16話 勇者の子
「へぇ、うちの子に用があってね」
「はい。ですから、本人とお話をさせていただきたく…」
エルはレセニアについての情報と近頃の情勢についての説明をした。勿論、ここに来た理由もだ。
「ちょうど帰ってきてるからね。呼んでくる」
エルは良い頃に来た。普段はここにはいないのだという。
「カミノ、カナメ、お客さんよ」
アマネは奥の和室に向かって呼んだ。ややあって、アマネによく似た、青年と少女が出てきた。
「珍しいな。ここでは依頼いつも無いのに」
「そう言わないの。話を聞きましょ」
エルとシレンの前に座る、黒髪の二人。右側にはう青年、左側に少女が座る。アマネは二人の後ろに立っている。
「僕はカミノ。知っているみたいだけど、冒険者をやってる」
「カナメです。同じく」
それぞれ、軽い自己紹介をした。
「私はレセニア王国国王のエル・レセニアと申します。」
「秘書のシレンです」
二人に続く。
「僕達に、どんな依頼があるの?」
カミノが話を切り出した。アマネと同じく青い瞳をしている。
「現在、レセニアはモンデリア王国からの宣戦布告を受けております。三ヶ月後には戦争が始まってしまうでしょう。しかし、レセニアにはそれに対抗するための戦力が足りません。そこで、お二人に力を貸していただきたいのです」
エルは簡潔に、けれども丁寧に二人に説明を行った。
「なるほどね。でも、僕達、そこまで強いわけじゃないよ」
「それでもお力添えいただきたいのです。報酬は多くは渡せません。ですが、レセニアが戦争で無くならずに済めば、少しづつ、返済をさせていただきます」
至って真面目な交渉だ。だが、レセニア側に切れるカードはそう多くない。
「どうする、兄貴?」
カナメがカミノの顔を覗き込む。
「そうだな……。断るつもりだったけどやめだ。まずはレセニアの状況を見てから考えよう」
「それは……」
エルは息を飲んだ。
「兄貴の現金主義」
「ははっ。じゃあ、エルさん今からレセニアに行こう。あと、この前召喚したっていう、異界人にも会わせてほしいな」
レセニアの異界人の情報は世界中に広まっているようだ。
「わかりました」
「あの、アマネ様に質問があるのですが」
四人の目線がシレンに集中する。
「こら、シレン」
シレンの無礼な質問を止めようと、エルは注意した。
「いいって、偉いご身分じゃないしね。ボク、何かな?」
ボクって言われるほど幼くはない、と心のなかで訂正するシレン。古の物語と対面しているのだ。少し緊張している。
「えっと、アマネ様はレセニアに協力していただけないのですか?」
協力、つまり戦争でレセニア側につき戦ってくれないか、ということだが、声が震えている。無礼な質問だと自覚しているようだ。
エルは思わず頭を抱えてしまった。
「ごめんね。私はここから離れられないんだ」
アマネは少し俯き落ち着いた声で伝えた。
「あっ、すみません。…そうですよね」
シレンは頭を下げる。出過ぎたことを言ったことを反省している。
甘い期待をしたと、シレン自身も思っている。それでも聞いたのは、レセニアが負けてしまう可能性を少しでも減らすためだった。
「すみません。シレンが…」
エルも頭を下げた。
「いいよ。でも、気をつけなよ。言われるかもしれないし」
「そうですね。ありがとうございます」
シレンは安堵し、落ち着いた声になった。アマネの気を損ねなかったようで、安心したのだ。
「それでカミノさん、出発は今からでよろしいのですか? 何か準備などがあれば…。勿論、馬車は向かわせますが」
明日以降、用意ができてからでも良いということだ。
「いや、大丈夫だよ。それにネルリネとレセニアって別に遠いわけじゃないでしょ」
馬車を使えば、一日もかからない。
「そうですか。それでは、貧相ですが我々の馬車に乗られますか?」
「そうするよ。カナメも、それでいいだろ?」
「……多分」
半ば心配そうな顔をする。が、ひとまず同意の意を示したようだ。
「それでは、参りましょう。アマネ様、ありがとうございました」
エルとシレンは深々と頭を下げる。
「その子たち、こき使ってあげて。吉報を待ってるよ」
天使は柔らかな瞳で四人を見送った。
◇◆◆◆◇
稲を束ねる作業は夕方までに終わらせられた。
ルリのほうはまだまだ時間がかかると言っていたけど……。
完成した柱に、私が束ねた稲をかけていく。
まぁ、あれだよね。学校で勉強をしていた頃は、こんなことをしてるなんて思わなかった。
数奇な運命なのかもしれないし、夢オチで終わるかもしれない。
それほどまでに、珍奇なことになっているのだ。
ヒナは、大丈夫だろうか。
もしかしたら、倒れた私を保健室に連れて行ってくれてるかも。
やっぱり、現実とは思えないんだよね。
それでも、受け入れることの他無いのだから、とにかく今はレセニアの為に、だ。
私の他にも異界人はいるみたいだけど、まるでどこにいるかなんてさっぱりわからない。
シルブレアが召喚魔法を作ったんだから、ホワシー魔王国にはいそうだけど。
そんな事を考えていると、強く扉を叩く音がした。
「私が出るよ」
ルリは大変そうだったので、私が出ることにする。
……ルリが引っ越したことを知っている人は少ないと思うし、わざわざ訪ねてくるってことは、
扉を開けると疲れた様子のエリカがいた。
やっぱりね。王城の人だと思った。
「至急、ってわけでもないが、急いで王城まで来てくれないか?」
どう見ても急いだほうが良さそうだ。
「えっと、要件は、じゃなくて、ルリも連れてったほうがいい?」
一応聞いておこう。要件は移動中でもいいだろう。
「まだ作業をしているんだろ。無理には言わないさ」
じゃあ、シルブレアが来たってわけじゃなさそう?
