46. グルンジ救世神祭り Ⅱ (宴の始まり)
天海聖暦771年 秋月1日 朝
晴天の朝、グルンジ救世神祭りのパレードが始まった。例年なら第一王城通り、第二王城通り、南王城通りを近衛兵団員が3つの編成に分かれ、グルンジ救世神広場まで行進する。今年は来年のラーメンビエンナーレの来賓パレードのシミュレーションの為に、第一王城通りのみでの行進となった。パレードの規模が縮小される代替措置として歴代の近衛兵団で人気が高かった団長・副団長と退役近衛兵団員を大勢参加させた。中でもダントツの人気だったベンとケイ、元団長・元副団長の夫婦が先頭で行進すると発表されて街中が盛り上がった。
このパレードの規模を縮小し退役近衛兵団員達を行進に参加させた本当の理由は、安全対策だ。例年通りに現役の近衛兵団員を3つの通りの行進に参加させたら、王家の護衛が手薄になる。まして、世界中から恨みをかっているトラキール帝国の皇帝一家が広場で国王と同席するのだ。近衛兵団員と王国軍隊員を総動員して不測の事態が起きないようにする必要があった。
「ベン団長!」「ケイさまーー!」
第一王城通りの東端からパレードが始まると通りの両側に待機していた大勢の王国民が歓声を上げた。ベンとケイは国王陛下から下賜された美しい剣を掲げて行進している。
2人が持つその剣は、剣身が太く長く重い。柄部分の柄頭と鍔の中央に大きな魔宝石が輝いている。グリップには小さな魔宝石が埋め込まれている。剣を掲げると魔宝石が剣全体を輝かせる。同じく下賜された衣装に取り付けられた魔宝石が輝いて筋肉質の肉体をより美しくしている。とても神々しく見える2人に観客は夢中で声援を送っている。
2人を先頭に、剣士用の豪華な衣装を着た300人程の退役近衛兵団員達は、長い第一王城通りの行進を終えてグルンジ救世神広場に入り整列した。この大きな広場は、『王国大広場』と呼ばれていた。転生者で救世主と呼ばれたシマモト・ヨシオが逝去して10年後の天海聖暦758年、シマモトを救世神と崇めるとして王国大広場に石像が建立された。同時に広場の名称を『グルンジ救世神広場』に変更。さらに救世神を称える秋祭りとして同年にスタートしたのがこの祭りだ。
広場には丸太を組み上げた特設ステージが作られた。ステージ上の右側にはベルナード国王とアーサー第一王子の席がある。左側にはベルゴス皇帝、マリオラ皇妃、そしてイサドラ皇女の席が用意された。行進者が整列すると救世神賛辞式が始まった。
ベルナード国王が三神(3人の救世主)への感謝の意を表した。その後…
「例年ならここで祭りの開催宣言をするところじゃ。が少し待て。今年は発表することが沢山ある」
進化した魔石スピーカーのお陰で、ここでの演説は王都のどこでも聞くことが出来る。
「来年の春月、このグルンジ救世神広場で、第1回目のラーメンビエンナーレをトラキール帝国と共同で開催する」
アーサー王子から補足の説明があった。ラーメンビエンナーレのシミュレーションとして、この広場に天才ラーメン王が考案した葱ラーメンの屋台を筆頭に、美味しく楽しい屋台を準備したと話すと観衆は盛り上がった。
次に、ゲストとしてベルゴス皇帝が挨拶した。まず三神へ畏敬の念を述べた。そして本題だ…。
「またワシはラーメン戦争を起こしてしまった! 聞いてくれ」
トラキール帝国が支援をしている3つの島国で構成されているガイロ王国連邦で問題が発生した。不祥事により、ブン・ロイダ王の王位剥奪とロイダ王国の廃国が決定したことは皆が知っていると思う。今、連邦内の2つの国で、廃国となった島国の統治権を争っている。話し合いでは決着がつかずいずれは、双方が望まなくても武力戦争に発展しそうだと判断した。
そこで、来年のラーメンビエンナーレに、ガーゴ王国とイブロ王国に、トラキール帝国側の店として2国を参加させる。そこで勝った方に旧ロイダ王国(統治権)を与える。この提案を両国が受け入れた。これは連邦国の国民が誰一人として命を落とさない、怪我もしない戦争だ。それを理解し、ラーメン戦争を楽しんで欲しい。
「詳しいルールはイサドラが話す」
「先日、天才ラーメン王のゴウさまと話し合い、採点評価基準を決めました」
〇食べて美味しいのは最低条件とします
〇今まで見たこと食べたことがない新しいラーメンを期待します
新しい味、新しい作り方、新しいビジュアル…これらを特に評価します
〇採点評価人は、採点発表当日まで秘密です
「来年、斬新で楽しく自由なラーメンを食べるのを楽しみにしています」
「これで救世神賛辞式を終了とする」
「それでは天海聖暦771年のグルンジ救世神祭り『宴』の始まりを宣言する!」
アーサー王子の開幕宣言で8日間のお祭りの宴がスタートした。普段は3大グルメストリートと呼ばれる第一王城通り、第二王城通り、南王城通りは、祭り期間中は馬車や荷車の通行が制限される。通りには、レストランやホテルが飲食屋台などを出店する。テーブルや椅子も並べられる。近年は他の通りや路地裏にも飲食屋台が立ち並ぶようになり、王都ラグールの街全体が食の祭典のようになる。
この後、広場の特設ステージは木工職人により速やかに撤収された。広場の中央には巨大なテントがいくつも張られた。テントの中には沢山のテーブルと椅子が並べられた。




