45. 婚約
3人は談話室に入った。
「最初にお願いします。さま呼び禁止です」
「賛成!」
「こら! まつたくサクラは… 帝国の御姫様ですよ」
「3人同じ歳です。名前のみでお願いします」
「分かりました」
「最初に、マリアンヌ、サクラ、正式なご婚約おめでとう!」
「ありがとうございます! 私をマリーと呼んでください」
「分かりましたわ。マリーとサクラに婚約祝いです。
2人に豪華な金の装飾が施された小箱が渡された。小箱を開けると、マリーには中心がゴールド色に輝く透明な美魔石のペンダント、サクラには全体がピンク色に輝く美魔石のペンダントが入っていた。どちらも貴重な品で、幻の宝石と言われる美魔石だ。
「こんな高価な品を頂けません」
「本音が聞きたいの。聞きたいことがあるわ。そのお礼も兼ねているから受け取ってね」
「イサドラ、何が聞きたいの」
「まず初めに、婚約が決まった時のことを聞かせて」
◦◦◦◦◦◦◦◦◦
《天海聖暦771年 春月18日》
「ゴウ殿、娘のマリーと結婚してくれないか」
マリーとサクラの父親ジャン・リュック・アントーニがゴウをアントーニ公爵邸に招待した。妹のソフィーも加えた5人の夕食会の席。そこでジャン・リュックが娘マリーとの正式な婚姻の申し出をした。突然の申し出にゴウは言葉が出ないようだ。
「私達、親子4人とも覚悟が出来ている」
「何の覚悟ですか?」
「ストレートに聞くのでゴウ殿の本音を聞かせてくれないか」
ゴウの恋人ナギサとそっくりな末娘ソフィーと結婚したい気持ちはあるのか?
マリーへの気持ちは? サクラへの気持ちは?
「私は3人ともゴウ殿に嫁がせる覚悟が出来ている」
「……」
「ソフィーはゴウ殿が望むならと言っている。マリーとサクラはすでに婚約が決まったと思っている」
2日前、ジャン・リュックはベルナード国王から王城に呼び出された。国王はトラキール帝国とのパーティーでマリーとサクラをゴウの婚約者と言ってしまった。ゴウが恋人のナギサとそっくりなソフィーと結婚したいと思うなら婚約をさせること。その場合でもマリーとサクラも必ず婚約をさせること。しかも早急に動いて欲しいと命令された。
マリーとサクラはテーブルの下で手を繋ぎ、ゴウの言葉を不安な気持ちで待っていた。2人はゴウと出会った時から運命の相手だと感じていた。愛おしい感覚がどんどん強まっていた。しかし、ゴウの転生前の恋人ナギサ(転生後の母親リーナ)とそっくりな妹のソフィーに会ったら、ゴウの愛情は妹に全て注がれてしまうのではと恐れていた。
「ソフィーさんと結婚する気持はありません」
ゴウは正直な気持ちを話した。ソフィーを一目見てナギサだと思った。すると転生前のナギサとの幸せな記憶が頭の中に一瞬で駆け巡った。しかし、ナギサとは違うと知らされてショックを受けた。冷静になった今は容姿のみでソフィーと向き合うのは失礼だと思っている。
「ありがとう、ソフィーのことは分った」
続けて、ゴウが話し出す前に、もう一つ言わなければならない。結婚の意思を1人ずつ確認して欲しいとマリーとサクラに念を押されていた。
「ゴウ殿、娘のサクラと結婚してくれないか」
「……」
ゴウはとても悩んでいるようだ。サクラが手を上げて助け舟を出した。
「ハーイ、話してもいいですか。ゴウは真面目だから、マリーと私のかどちらか一人を選ばなくてはいけないと思っていませんか。それならマリーを選んでください」
「えっ」
「でも、私も2番目として選んでくださいね」
「……」
「私達は、王様にベルゴス皇帝の前で婚約者として紹介されてしまいました。我が国の王様を嘘つきには出来ないですよ」
「こら、まったくサクラは。王様の話はしないはずよ」
「分かりました。本当の気持ちを話します」
ゴウがマリーとサクラに初めて会った時から2人に運命的な何かを感じていた。この2年間で、好きという気持ちから愛しいと思う気持ちに変化した。それも震えるほどに。困ったのは自分がどちらを選ぶべきかと考えても結論を出せないことだ。優柔不断だと自分を叱った。何度も自分と正直に向き合っても2人とも大切な運命の人だ。
「ジャン・リュック・アントーニ公爵様、ご令嬢のマリアンヌ・アントーニ、サクラ・バートリッチ・アントーニのお2人と正式に婚約をさせてください」
「ありがとう! ゴウ殿!」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「それではゴウ殿、早速、今ここで婚約の儀を執り行ないます」
左右に壁の扉が開くと、なんと!なんと! 正面の椅子に立会人としてベルナード国王が座っていた。
「えっ、えーーー!」
左側の椅子にはゴウの親代わりとしてベンとケイが座っていた。全てが計画されていたのだ。サクラも今日はメイド衣装ではなくドレス姿だ。国王もベンもケイも驚くゴウを見て笑っていた。ジャン・リュックとソフィーが右側の椅子に座ると婚約の儀が始まった。
「婚約の宣誓をする前に、両家から祝福宣言または反対宣言をせよ!」
形式的な流れだが、必ず両家の宣言を受けることになっている。最初にマイヤー家を代表してケイが宣言書を読み上げた。
【祝福宣言・マイヤー家】ケイ・マイヤー