「ルリ、私、王城に呼ばれたみたいなんだけど、来る?」
木を削っていたルリに聞く。
「ちょっと長引きそうですね。私もまだ掛かりそうなので先に行っててください。終わるかはわかりませんが」
柱を作るのは大変そうだ。自分は楽でごめんと、心のなかで謝罪した。
「わかった。じゃあ、行ってくるね」
「はい。行ってらっしゃい」
◇◆◆◆◇
「ちょっと、酔ったかも……」
レセニアについた馬車は、王城の近くの街道で四人を降ろした。
カナメは馬車酔いをしてしまったようだ。馬車の品質が悪かったわけではなく、道中の曲がりくねった道のせいだ。
「おい、大丈夫か」
カミノはカナメの背中を擦っている。容態はあまり変わらない。
「水、欲しいかも……」
すると、シレンが水魔石と、木製のカップを取り出した。
「どうぞ」
それをカミノに差し出す。
「ああ。助かる。カナメ、ほら水」
カミノが魔素を石に込めると、カップに水が注がれた。カナメはそれを取り、飢えていたかのように勢いよく飲み干した。
「…、ちょっと良くなった。歩けそう。シレンさんありがとう」
「それは良かった。王城は近いです。頑張ってください」
少し歩くと、王城に着いた。
「へぇ、小さいけど、立派な城だね」
眼の前の王城を見上げて、カミノが呟いた。
白い城壁にところどころ薄紫色の装飾がされた、質素とも華美とも取れないような、中途半端な見た目の城。数十年前から補修をしていないため、城壁が剥がれていたり、苔が生えている箇所がある。
「応接室に案内いたします」
シレンが先導する。会議室とは違い応接室は一階にあるため、窓の眺めはあまりよろしくない。
二人掛けのソファに客人を座らせると、エルは対面の椅子に腰掛けた。
「ここで、詳しい概要を話そう。シレンは、エリカに頼んでミカを呼んできてくれ」
「わかりました」
シレンはエリカに伝えに、応接室を出た。
◇◆◆◆◇
「ねぇ、要件は何?」
街道を走りながら聞いている。王城には十分程で着くだろう。
「レセニアの北にあるネルリネ興国から、勇者の子供達を連れてきたそうだ」
勇者の子供……。強そう。一応私も勇者だけど。
「なんで私を呼んだのかな?」
強い人達を呼んだだけなら、別に強くない私の存在は必要じゃなくない?
「さぁ? でも、そいつらは召喚された異界人を呼んでほしいと言ったそうだ」
じゃあ、あっちの世界に興味がある人なのか。
「その勇者はどんな人なの?」
親の情報がわかれば、子供のことも少しは分かるだろうと思って。
「“飛翔の勇者”と呼ばれる、およそ百年前に活躍した勇者だ」
それは……。子供じゃなくて結構ご年配?
「どんな活躍だったの?」
「当時、ネルリネの辺りは、強大な魔王が支配していた。住民は奴隷のような扱いをさせらていて、他国に助けを求めることが多くあったんだ。当然、強大な魔王に太刀打ちできるほどの人物は少なく、救済の機会を与えた人物はいなかった」
「それって、シルブレアも?」
五百年前からいる魔王なんだから、百年前にもいたに決まってる。
「ああ、少なくとも史実では、特に介入はしていないとされている」
強そうに見えて意外と強くない? もしくは、介入しようと思わなかったのか。
「それで行動を起こしたのが“飛翔の勇者”だよ。救済を求めた市民をまとめ、支持を集め、自らの手で、魔王を滅ぼした。それによって、ネルリネ興国が生まれたんだ。今は三つに分かれているけどね」
誰も介入しようとしなかったことに、ただ一人行動を起こし、事態を変えたのだ。恐るべき人物。行動力の塊。
「凄い人だね」
「ああ。よく知られた人物だ。尤も、ネルリネにずっと留まっているみたいだが」
もう、そんな行動はしなくなった? 燃え尽き症候群かな。
やっと王城に着いた。一階の応接室で話すみたいだ。
「私は中に入らない。エルとシレンがいるはずだ。健闘を祈る」
エリカはここまでみたいだ。他に仕事があるのかもしれない。
応接室の小さな木の扉を開けて中に入る。
中には、見知らぬ黒髪の男女がいた。
「こんにちは」
一応、挨拶は大事だろう。
「今日はお日柄も良く、ってな」
青年は意外なことを言って、朗らかに笑った。




