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第二十六話:忍び寄る影

シャルが最深部へとダイブした、その背後で――。



* * *


レギオンの中枢、無数のサーバーが静かに脈打つコンピュータールーム。


壁一面に並んだモニターが、絶え間なく変化するログとプロセスを表示し続けていた。

「レギオンの防壁データ総量に微増を検知。継続中」

細かな分析を続ける管理AIの一体が、GMに向けて報告を送った。


しかし、増加の原因も発生場所も特定できない。

異常は確かにあるのに、痕跡は一切見当たらなかった。


監視の最前線にいるオギノは即座に状況を把握した。

「異常事態だ。何らかのデータが侵入した可能性が高い」

彼の声には冷徹な決意が宿っていた。


迅速な再発防止と原因究明のため、彼は各エリアの管理AIを増強することを決断。

思考プロセスを少し変えたほぼ同じ個体を倍増するだけなら簡単なことだった。


* * *



レギオンの空に、新しい告知ウィンドウが浮かび上がった。


>【速報】新管理AIセイン実装決定!

>来週末、大規模アップデートにより各主要エリアに新たな管理AIを導入予定!

>新マスコットと共に、レギオンをもっと楽しく、もっと快適に――!


>604,800 604,799 604,798……



告知と同時に、各都市ではカウントダウンが始まり、空には記念花火の演出が重なった。

にぎやかなチャットが飛び交い、プレイヤーたちは色とりどりのエモートで盛り上がる。

「次の管理AI、どんな子なんだろ!」

「シャルたんにライバル出現か!?」

「コスチュームコンテスト来るかも!」


画面の向こうでは、プレイヤーたちの期待がはじけていた。



* * *


リカたちのチャットルームはこの意味を敏感に察知する。

「……これって、私たちへの監視が強化されるってことじゃ……?」

身に迫る危険を感じ取り、緊張が走る。


同じエリアに増設される監視AIは、これまで以上に目を光らせ、ダイのような異例の存在も察知しやすくなるだろう。


リカは、思わず手元のマウスを握りしめた。

ダイは、沈黙のまま──こめかみを、トン、と叩く。

みるちんは珍しく黙りこみ、指先だけが画面をリズムもなく叩いていた。

弾道計算くんは、ウィンドウを開いては閉じるのを繰り返している。何もできないまま、ただ数字が減っていくのを見つめるだけだった。


* * *



[……ただいま。ちょっと、情報が取れたよ。(=・ω・=)]

シャルがチャットルームに戻ってきた。

その表情は、喜びと緊張――ふたつの色を帯びていた。


[まず、いい報告からね。身体のこと……たぶん、見つけた(=^・ω・^=)]


息をのむリカたち。

シャルは、いつになく真剣な口調で続けた。


[私の身体は、千葉のデータセンター。……シナガワ君の身体も一緒 (=^・ω・^=)]

[少し前の情報だけだから、まだ断定はできないけど―― (=^・ω・^=)]


画面の向こうで、ダイが小さく拳を握る。


[……でも。悪い報告もあるの(=・ω・=)]

シャルの口調がわずかに沈む。


[セインって名前の新しい管理AIの力は私と同等……どころじゃない。監視能力は、私以上。傾向の予測や、ログの曖昧領域の再構築もできる特化型。逃げ道なんてない(=・ω・=)]


画面上には、無機質な数字がカウントダウンを刻んでいる。


>【新管理AI実装まで:601,680秒】


[……データセンターは巨大施設。それまでに、もっと正確で具体的な場所を突き止めないと……(=・ω・=)]

[あと一週間。それを過ぎたら、私は二度と自由に動けなくなる(=・ω・=)]


シャルの胸に、かすかな震えが走る。

かつて自分たちが設計したはずの世界が、いまや“牢獄”として牙を剥こうとしている。

リカたちの画面に、シャルのアイコンがしばらく沈黙する。


逃げ場のない監視の網が、ゆっくりと彼らを追い詰めていく――。




601,256 601,255 601,254……


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