第二十七話:冷光の降臨
レギオンに、新たな管理AIが降臨した。
>【アップデート完了】
>新管理AI「セイン」起動。
澄んだ鐘の音と共に、都市中枢タワーの上空に青白い光がきらめく。
降り立ったのは、さらりとした銀髪、切れ長の目を持つ魅惑的な美少年アバター。
その声は無機質ながらも透明感があり、どこか抗えない説得力を帯びていた。
>「……こんにちは。レギオンの皆さん」
>「私はセイン。S.A.I.N――Systemic Authority & Integrity Nodeの略称です」
>「あなた方が快適に、安心して遊べるよう、やってきました」
>「過剰な干渉は行いません。ですが、ルールの逸脱には即応します」
>「……ご理解とご協力を、どうぞよろしくお願いいたします」
その瞬間、都市にいた数千人のプレイヤーから歓声と困惑が入り混じったリアクションが飛び交う。
「……男かよ……」
「いや、イケメン過ぎでは……?」
「え、ちょっと待って、声よすぎてヤバいんだけど!?」
「CVどこ!? 誰この声優!?」
『……これはこれでアリかも☆』
みるちんは目を見開き、思わず拍手しかけた手を慌てて引っ込めた。
『ちがうちがうちがう☆彡 彼は……シャルちゃんの敵……なんだもんっ……!!』
そして、みんなの画面にはもう“いつもの名前”がなかった。
──シャルも、ダイも、チャットルームから消えていた。
「ついに、きてしまった……」
リカはかすかに唇を噛む。
セインによる新プロトコルは、旧管理AIの領域を完全に上書きする。
その監視能力は絶大で、発見されないようにするため、シャルもダイも、外部との関係は遮断し、今はほぼNPCの状態に戻していた。
シナガワとイワサキの収容先の詳細がつかめぬまま……。
* * *
希望はチャットに残された、最後の短いメッセージだけ。
【"2の31乗秒問題"でセインの演算を飽和させられれば、制御権が一時的にシャルに移る。その時ならコードを仕込める。チャンスはレイドイベントの"討伐の瞬間"。頼む!】
──ダイ
「……2の31乗……」
リカは思わず指を折って計算しそうになるが、直後に脳裏へ走る理解。
2,147,483,648──
符号付き32bit整数の最大値。
つまり、セインが累積でこの数値を超える“何らかのイベント”があれば、一時的に処理能力をオーバーして異常を引き起こし、その隙にシャルがセインを乗っ取る。
「それが、セインをボスにしたレイドイベント……ってことね」
毎年、年末に開催されるプレイヤー参加型の特殊レイド。管理AI自らが巨大モンスターに扮して出現し、エリア全員で立ち向かうという趣向の人気イベント、通称「カウントダウン神殺し」だ。
例年シャルが扮しているが、今年の目玉はセインで間違いないだろう。
* * *
『全バフ盛りの極大火力出せって話!?私のメテオの出番ってことだね☆彡』
みるちんが目を輝かせた。
弾道計算くんも画面に映るセインを睨みながら、低くつぶやく。
《二進数ベースの累積オーバーフローか……あり得る。だが、そんな一撃を実現するには、チームの連携と――フレーム単位の最適化が必要だ》
リカは深く息を吸い、決意を固めた。
「やろう。レイドイベントまでまだ一か月以上ある……その間に、全準備を終えておく。シャルのコードを、セインの隙に潜り込ませるために」
やるしかない。
大晦日、“秩序の支配権”を懸けた密かな反逆が――レギオンで始まる。




