
ルリは赤面している。
「気にしなくていい」
カナメは優しいね。ルリに寄り添う姿勢を感じる。
「ありがとうございます。カナメさん。しかし、すごいですね。勇者の子供なんて。お会いできて光栄です」
「そんなに言うほどか?」
不思議そうな顔をしているけど、私も勇者だし、この世界にどれだけ勇者がいるか知らないから、珍しいかどうかもわからない。
「少なくとも私は会ったことがありません」
そうなんだ。若いもんね。
勇者も多いのか少ないのかわからないな。
「たしかに俺も、母さん以外の勇者に会うのは初めてだ」
でも、シルブレアが召喚魔法を作ったって言ってたけど、今までに何人くらい召喚されたんだろう。
◇◆◆◆◇
「じゃあ、僕達はお暇しようかな」
「お邪魔しました」
ネルリネの話を聞いて、ルリがレセニアの現状について伝えた。
二人が大きな戦力になってくれると非常に心強い。
「また、いつでも来てね」
「ああ、当分は来ないと思うぜ」
遠いからなって顔に出ていた。時間かかるし仕方ない。
「じゃあ、また」
二人で勇者の子供の兄妹を見送る。
「あの二人、ちゃんと戦ってくれそうですね」
「そうかな。だといいね」
あまり深くは言及しない。戦いに関してはノータッチの方向性で。
まぁ、私が戦闘系のスキル持ちだったなら、そんなことはできなかっただろうし、ちょっと甘えでもある。
この世界にいたら、いつかは戦いに遭遇してしまうのだろうか。
守るための武器が、攻めに変わっては欲しくない。
だからこそ、自分のするべきことを行うのだ。
大切なものを失わないために。無駄な命がないように。
◇◆◆◆◇
「デリーセルだ。トリマエに会いたいのだが」
デリーセルはモンデリア王城の最奥、トリマエ王の自室にやってきた。
ここに来るまでに通ってきたいくつもの重厚で壮大な扉とは異なり、簡素でパッとしない、木造の小さな扉。
ドアノッカーは錆びついており、使い物にはならない。
いつも、この部屋の前に一人だけ立っている警備に話しかけるのだ。
「アンタか。もう、来ないかと思ったぜ」
何度も訪れているので、もう随分と顔馴染みだ。警備員は不敵な笑みを浮かべ、軽口を叩く。
「馬鹿か。俺がこうも簡単に諦めると思うか?」
それに対し、飄々とした雰囲気を纏わせながら、軽く応じる。
「いや、思わない」
当然とばかりに、デリーセルの性格を理解している。小心者ではないし、目標のためには何だってする、大胆な男だ。
「俺がこれを聞くのも、最後になるだろうな」
それは、秘密の“合言葉”。ここに来るまでさんざん答えてきた、王に直接教わった合言葉。
「天気は?」
「晴れ。いや、今からは曇りになるだろう」
「時間は?」
「本当は一時間を予定していたが、二時間になった」
「目的は?」
「勝利。いや、生存」
「信念は?」
「道は自ら作り出せ」
「最後に、結果は?」
「惜敗」
一言一言が重々しく、受け答えの時間は永遠のようだ。
もう、来ないだろう。もう、来れないだろう。狭い廊下に、そんな意志が反響する。
モンデリアに長く従事している者でさえ最後の言葉までは知らない。
デリーセルは、この合言葉を最後まで知っている、数少ない人物の一人だ。
「トリマエ様。デリーセル様がお待ちです。よろしいですか?」
警備員が扉に向かって声を掛けると、すぐに扉が開いた。
「聞いている。久しぶりだな」
中には、左手のない、老けた顔の男が一人いた。
デリーセルには、よく見覚えのある人物だ。
「ええ、トリマエ指揮官、お久しぶりです」
デリーセルは丁寧な作法で礼をし、トリマエに敬意を払った。