ゴウが2人に初めて会った時のことを思い出します。マリーもサクラもゴウに一目惚れしたのは一目瞭然でした。それよりもゴウが2人を見て呆然としていた姿には驚きました。少し危険と感じて、貴族の娘には手を出したら大変なことになると脅かしてしまいました。失礼しました。ゴウはナイスガイです。主人のベンの次にいい男です。
この婚約を祝福することをここに宣言します。
【祝福宣言・アントーニ家】ソフィー・アントーニ
マリーお姉さま、サクラお姉さま、私は怒っています。ホッとしています。そして感謝しています。ゴウさまの恋人だった母上そっくりの私を、ゴウさまに会わせないと決められた時は腹が立ちました。お姉さま達はこの2年間、屋敷ではゴウさまのことでいつも盛り上がっておりましたね。ゴウさまのことが大好きだと伝わりました。お姉さま良かったですね。おめでとうございます。
ゴウさまとの婚約を祝福することをここに宣言します
ソフィーがホッとしている、感謝していると言ったのは…
転生者やその血筋の者は、天寿を迎えるまで18歳の容姿のままだ。陰から盗み見たゴウの姿は若かった。もし、ゴウにソフィーが選ばれ、結婚した場合、あの18歳の若さのままのゴウと一生暮らすことになる。自分は18歳の容姿のままでも相手が若いままなのは嫌なのだ。この国では40歳ぐらいの年齢なるとそこから容姿が老けなくなる。その容姿の男性が彼女の理想だ。まさに父親が理想像だ。そんなソフィーはゴウを見ても運命の相手だと強く惹かれることはなかった。
ゴウが姉達を選んでくれてホットしている。そして、ゴウの心を掴んだ姉達に感謝している。
「それでは宣誓書にサインをするのじゃ」
3人がサインをした。それを確認した国王が立会人としてサインを入れて『婚姻契約宣誓書』が完成した。つまり正式な婚約とはこの国では結婚したこと同じとみなされる。まして国王が立会人なら、国王以外にこの婚約を破棄することは出来ない。
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「わー、面白かった。話していただいてありがとう」
「でも、ゴウは少しずるいですよ。結婚させてくださいと言わず、正式に婚約させてくださいと言ったのよ」
「取りあえず、婚約で場を収めようとしたわ」
「正式な婚約という意味の重大さを知らなかったようです。ゴウは驚いていました」
「正式な婚約が済んだので、イサドラはゴウのことは完全に諦めてね」
「そのことで2人に聞きたいことがあるの。ここからの話は3人の秘密と天に誓ってね」
「分かった。天に誓います」「私も3人だけの秘密と天に近います」
「ゴウさまに最初に会った時の衝撃のことよ」
世界一美味しいラーメン宣言をした戦艦でゴウに会った時だ。最初は身体というより心が震えた。出会ってはイケナイ人と出会ってしまったと思った。そう思ったら身体中の血が湧き踊り心が締めつけられた。今まで経験したことがない感覚だった。あの異様な衝撃はなんだろうか? あれからずっとゴウのことが気になって仕方がない。心がゴウを欲している。ゴウを諦めてと言われても…
「2人の場合は?」
「うーん、私は最初に運命の人と感じたわ。一目惚れより強い感覚」
「私も一瞬で愛して守りたい人と感じた。これは運命だと」
「この異様にゴウさまに惹かれる感覚は、転生者の血筋と関係があると感じているの」
マリーは転生者の娘、サクラは転生者の孫と情報を掴んでいる。そしてゴウも転生者だ。
「私達の情報を全部お持ちなのね。でもイサドラは転生者と関係がないでしょう」
「それがね、ずっと疑問に思っていることがあるの」
「どんな疑問なの?」
「私の祖母は転生者だったのではないか? そう感じるのよ」
「それはゴウに一目惚れして思い込みが激しくなっただけではないの?」
イサドラは、祖父と会ったことはないが母のマリオラ皇妃から色々な話しを聞いている。しかし、祖母のことは一切知らされていない。
母も実の母親に会ったことがなく、父からも何一つ教えてもらえなかったらしい。いつしかマリオラの母(イサドラの祖母)の話は禁句になっていた。名前すら知らない。これはかなり異常なことだ。
「そして決定的なことがあるの。本当にこれは秘密よ。絶対!」
「天に誓いましたから、絶対秘密は守ります」
「はい私も絶対守ります。天の誓いに念を押すとは? 余ほどのことですね」
「母は化粧を落とすと、若返るの!」
母のマリオラは特異体質のために老化しない。皇帝の父と合わせる為に化粧で年齢相応の顔にしている。イサドラの18歳の誕生日に「あなたも私と同じ特異体質よ」と母から突然告げられていた。ダークリス皇帝家族のみが知る極秘事項だ。
「ぇーーーーっ! 衝撃です」
「話が本当なら、イサドラも転生者の血筋なのですね」
「この話をゴウにしたの?」
「まだ話していないわ。来年の第1回ラーメンビエンナーレが終わったら話すわ」
「2人には理解して欲しいの。ゴウさまとの結婚の邪魔は一切しないわ。でもゴウを思う気持ちは、頭から、心から、身体から排除出来ないどうしようもない苦しさを分かって欲しいの。ゴウさまとの会談は私の生きがいになりそう。これだけは続けさせてね」
「分かりました」「はい、わかりました」
マリーは複雑な表情で、サクラは少し困った苦笑いを浮かべた表情で答えた。
2人は談話室を退出し、入れ替わりにゴウが入室した。




