15話 絶世の美女
「稲が収穫できそうです!」
スキルで成長速度を誤魔化しているから、そこまで達成感がない。たった数日だった。
絶対八十八も手間かけてないよ。水精生機と私のスキルの相性が良すぎた。
「じゃあ、収穫する?」
「そうですね」
部屋から鎌を持ってきた。
異世界召喚されて鎌持ってたら、闇魔法の使い手でめちゃくちゃ強そうだけど、実際は農民女子高生で、魔法は使い方がわからないんだよね。
私が戦闘職だったら、もっとレセニアのためになれたのかもしれないけど。
そんなことを考えるのはやめよう。
稲の収穫を始めたら、植える作業や田んぼの手入れなんかより、刈り取る作業のほうが大変だと気づいた。
中腰は大変だ。『勇者』であるおかげか、そこまで疲れたりはしないんだけど、たまに、ぬかるんだ地面に足を取られて、よろめいてしまう。
もう少し田んぼを乾燥させてからやったほうが良かったかもしれない。
ルリは結構上手だね。聞いたら、手首のスナップを使って刈るのがいいと言っていた。
美味しいお米になってるといいな。
不慣れな作業だったので、全部刈り終えるまでに、二時間もかかってしまった。
「やはり、稲は育ってからのほうが大変ですね」
「そうだね。正直ここまでとは思ってなかった」
成長が早いから余計にそう感じてしまう。幸い、そこまで疲れているわけではない。でも、ほぼ初めての作業で、時間もかかったしミスも多かった。
「次はお米を干します。稲架掛けと言うやつですね」
「稲架掛けって?」
聞くと、すぐに答えてくれた。ルリのズボンには泥がはねている。
「稲架掛けとは稲を乾燥させる手法の一つで、稲を棒にかけて二週間、太陽光と風によって自然乾燥させる手法です」
稲を自然乾燥によって干すってことみたい。
「ですから、私は稲架掛けの柱を作るので、ミカさんは稲を束ねるのをお願いできますか?」
「わかった」
稲を干すのにはまだまだ時間がかかりそうだ。
◇◆◆◆◇
エルとシレンはカリードの助言を受け、ネルリネ興国を訪れていた。
ネルリネ興国はトライソートの東、ホワシーの北に位置する小国で、人口は少ないものの魔法補助による果樹栽培が発達しており、それなりに裕福な国だ。
「“飛翔の勇者”の子か……。カリードは嘘を吐いているように見えなかったな」
“飛翔の勇者”とは、およそ百年前に活躍した勇者だ。その大きな翼で、何もかもを抱擁してきた、天使のような存在。ネルリネ興国の建国にも携わっていたらしい。
「ですね。冒険者ですから、この街にまだ滞在しているといいですが」
「まぁ、その心配は無いみたいだがな」
二人の目前に広がっているのは大きな屋敷だった。屋敷と言ってもそれは日本の平屋に近く、周りの建物と比較しても異質だ。
表札にはモチヅキとある。
「アマネ・モチヅキ、お話でしか聞かない存在ですね」
もう百年も前の出来事だ。今となってはただの英雄譚である。
「そうだな」
二人は扉をノックした。大きな扉ではないが、重厚な装飾が施されている。
「どちら様?」
不意に扉が開く。出迎えたのは、長く白い髪をおろし、ワンピース姿のまさに天使のような絶世の美女だった。
「レセニア王国国王のエル・レセニアだ」
丁寧だが少しぎこちない。あまりの美人に驚いているのだ。
「一国の王が何の用?」
とぼけた様子のアマネだが、その青い目はエルを完璧にとらえていた。




