第二十八話:天才軍師みるちん爆誕!
《……無理じゃね、これ》
弾道計算くんが、苦々しい顔でつぶやいた。
チャットルームに、静かな緊張が流れていた。
過去のレイドイベント解析データは、無慈悲な現実を突きつけていた。
《例年通りなら、あの“カウントダウン神殺し”でのライフはおよそ7億。毎秒のダメージログを見ても、大抵は数千万台が限界だ》
《だが今回は、“累積21億5千万”でオーバーフローさせるのが目標だろう?》
《……そのためには、倒す瞬間に少なくとも15億近い瞬間火力が必要になる》
《はっきり言って、理論上も現実上も、現行のプレイヤー火力では不可能に近い》
全員が黙り込んだ。
それでも、やらなければならない。
──シャルとダイを取り戻すために。
その一瞬に、セインの統制を破るコードを叩き込むために。
『……でもさ』
と、みるちんがぽつりと声を上げた。
『他のプレイヤーも巻き込んだら、ワンチャンあるかもだよ?☆』
『たとえばさ! “トドメさした人に超激レアドロップがある”って噂、流しちゃうとか☆彡』
《は?》
弾道計算くんが目を細める。
《それって、ただのデマだよな……?》
『そーだよ? でも、みんな信じるってば☆』
みるちんは悪戯っぽくウインクする。
『ゲームって、都市伝説で盛り上がるものでしょ? “管理AIセインのアバター用スキンが落ちる”とか、“次回解放エリアの先行アクセス権が手に入る”とか!☆』
『そしたら、ラストの一撃に命賭けるプレイヤー、いっぱいいるよ☆彡』
確かに。
仮に数万人が、一瞬のトドメに全力を出せば──
「……15億、届くかもしれない」
リカがぽつりと呟いた。
* * *
その夜──みるちんはさっそく、一本のショート動画を投稿した。
『みるちんから重大発表〜☆彡』
画面いっぱいに満面の笑みを浮かべて話している。
『“ぶっちぎり極大火力ちーむ”からのお知らせですっ☆次のレイドでは……なんとっ!』
『トドメを刺した人限定の超激レアドロップがあるかもだよぉ?☆彡』
平気な顔でデマを流す。
画面の背景が切り替わり、手描き風のポップな演出ロゴが現れる。
【神殺し作戦:G.O.D.(Grand Over Damage)】
『みんなで、“神”に最後の一撃を叩き込もう!目指せ、超レアドロップ☆彡』
『最終目標は──“神を殺す一撃”☆彡』
その口調はあくまで軽く、楽しげで、だがその裏には、確かな本気がにじんでいた。
『あっ、ちなみに…。ライフが1%になったら、空に信号弾を上げるから、それが合図ねっ☆』
みるちんは、どこかいたずらっぽく笑って言う。
『えーと、これは《みるちんチャンネルのサービス演出☆彡》ということで、公式じゃないよ!☆彡』
みるちんは、ウィンクして最後のひと押し。
『みんな〜! 恨みっこなしだよぉっ☆ 全員で神を燃やして燃やして☆ ぶっ放そうね〜〜〜っ!!☆彡』
* * *
《考えたな。》
これを見た弾道計算くんは、感嘆の声をあげる。
《みるちんちゃんねる!で告知してもほとんど誰も見ないけど、ショート動画なら話題になれば何百万再生も伸びるもんな》
『ちょっと!失礼なこと言ってますけど?★』
文句を言いつつも、口元にはいつもの笑みが浮かんでいた。
まるで“すべて計算通り”だと言わんばかりに――。
レギオン全体が、嵐のような熱気に包まれていく。
――誰もが、まだ知らない“運命のレイド”の幕開けに向かって。




