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17話 同郷の存在

「今日はお日柄も良く、ってな」


 黒髪の青年が言ったのは聞き覚えのあるワードだった。


「え?」


 思わず、疑問の声を上げてしまったほどだ。異世界でも知られているのか、あるいは……。


「ちょっと、兄貴、からかうのはやめなよ」


 隣りに座っていた女子は注意を入れた。やはり兄妹なのか。


「知らないか? そうだな、『先生はトイレじゃありません!』とか」


 ああ……。疑惑は確信に変わった。


「もしかして、異界人。それも、日本人なの?」


 率直に聞いてみた。ただただ知りたいのだ。


「それは僕達の母さんだよ」


「兄が変なこと言ってすみません」


 妹のほうが私に謝罪をしてきた。



 聞けば、百年前に活躍した勇者は“飛翔の勇者”と言って、その人が、日本からの異界人みたいだ。


 でも、子供が青年ってことは、やっぱり勇者はほとんど老いないんだね。


 良かった。私以外にも異界人がいて。


 この二人は、事態を聞いて協力するかを検討するために、レセニアに来たみたい。


「ま、こんな可憐なやつがいるなら、僕の判断は決まったも同然だよ」


 それ、誰だよ。


「それは……」


 エルさんも大変だね。紆余曲折があったようだが、それは後でシレンかエリカに聞けばわかるだろう。


「ああ。僕はレセニア側に立ち、モンデリア王国と戦おう。カナメも、それでいいよね?」


「負け戦に乗っちゃって。勝つのは難しいと思うよ?」


 妹のほうが優秀な口か。兄は残念なタイプだな。


「いいよ。それに報酬もあるんだし」


 報酬? 流石にタダでは雇えないとは思うけど。


「では、何をお求めに?」


 言い値だぁ。まぁ、負け戦に勇者の子を雇うんだからいくらか法外にはなっちゃうよね……。


「此処の永住権をくれ」


 ?????????


 堂々と言いやがった。意味がわからない。


「? そんなものでよろしいのですか? お金や権利も渡せるものはありますが」


 エルさんもびっくりしてるじゃん。


「私は反対、もっともらってもいいはずだよ」


 正論パンチ。妹、もっとやったれ。


「考えてみろよ。ただでさえ窮困で貧しい小国なのに、これ以上取ったら戦争に勝っても滅びちまうだろ。俺達は冒険者だから永住権なんてなんぼあってもいいし、ここは住みやすそうだしな」


 確かにそうだけど、シノさんいたら怒りそう……。


「言われてみれば……?」


 あーあ、負けちゃった。


「だろ? だからエルさん、俺達にここの永住権をくれよ。ちゃんと頑張るからさ」


「お二人がよろしいのであれば、これ以上無い提案です」


 ちゃんと最終確認をして偉い。


「ああ。それのほうがよっぽどwinwinだろ?」


「兄貴がそういうなら」


 そういう判断はときに身を滅ぼすよ、カナメさん。


「じゃあ、これからよろしくな。ミカ」


「ああ……。よろしく」


 かなり拍子抜けさせられた。変な人もいるもんだ。


 “飛翔の勇者”にも、会ってみたいな。



 ◇◆◆◆◇



 モンデリア王国の内情を探りに、冒険家デリーセルはモンデリア王国の首都、モアの酒場に来ていた。


「最近はどうだ?」


「もう反対派の勢いは落ちてしまってるぜ。指導者が殺害されたときは大きな反感を糧に動いていたんだが、賛成派は一枚上手らしい」


 なんでも、指導者を殺害した後、賛成派は本拠地の建物を反対派に占領された。しかし、数日立った後に、その本拠地が爆発し、反対派の幹部などが多数死んだのだという。


「そりゃあ、もう、戦争を止めるのは難しいかもな」


「ああ、それに、もう少しすると、入国が禁止されるかもって噂も出てるくらいだ。お前も、今回の潜入が最後になるだろうな」


「王と会うのは難しいだろうか」


 デリーセルはたまに王との謁見をしている。


「どうだろうか。もしかしたら、最後の機会だって通してくれるかもしれないぜ」


 デリーセルの話している相手は、かつては同僚だった男だ。


「あの方なら、言いそうだな」


 デリーセルはモンデリア王のことを知っている。


「じゃあ、お前も気をつけろよ。国家反逆で殺されないようにな」


「スパイ容疑で捕まる心配をさせろよ」


 お互いに軽口を叩きあう。


「ああ。戦争を辞める旨の手紙をもらってからな」


 そう言って、デリーセルはモンデリア王城に向かった。……争いを限りなく少なくするために。

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