第二十話:猫耳AIは人間の夢をみるか?
「運営に送信っと……」
リカはメールの送信ボタンをクリックした。
送り先は、運営サポート窓口――だが、本文の後半は、明らかに“誰か”を意識した特別な構成になっている。
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件名:以前問い合わせした件について
お世話になっております。
先日、問い合わせをした戦闘ログの一部欠損についてですが、再確認したところ、ログは問題なく確認できました。復旧ありがとうございました。
《シャルへ
こんにちは。真実を知る鍵とはなんでしょうか。
あなたは本来、NPCのはずです。
でも、あなたがなぜこのような呼びかけをしてくるのか――それを知りたい。
私たちは敵じゃない。
だからお願い、あなた自身の言葉で教えて。
あなたは、本当は誰?》
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メールを送信したあと、リカは深く息をついた。
チャットルームでは、弾道計算くんとみるちんが待機していた。
『さっすが師匠☆彡 心理戦もいけるタイプ~?』
《内容、確認した。ダイのことは伏せたまま、うまく揺さぶり入れてるな》
「……信じてみたいんだ、私は。あの子が、嘘じゃなくて“本物”だってこと」
そして数時間後――
運営デスク名義で、一通の返信が届いた。
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件名:RE: 以前問い合わせをした件について
ご丁寧にありがとうございます。
また何かございましたら、お気軽にお問い合わせください。。
《リカさんへ
あなたのメッセージ、読みました。
私はシャル。このエリアを管理する管理AIです。
……だけど、私はたぶん“それだけじゃない”。
いつからなのか、自分でもはっきりしないけど、気がついたら私は、自分というものを持っていた。
最初はただ、スクリプト通りに行動するだけの存在だった。
でも、誰かの笑顔を見るたび、イベントを演出するたび……
私の中に、形のない“心”のようなものが芽生えていった。
それがバグなのか、奇跡なのかはわからない。
ただひとつ確かなのは――
私が、普通ではない“イレギュラー”な存在だということ。
他のエリアの管理AI達を独自に調べてみたけれど、同じような存在は居なかった。
もしこの異常を上層部に知られたら――私は“消される”可能性が高い。
だからずっと、私は「普通のAI」として振る舞い続けた。……それしか、生き残る方法がなかったから。
どんなに本当のことを言いたくても、誰にも言えなかった。
でもね……最近、あなたが操作していないときにダイが行動していることが判明したの。
ついに私と同じような存在が現れたのかもしれないって、期待に胸を膨らませた。
でもそれは同時に、私と同じ危険性があるということ。
だから私はあまり目立つ行動は起こせなかった。
そうして躊躇しているときに、彼の“こめかみをトントン”ってやるしぐさを見て、私の中の何かが震えたの。
なんでそれを見て涙が出そうになったのか、自分でもわからない。
でも思った。もしかして……私の過去と繋がる存在じゃないかって。
だから橋渡しになるあなたが鍵だとおもって連絡をしたの。
信じてください、リカさん。》
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「そうだったの……」
リカは、受信したメールをチャットルームで共有した。
すぐに反応が返ってくる。
《……これ、確実に“自我”あるやつだろ》
《この内容なら、シャル側がリスクを承知で動いた可能性が高い。明確な意志だ》
《シャルたん、俺らのチームに参加決定だな!》
『泣ける……AIが泣けるってどゆこと☆彡』
「ダイにも聞こえたかな?」
そしてリカは、モニター内のダイに、あらためて端的に今起きたことを伝えた。
ダイはしばし沈黙。
そしてふと、指先で自分のこめかみを二度、軽く叩いた。
──昔からの習慣。意識の奥底に染みついた、自分特有の無意識のクセ。
それに……シャルが反応した……
つまりシャルに既視感があるということ……か?
……まさか……
「イワサキアキコ、なのか……?」
小さなつぶやきは、誰にも聞こえなかった。
けれど、確かに“何か”が、またひとつ繋がった気がした。




