第十九話:You've Got Mail
「……ん?」
深夜、リカのモニターの端にぽつりと通知が届いた。
《星結び短冊:新規メッセージがあります。指定の場所で受け取ってください。》
見慣れない文面に、リカは一瞬眉をひそめた。
(星結び……? そんなシステム、まだ生きてたっけ……)
それは懐かしい名前だった。以前、七夕イベントで設置されていた“願い事短冊”。
遊び半分のネタ投稿ばかりが並んでいたあの頃の、名残のような存在。
「……確認する価値は、あるかもね」
リカはキャラクターのダイを操り、忘れられた天の川オブジェクトのある裏路地へと向かった。
夜の街角、ほとんど使われなくなったスペースに、朽ちかけた天の川のイルミネーションがまだ微かに光を放っていた。
その真下にいくと、どこからか風鈴のような涼やかな音とともに天の川の光が強くなった。
そして手の中に、一枚の短冊がふわりと降りてきて静かに停止した。
その内容は、思いも寄らないものだった。
りかさん
あなたに伝えたいことがあります。
私はレギオン開発者の一人、シナガワジュンです。
文字数制限のために詳しくは書けませんが、
私は他の開発者によって封じられたか、消されたかもしれません。
しかし、今、ダイとして目覚めています。
私のことも心配ですが、
同じく捕らわれているであろうイワサキアキコを助けたい。
力を、貸してほしい。
リカのマウスを持つ手が止まった。
心拍がじわりと上がっていく。
息をのむ。
これは――誰かの悪質なジョークか? それとも、本当に……。
「……ダイ……」
彼女の視線の先、画面内のダイはわずかに顔を上げ、こちらを見ていた。
その目は、決意を感じる力強い感情を宿している。
「……うん。信じるよ」
小さく、しかし強く。独り言のようにつぶやいた。
それはモニター越しにも、しっかりとダイに届いたようだった。
彼の肩が、すっと軽くなるように見えた。まるで、長く背負っていた何かを、いま手放せたかのように――。
画面の中のキャラクターの演出ではない。これは明らかに“反応”だった。
リカはすぐに仲間用のグループチャットを立ち上げた。
数分後、秘密のチャットルーム
『え~? 星結びの短冊ぅ? なつかし~☆彡 あれまだ動いてたのー?』
《それよりも内容だ。マジならかなりヤバい話だ、これ》
弾道計算くんの声も真剣だった。
リカは、短冊の全文をふたりに共有した上で、言った。
「……これを読んだ後のダイの様子、やっぱり普通じゃなかった。反応が“キャラ演技”じゃないっていうか……生きてる誰かの感情だった」
《まじで、NPCの中に意識が入ってるって話かよ……夢あるけどこわ~》
《でもシナガワ、イワサキの両名が捕らわれているなら、冗談じゃすまされない》
弾道計算くんは渋い声で呟いた。
『で、次はどうするの?』とみるちん。
「……シナガワって名前を出された以上、私たちができるのは――この“何かを知っていそうなAI”、つまりシャルの情報を探ること」
リカは息を整えた。感情が先走れば判断を誤る。だが、心はもう、動き始めていた。
「ダイの件は伏せたまま、シャルに探りを入れる。あの子はただの飾りキャラじゃない。何か知ってる。何か隠してる」
《やっぱり、来たねシャルたん!! えーでも複雑だよ俺……》
相変わらずシャル絡みになると冷静さを失う弾道計算くん。
『落ち着いて☆彡』
3人の間に共有されたひとつの認識――シャルは鍵だ。
真相を暴くための、次の一手が定まった。




